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慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

今月の1冊

2018年02月13日

デジタル化時代突入!あなたの会社は準備できていますか?

対デジタル・ディスラプター戦略 -既存企業の戦い方-
著:マイケル・ウェイドほか; 出版社:日本経済新聞出版社 ; 発行年月:2017年10月; 本体価格:2,160円

加速度的に便利になる一方、競争が一層熾烈な時代へ

ここ数年、私たちの生活は劇的に便利になっていることを実感します。
生活必需品から絶版の本まで、欲しいものはネットでいつでも購入、決済できて、商品は自宅まで配送してもらえます。病院では診察の進み具合を、飲食店では混み具合を、コインランドリーでは洗濯の残り時間までもネット経由で確認でき、無駄な待ち時間が圧倒的に少なくなりました。
消費者としては嬉しい一方、これら提供する側としては、昨今のデジタル化の加速の中で進む業界構造のドラスティックな変化(注1)は脅威にも感じます。

このデジタル化を脅威ではなく、チャンスに変えるヒントが詰まった、言わばデジタル化時代の経営の指南書とも言える本に出合ったのでご紹介します。

デジタル化を脅威ではなく、チャンスに変える視点

対デジタル・ディスラプター戦略 -既存企業の戦い方-(注2)

デジタル・ディスラプターとは、デジタル技術を駆使してあらゆる業界を脅かす破壊的イノベーターのことです。
これまでにも新興企業(デジタル・ディスラプター)がどのようなビジネスモデルを創造したかを分析・紹介する書籍は多くありましたが、既存企業側の視点で、デジタル・ディスラプション(デジタル経営破壊)に立ち向かうための戦略や方法論を記載した本は少なく、とても意義深い一冊です。

丁寧で工夫された構成も、本書の優れた特徴です。
前半と後半で大きく2つに分かれ、前半では、デジタル化の進展の現状と新興企業(デジタル・ディスラプター)の特徴、既存企業が取るべき戦略などについて、後半では、既存企業がその中で生き残るために必要となる組織能力と、その構築の仕方を説明しています。

理論的な枠組みを数多く用意し、理解を促すよう工夫されていると同時に、各所で具体的な企業事例が紹介されています。本書が特に丁寧に構成されていることを感じます。

新興企業(デジタル・ディスラプター)の紹介だけでなく、既存企業が取るべき戦略のひとつ1つ、組織能力を身に付けるための方法論のひとつ一つにおいても豊富な事例が載っています。それにより、グローバルで勢いのある新興企業にどんなものがあるか、またデジタル化への対応という切り口で既存企業がこれまでに行った戦略の成功事例、失敗事例にはどんなものがあるのか、について整理して理解することができます

また、再三に渡りよく陥りがちな思考に警鐘を鳴らし、本質的に大切にすべき視点を記しています。
例えば、目を向けるべきは、目の前に現れた新興企業(デジタル・ディスラプター)ではなく、デジタル化によってもたらされる経営破壊(デジタル・ディスラプション)であり、それらを巻き起こす業界を超えた渦巻きのような大きな動き(デジタル・ボルテックス)である。また、新興企業(デジタル・ディスラプター)を分析する視点も、彼らが生み出した目新しいビジネスモデルではなく、それによって生み出される顧客への新しい価値が重要である。といったように。

それは、デジタル化はある一地点のことを指しているのではなく、これからも進展し続けるものであり、目の前にいる新興企業(デジタル・ディスラプター)も数年後には消えてなくなるかもしれないほど変化のスピードは速く、ドラスティックなものであるからだと説明します。それゆえに、既存企業は本書に記載された組織能力を早期に構築し、絶えずデジタル化の進展に対応し、新しい価値を見出す努力を続ける必要があるのです。

さらに、本の終わりには、調査の具体的方法や、自社の組織能力の現状を把握する診断シートが掲載されており、自社においてデジタル化に対応するためにどこから手を付けるべきか検討しやすい案内もなされています。
訳者の日本における追加調査結果と解説における日本のデジタル化事例が掲載されているところも、ありがたいことです。翻訳本は時に、日本国内の状況に当てはめると納得がいかなかったり、参考になることが少なく感じたりするものですが、本書は同じ手法で行われた直近の日本企業の調査結果を盛り込み、どの部分に日本特有の現象が見られるかが客観的事実として理解できるよう配慮がなされています。また、日本ではなじみの少ない企業事例を的確に抽出し、日本ではどんな企業がそのポジションにあたるかを解説してくれ、理解を助けてくれる役割をしています。

こうした一連の工夫に、デジタル化の本質を解明し、より良い企業活動に繋がるヒントを1つでも多く伝えたいという著者、関係者の強い想いを感じます。

「デジタル化の今後の影響は?」「デジタル化が進む中、どう戦略を打ち出せばいいか」「具体的に新興企業(デジタル・ディスラプター)が現れた時どうすればよいの?」
こうした問いをお持ちの方にはきっと数々のヒントが得られる本であると思います。是非、気になる方はこの本を手に取ってみてください。

(鈴木ユリ)

(※1)世界では空き部屋をシェアするエアビーアンドビー(Airbnb)の登場がホテル業界を変え、スマフォでタクシーを呼べるウーバー(Uber)の登場がタクシー業界を変え、日本ではテレビCMでお馴染みのラクスルの登場で印刷業界の勢力図が大きく変わったと言われます。

(※2)本書は、ネットワーク企業のシスコと、スイスのビジネススクールのIMDが、デジタルによる変革を解明するために設立したDBTセンター(グローバルセンター・フォー・デジタルビジネス・トランスフォーメーション・センター)での調査・研究の成果を収めたものです。

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