慶應MCCコラム
はたらく人のための意思決定論
人はなぜ、意思決定で悩むのでしょうか。どうすれば、後悔を減らし、意思決定の質を上げられるのでしょうか。このコラムでは、一人のビジネスパーソンのキャリア選択を題材に、私たちがぜひ知っておきたい意思決定の理論を紹介します。
四回にわたって、Aさんがキャリア選択する際に何をどのように考えたのかを見ていくことにしましょう。
第四回 標準偏差:定量的なリスクリターン分析
Aさんは人材仲介会社を通してこの企業の人事担当者と会うことができました。年俸が気になっているAさんに対し、人事担当者は同社のマーケティング担当者30人の年収一覧(過去3年分)を見せてくれました。

担当者曰く、「年俸制を導入したばかりの3年前をみると、評価にメリハリがついていません。しかし、最近は制度の運用が厳格になり、プラス評 価とマイナス評価のメリハリがつくようになり、それが分布のバラツキとして現れるようになりました」
たしかに、3年前は年収750万円から850万円のところに山があったのに対し、1年前は山がなだらかにり、1000万円プレーヤーも複数出ています。同社は成果に応じた報酬体系のため、年齢や年功はまったく関係ないそうです。平均年収は791万円で基準年俸の800万円を下回っていますが、Aさんが現在もらっている年収600万円と、Aさんが住んでいる借上げ社宅の家賃相当100万円(年間)を足した700万円と比較しても高くて魅力的です。
Aさんは、700万円を上回る可能性がどれくらいあるのか定量的に測りたくなり、明日中に最終判断することを人材仲介会社に約束して、この日は帰ることにしました。
標準偏差:定量的なリスクリターン分析
意思決定論では、バラツキ(振れ幅)のことをリスクと言います。年収一覧を見ると、30人の平均年収(加重平均)は791万円で変化はありません。しかし人数の分布をみると、リスクは年々大きくなっていることがわかります。このリスクを計算式で算出してみましょう。
たとえば3年前であれば、
リスク=STDEV(600,650,650,…950,950,1000)となります。結果は99.2(万円)となります。同じように2年前、1年前を算出した結果が表2です。
明らかにリスク値(振れ幅)が大きくなっていることを数字で確認できました。
次に、現在の会社でもらっている年収600万円+家賃相当100万円=700万円を上回る確率を算出してみましょう。
3年前の段階で700万円を上回る確率=100-NORMDIST(700, 791.7, 99.2, TRUE)*100で計算できます。結果は82.2%になります。つまり、82.2%の確率で700万円を上回ることがわかりました。各年を同様に計算すると表3のようになります。

「成功確率が70〜80%あるなら転職しても悪くはないだろう。とはいえ、平均年収が3年間同じでもリスクが大きくなることで成功確率は年々さ がっていくわけだから、30人の平均以上の努力をしなければ後悔することになる。まぁ、『迷ったらやる!』だな。新しい人生の扉を開いてみよう」
(了)



