KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

2017年09月12日

メキシコ一家、TOKYOを食べまくる

山内 久未

“foodie”という英語があります。食通、グルメな人という意味です。
I‘m a foodie. と言うと「私は美味しいものを食べるのが大好き=食いしん坊」という感じでしょうか。
最近はインスタグラムでも #foodieというハッシュタグがよく使われており、世界中のありとあらゆる食べ物の写真がずらりと表示されます。

外国人、特に欧米人の食べっぷりは実に豪快で見ていて清々しいほどですが、中でもこの春3組目にTriple Lightsで出会ったメキシコ系アメリカ人Gabrielさんご一家のfoodieぶりは間違いなく歴代No.1!今回は思い出すだけでお腹いっぱいになる圧巻の食い倒れ模様をリポートしたいと思います。

Kimmy meets Foodie Family

“We love Ramen and Yakitori.” 
ラーメンと焼き鳥が大好きです。
“Our family looooooves food.” 
僕たち家族、食べることが大大大大大大好きなんです。

Gabrielさんとのやりとりは、この2行のメールから始まりました。文面から強力なfoodieっぷりがびしびしと伝わってきます。聞けば奥様と小学生の娘さん、息子君4人での家族旅行とのこと。ご相談の末、浅草へ行った後は上野公園でお花見をして、皇居、秋葉原と回ることにしました。

「おすすめのローカルフードはなに」「秋葉原で美味しいお店教えて」「ところでラーメン食べるならどこがいいかな」
観光プランもそこそこに矢継ぎ早に送られてくる、食べ物についての質問の数々。
これは相当なツワモノに違いない・・・メールでのやりとりを進めていくうちに、私の頭の中のご家族像はだんだんと膨らみ、パパは石塚英彦さん、ママはマツコ・デラックスさん、娘ちゃんは渡辺直美さん、息子君は内山信二さん・・・それぞれが陽気なメキシカンになったような、そんなビジュアルイメージができあがりました。

そしてツアー当日。待ち合わせのホテルロビーでご家族を探します。石ちゃん率いるアミーゴまいうーファミリーを探してきょろきょろしますが、そのようなご家族は見当たりません。

と、その時です。

Hi! Are you Kimmy?

階段を下りてきたジョージ・クルーニー似のがっしりとしたダンディーなイケメンに声をかけられ、私はひっくり返りそうになりました。
マツコと思い込んでいた奥様は、米倉涼子さんのようなグラマラスな美女
娘ちゃん、息子君も、どこかのアイドルグループにいてもおかしくないような、ご両親似の美形キッズ
えーーーーーーーーーーーーーー!!!!!
超美男美女一家・・・!!!!!!

メールで想像していたイメージとのあまりのギャップにびっくりし、自分と同姓同名のガイドがいるのではないかと一瞬思いましたが

「いやぁ、今朝は初めて和朝食を食べたけど、美味しくて完食しちゃったよ。湯豆腐と焼魚が美味しかったよね」
「ところでパパ、あそこで売っているのは何かしら・・・?アップルパイ?」
「わぁ!美味しそう!おやつに買っていこうよ!すみませーん!アップルパイください!」

目の前で繰り広げられる会話に「ああ、やっぱりこのご家族に間違いない・・・」と確信したのでした。

メキシコ一家、浅草を食べまくる

朝10時。
朝食からさほど時間は経っていないはずですが、浅草に着くなり「なんか食べたい」の大合唱。
ホテルで買ったアップルパイに、仲見世通りでストロベリーソフトクリームと大きなホイップ入りのメロンパンと大袋の雷おこしを追加し、お参りもそこそこに浅草寺境内のベンチへ。買い込んだおやつを並べ、片っ端から美味しい美味しいとほおばるご家族に、次に行く上野公園の話題を振ってみました。

「今日はお花見といってピクニックを楽しんでいる日本人も多いですよ。屋台もたくさん出ていますから行ってみます?」と提案するともちろん大賛成!さっそく路線バスで移動することにしました。

浅草寺からバス停に向かう途中、米倉ママの足が止まります。
「ちょっとスタバに寄ってもいいかしら?」
ええ、もちろんですとも。子供たちは見てますから買ってきてください、と答えて、パパと子どもたちとおしゃべりながら待つこと5分。帰ってきた米倉ママの手には、日本ではなかなかお目にかかれないVentiサイズ(590ml)のコーヒーとなぜかサンドイッチ

え。

「ちょっと小腹が空いちゃって・・・」と巨大なコーヒーとともにサンドイッチをむしゃむしゃ。

え。

さっきのストロベリーソフトクリームとメロンパンと雷おこしとアップルパイと朝食の和定食はどこに・・・
戸惑う私の目の前で米倉ママはさらりとサンドイッチを平らげ、コーヒーを飲み干し、「さあ!屋台に行くわよ!」と颯爽と歩き出したのでした。

メキシコ一家、上野を食べまくる

上野公園は、遅咲きの桜がようやく開花し、大勢の花見客で賑わっていました。たこ焼き、フランクフルト、ベビーカステラに焼きそば・・・ずらりと視界の端まで並ぶ出店の数々。賑やかなお祭りムードと漂う美味しそうな匂いに、もうご家族の食欲は最高潮です。

「おおーーー!この焼イカ美味しそう!!」
「こっちの牛カルビ串は?」
「Kimmy!このパンケーキみたいなのは何?OKONOMIYAKI?」

目についた食べ物を次から次へと買いまくり、焼きイカと牛カルビ串と焼きそばとお好み焼きとビールとラムネを抱えて、急遽桜の下でピクニックをすることになりました。
いつもなら桜を見ながら桜についてあれこれ説明するところなのですが、クルーニーパパも米倉ママもアイドルキッズたちも、「おお!これ美味しいな」「あ、それ食べたい。ちょっとちょうだい」と食べることに全身全霊が傾けられていて、私の話なぞ聞く雰囲気ではありません
しかしまあ、4人とも食べる姿がとっても本当に楽しそうで、美味しそうなのです。そんな笑顔を見ているうちになんだか私も、今日は“ガイド”じゃなくてもいいや!という気分になってきました。

「Kimmy!これ美味しいよ!一緒に食べようよ」
「はーい!おお!美味しいね!」
「よーし!この前菜を食べ終わったら、次はラーメンを食べに行くぞー!!」

こうして、この日私はほとんどガイドらしい観光説明をせず、浅草寺境内で食べ、上野の桜の下で屋台グルメを堪能し、私のおすすめラーメンをたいらげ、ポッキーをかじり、夕食に予約した焼き鳥屋さんへ向かう一家を見送り、ツアーを終えました。

振り返ってみればアップルパイやスタバなど、日本でなくても食べられるものもたくさんあったわけで、はたしてこれで良かったのかしら?と思いました。
が、外国人でもその興味関心は十人十色。歴史を徹底的に知りたい、美しい日本文化に触れたいという人もいれば、目に映る美味しいものを味わい尽くしたいというのも日本の楽しみ方のひとつなのでしょう。浅草寺の境内や、上野の桜の下で、大切な人と笑顔で美味しい物を分かち合った幸せな想い出は、何にもかえがたい経験なのだと思います。そんな日本での幸せなひとときにご一緒できたことが嬉しく、これだからガイドはやめられないなぁと感じたのでした。

ツアー後、クルーニーパパからメールが届きました。

“Kimmy!本当に美味しかったよ!有り難う!”

山内 久未(やまうち・くみ)
慶應丸の内シティキャンパスで2年間ラーニングファシリテーターとして多くのプログラムを担当。退職後、約2年間の勉強生活を経て2015年春より通訳案内士(通称:通訳ガイド)として日々奮闘中。
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