慶應MCCコラム
はたらく人のための意思決定論

人はなぜ、意思決定で悩むのでしょうか。どうすれば、後悔を減らし、意思決定の質を上げられるのでしょうか。このコラムでは、一人のビジネスパーソンのキャリア選択を題材に、私たちがぜひ知っておきたい意思決定の理論を紹介します。
四回にわたって、Aさんがキャリア選択する際に何をどのように考えたのかを見ていくことにしましょう。

第一回 リスク選好の罠

ある日、日用雑貨メーカーのマーケティング担当をしているAさん(34歳)のもとに人材紹介会社から電話が入りました。ある外資系企業が日本進出にあたり、マーケティング・マネジャーを探しているというのです。将来のキャリアに漠然とした不安を感じていたAさんは、話を聞くことにしました。

すると、800万円を基準年俸に、個人業績に連動した変動があり、うまくいけば200万円のボーナス、下手をすれば200万円のペナルティがあることを知りました。Aさんの現在の年収は600万円なので、最高一千万円は破格です。思わずその場でOKしそうになりましたが、「わかりました。すこし検討してみます」と冷静さを振る舞い、その日は帰ることにしました。

帰り際、喫茶店の出口で「できれば2日以内にお返事を頂けませんか。先方はお急ぎですから」とエージェントに言われ、ふたたび冷静さを失い、OKしそうになるところでした。

 

リスク選好の罠

一般に、リスクとリターンには正の相関があります。高い年収(リターン)には高いリスクがつきものです。ところが、人は欲しいものがあると無条件で欲しくなるものです。時間を限られ るとなおさらに欲しくなり、リスクがあってもそれが見えなくなり、うまい話に乗ってしまう傾向があります。これをリスク選好の罠と呼ぶことにしましょう。

 

リスク選好の罠に陥らないためには、リスクの大きさを冷静に分析することです。人材紹介会社は、業績が悪いと200万円のペナルティがあると言っています。基準年俸から200万円を引くと600万円なので、現在の年収と同じになり、最悪の場合でもリスクはないように見えます。

 

しかし、ここで考えてみましょう。そもそも自分の年収を基準に考えてよいのでしょうか。答えはノーです。より客観的な参照基準点(レファレンス・ポイント)を用いるべきです。より具体的には、同業界のマーケティング・マネジャーの市場価値を参照基準点に考えたらどうでしょうか。仮に、同業界のマーケティング・マネジャーの市場価値が一千万円平均だとすると、基準年俸の800万円は安いことがわかります。

 

「今日はあぶなくリスク選好の罠にはまるところだった。これからは、リスクに目を向けるように気を配ろう。それに自分の年収を基準に考えてはいけないなんて…。危なく自分を安売りす るところだった」

 

 

 

次回は、プロスペクト理論を用いて不確実な状況における人間心理について考察します。

第二回 プロスペクト理論

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※2012年3月時点での予定です。日程・内容等は都合により変更となる場合がございます。