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ピックアップレポート

2018年04月09日

伊藤良二・須藤実和 対談「AI時代の人材育成」

伊藤 良二
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授、株式会社プラネットプラン 代表取締役
須藤 実和
株式会社プラネットプラン 代表取締役、慶應義塾大学SFC研究所上席所員

AI・ロボット時代の到来によって、未来の仕事や働き方が大きく変わると言われています。予測不可能な変化が不連続に起こるビジネス環境において、企業組織はどのような人材を育てていくことが成長の鍵となるのでしょうか。

戦略論の専門家として、ベンチャー企業から国内大手企業の人材開発支援、国内外主要企業への経営アドバイスまで多数の経営支援・人材育成活動に携わる伊藤良二先生、須藤実和先生。「企業参謀養成講座」「事業革新家養成講座」プログラムの講師を務めるお二人にAI・ロボット時代の人材育成についてお話いただきます。(この対談は2017年12月に実施されました)


予測困難な未来の到来

伊藤:2013年9月、マイケル・A・オズボーン博士は論文「未来の雇用」において、仕事のコンピュータ化によって米国の雇用者の47%が10年後には職を失うという調査結果を発表し、世界に衝撃を与えました。ゼロから独学して世界最強にのぼりつめた囲碁の人工知能(AI)アルファ碁ゼロや、自然対話、表情認識、音声感情分析、顔認識などのAI技術を駆使したコミュニケーションロボットの登場等、テクノロジーの革新が事業活動、業務活動に及ぼす影響を真剣に考え始める動きが拡がりつつあります。

須藤:新たな技術が新たなビジネスを生み、新たな生活様式やビジネス慣習を生み、新たな社会のルールを生むという流れもどんどん出てくると予測できます。

伊藤:テクノロジーの進展によって、ビジネス環境もこれまで以上のスピードで変化していくことは間違いありません。組織も人も、社会の変化に取り残されて淘汰されることだってあり得ます。未来を正しく予測することは極めて困難ですが、少なくとも、AIやロボットに簡単には取って代わられない人材を育成することは急務です。

ゲームチェンジを可能にする人材

伊藤:デジタライゼーション、グローバリゼーション、そして、インディビジュアリズム(個の台頭)が進む世界に求められる人材は、未来を「先読み」し、「ゲームを変える・ルールをつくる」ことができる人材です。

これからはルールに合わせて技術力を磨くのではなく、ルールを変えることを前提とした技術の登場が一層増えていくでしょう。そのとき人間が発揮すべき付加価値は、アナログとデジタル、つまり感性とロジックを繋げるスキルです。客観性・合理性を持ちながら、自らの意志や哲学に照らして進むべき方向を決めることの出来る人材がルールをつくっていく時代になると思います。

須藤:これまでは「知っている」ことが優位でしたが、連続性のない変化が起こる環境では、知識をベースに自ら思考を深め、飛躍させる「柔軟な思考」スキルが重要度を増していきますね。

伊藤:そうです、技術進展による社会の変化が起きてから行動するのではなく、テクノロジーを自分事として理解した上で、自らがゲームチェンジャー、ルールメーカーとなる。そのためには、先を見透し、オリジナリティのある仮説を構築する能力が欠かせません。

須藤:新たなルールを作り出す構想力と、そのルールを社会に根づかせていくリーダーシップ、実行力が問われるということですね。

伊藤:加えて、ルールメーカーが絶対に忘れてはならないのは、「自分たちが社会に約束しようとする価値」を厳密に定義し、そのために自分たちはどうあるべきか、を問い続けることだと思います。

飛躍の方向性がひらめく瞬間

須藤:大きな変革を起こす、あるいは経営上の大英断を行なう際には「ひらめく力」が重要な役割を果たします。AIやロボットの学習能力をもってすれば、この能力も代替される可能性は高いですが、ならば、人はどうすればAIやロボットと一線を画したひらめき力を発揮し続けることができるかを追求していく必要があるということではないでしょうか。

伊藤:ひらめきには人間観、社会観、歴史観を通じて育まれる価値観と、集積された知識や経験という土壌が必要ですが、それだけでは生まれません。使命感、モチベーション、責任感等といった思いに突き動かされたときに、意志が働き、これらを踏み台にして飛躍の方向性が「ひらめく」のだと思います。したがって、日ごろのインプットが少なく、インプットの幅が狭い人の閃きほど簡単にAIやロボットに代替されてしまうということがいえるでしょう。

須藤:異なる価値観に触れ、視野を広げ、感性を豊かにすることがひらめき力の基盤であり、人とのコミュニケーションやコラボレーションを通じて思考を深めることが重要です。多様な人材の価値観や能力を活かすマネジメントにおいても欠かせませんね。慶應MCCが掲げているコンセプト、“新時代に対応する「知の創造・交流活動」を促進する”は、次世代のルールメーカーに対する力強いメッセージといえますね。

伊藤:日本人は、とかくhow toのスキルを磨くことに邁進する傾向があると言われます。しかし、過去のテーゼが通用しないこれからの時代を切り拓く人材には、「what」を見極め、未来を創造するテーゼを提唱し、リーダーシップを持ってテーゼを社会に浸透、定着させていくことが大いに期待されます。私たちも日々、勉強していく必要がありますね。

伊藤 良二(いとう・りょうじ)
伊藤良二

慶應義塾大学工学部管理工学科卒業、シカゴ大学経営大学院修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーのパートナーを経て、UCC上島珈琲の経営企画、商品開発担当取締役に就任。その後ベンチャーキャピタルのシュローダー・ベンチャーズの代表取締役、ベイン・アンド・カンパニー日本支社長等を経て現在に至る。現在は国内外主要企業トップマネジメントへの経営アドバイス活動に携わる一方、大学ならびに企業研修や新規事業の創造支援を通じて人材育成活動にも深く関与する。
須藤 実和(すとう・みわ)
伊藤良二

東京大学理学部生物化学科卒業、同大学理学系大学院修士課程修了。博報堂におけるマーケティング戦略立案経験、アーサー・アンダーセンにおける監査経験、シュローダー・ベンチャーズにおけるベンチャー企業投資育成経験を経て、戦略系経営コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーに参画、同社パートナーとしてコンサルティング活動に加えて講演・執筆活動を行う。現在は、教育活動やベンチャー企業の育成支援活動に携わるとともに、国内大手企業の経営支援、人材開発支援、執筆活動に従事している。公認会計士。
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