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課題はいつだって足元にある

2019年07月09日

ほり屋飯盛

昔と今の大学生の違いは、その入学式にあらわれる。SNSが普及する以前に青春時代を過ごした方々にとっては驚きであろうが、入学式では皆すでに友達なのである。なぜかというと、最近は大学に合格するやいなやTwitterで「仲良くしてください#春から○○」(○○には大学名が入る)とつぶやき、顔の見えぬ人々とあらかじめ繋がっておく。Twitterで仲良くなったのちは、学科同期LINEグループを作って、「はじめまして。○○高校出身の○○です!よろしくお願いします」と自己紹介をする。そして、入学式当日は駅で待ち合わせて、初めて会った友達と一緒に参加するのだ。

いつの時代も若者は自意識過剰なところがあり、独りでいる自分を誰かに見られることを恥ずかしがって群れたがる。それがSNSの登場で顕著にあらわれてきた。しかし、これと同時に「単独指向」の学生も存在する。イノベーター(革新者)や経営者、ベンチャーの立ち上げ、フリーランスを目指している子たちだ。

今どきの大学生たちは、スティーブ・ジョブズやマーク・ザッカーバーグが「すごい人」と言われる時代に思春期を過ごし、現在では「インフルエンサー」と呼ばれる人たちが、「好きなことをやれ」「フリーランスで生きろ」「起業しろ」と盛んにおすすめしている。

いつの時代も若者はとにかく影響を受けやすい。ネットや本、テレビなどを観て、「会社の駒になって嫌な仕事はしない。自分は自分の好きなビジネスを立ち上げる!」と大いに意気込み、なぜか大学教員に相談に行く。「ベンチャー立ち上げたいんですけど、どうしたら良いのでしょうか?」と。事業計画書はなくとも、とにかく熱い思いや夢を語る。また、“Stay Foolish”を重視しすぎて、大胆なことを試みようとしたり、人と違うことを考えようとしたあげくに思考停止に陥っている。そんな彼らを私はこっそり「なんとなくイノベーター」と呼んでいる。

大学在学中からベンチャーの立ち上げやフリーランスを目指すことは必ずしも悪いことではない。そして、インフルエンサーと呼ばれる人たちが、企業やフリーランスを勧めることも、潜在的にそのような能力があるのにも関わらず、くすぶっていた人たちの目を覚まさせるためにはとてもいいことだと思う。

だが、なんとなくイノベーターには何かが欠けている。それは何かと問われれば「義憤」とか「嫌悪」ではないかと思う。明治大学の野田稔先生によれば、「確かな社会的価値を生み、成功したベンチャー企業経営者には、必ず『義憤』があり、これはおかしい。誰もやらないのであれば、自分がやるしかないと、技術や人脈やノウハウや、何もかもを必死になって組み合せて解決を試みる」といった共通点があるそうだ。

大学生から外の世界に目を向けて、様々な人と「夢」や「熱き思い」を語り合って、クラウドファンディングで起業するのもいいが、なんとなくイノベーターが、本物のイノベーターになりたければ、まずはおかしいと思うこと(課題)を発見し、解決を試みる経験をしたほうが良いのではないだろうか。そのためには、外へと向かうのではなく、自分が生活している内側の世界(大学)の課題に向けて活動をする。つまり、大学改革のための学生運動をするのだ。

とは言っても、立てこもりやバリケードなどで乱闘を繰り広げることではなく、大学が抱えている課題に対して、なんとなくイノベーターが大好きな「常識にとらわれない考え方」で、仲間たちと「ロジカルディスカッション」をして、解決をするために「できる大人たち」に相談に行き、実行して大学の「バリュー」を高める。そんなちょっと歯の浮くような意識高い系カタカナ語も、若いなんとなくイノベーターが実行さえすればかっこよく思える。

第2回にも書いたが、就活では成績が重視されず、ほとんどの学生は真面目に授業を受けないし、試験前に勉強すれば相対評価でギリ単位はとれる。そのため、ゆるい教員の授業は私語がうるさく崩壊している。私の通っている大学に関しては少数ながらヤバい系も存在していて、1学期間に特に明確な理由もなく6回も休講にした教員や、10分遅れは当たり前のかなり時間にルーズな教員もいる。このような「問題教員」たちに反省を促すためにも、まともな教員に記述式のアンケートを要請し、実行寸前までたどり着いたが、どうやら日頃の怠惰を暴露されたくない教員らが「大学の運営に対する学生の意見は『イチゴが好き』だという意見ぐらいくだらない」“The Strawberry Statements(いちご白書)”まがいのことを言って反対されてしまった。愚かな大学教員というものは、「うちの大学に入れば自ら課題発見する能力を身につけられる」と謳っていても、自分たちの課題は発見・指摘されたくないのだ。

他にも、就職予備校と化した大学では、教員がどのような教育を実施し、何を研究するのかという信念も欠けてしまい、教育にも研究にも中途半端な姿勢になっていることなど、大学全体のシステムによる課題もある。このような課題に関しては様々な大学教員から有益な意見が出ているが、ずっと解決されないままだ。その理由としては、大学教員にリーダーシップのある人材がいないからだ。ならば、この何かやりたいけど、その情熱の行き場がなく、くすぶっている「なんとなくイノベーター」たちと一緒に課題解決をしてみてはどうだろうか。なんとなくイノベーターたちも、大学教員たちと現在通っている大学の課題を発見し、解決を試みることが、「夢」だとか「ワクワク」だとか言っているよりも、将来的にリーダーや経営者になるために役立つのではないだろうか。

ほり屋飯盛(ほりやめしもり)
  • 大学生
36歳で大学に入学。まわりの学生には19歳と偽り、はじめはオープンキャンパスの学生トークショーに出演したり上手くやっていて、来年こそはミスキャンパスもいけるかもと思っていたが、「プラザ」を「ソニプラ」、「プリント」を「わら半紙」と言ってしまったことから実年齢を怪しまれはじめる。最近では「ほり屋さんの年齢を探ると社会から消される」と噂が流れ、ミスキャンパスへの道が閉ざされ気味。社会科学専攻。38歳の目には最近の大学生や大学やはどのように見えるのかなど書いてます。

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