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卒業式中止に思う、不確実な時代に不要な「相互扶助」

2020年03月10日

ほり屋飯盛

大学の卒業式が相次いで中止になっている。
新型コロナウィルス対策なので仕方ないが残念である。関西地区の大学を筆頭に徐々に卒業式の中止が発表されたが、我が校の決定はかなり遅めであった。そんなこともあり、同級生たちの反応も「やっぱりね」という感じで、そこまで落ち込んでいない。むしろ、「卒業確定しなかったら来年の卒業式に出られる」とネタとして扱っている。そして、卒業式は中止になったものの、学部ごとの学位授与式は行われる予定(*)なので、女子大生は卒業の日に袴を着る気満々である。

20年前も卒業式の袴姿は成人式と同等に重要で、その場にいる人たちに見てもらうものであったが、現代ではインスタグラムを中心にSNSで撮った写真をシェアできる。大学の卒業式自体は、4年前の入学式から2回目の校歌を歌う時間があり、学長その他諸々の挨拶があり、送辞や答辞などがあり、行事としては30分ぐらいで終わる。そんな感じなので、卒業生にとっては卒業式よりは、卒業式が終わったあとに皆でわちゃわちゃと写真を撮る思い出作りのほうが重要なのである。

私はというとあらゆる「式」が好きではないので、若干ほっとした。しかし、この度のイベント自粛でさらにほっとしたのは、2回しか会ったことのない知人の結婚式の二次会パーティーが中止になったことである。2回しか会ったことがないのにも関わらず、誘われると断るのも気まずいので参加表明をしてしまったのだが、日にちが近づいてくると「2回しか会ったことない」という事実が首をもたげ、そのために行くのが面倒くさくなってしまっていた。結婚式やその二次会の度に、直近になると行くのが億劫になる状況を繰り返している。

様々な「式」の中でも、葬式については3年ぐらい前に引退宣言をした。葬式引退宣言とは、今後一切の葬式に出ないと表明することである。表明したが、ほとんどの人に知らせてはいない。葬式に出ない理由は葬式が心底嫌いだからである。そして、自分が死んだ時には、死んだ人間のために大金を使うよりも、生きてる人間が自身のために使ったほうがいいと思っているからだ。他には、身内を亡くした時に経験したことだが、近親者が死んで判断力が鈍っている人に対して、色々と勧めてくる葬式業者が嫌いなのだ。そういうことなので、葬式の需要を減らそうと1人で頑張っている。

実は9年前の関東大震災の時も知人の結婚式が中止になった。不確実性を考えると、この機会に結婚式も簡素化したほうがいいのではないだろうか。というのも、災害やパンデミックだけでなく、生涯独身の人が増えているからだ。結婚式に参列するにはご祝儀が必要である。私はこれまで20組ぐらいの結婚式に参加したので、ご祝儀を60万円(各3万円)は払ってきた。式で食事をしたり、引き出物とか内祝などを貰ってはきたりしたが、特に参加したかったわけではなく、付き合いのようなものが多かった。40歳近くなると、生涯独身の可能性も高いというか、不確実性の時代に自分が結婚できないことだけは確実といえるのではないかと思っている。となると、私は一体いつご祝儀を回収できるのだろうか。

そもそも結婚式のご祝儀や、葬式の香典は相互扶助のシステムだ。結婚や出産などのイベントはお金がかかるから、そのコミュニティの人々がお金をだして助け合うために渡している。そこには、自分がお金を必要とする時に助けてもらえるという大前提がある。しかし、独身時代が続くと、今まで払ってきた分はどうなるのだろうかと思えてくる。あげっぱなしであれば、相互扶助じゃないじゃん!と、どこにぶつけたら良いのかわからない怒りが沸いてきてしまう。たとえ結婚できたとしても、以前結婚式に参列し、もう連絡をとってない人もいる。あの時の3万円を回収するために疎遠になった人も結婚式に招待するのか?と考えてしまうのだ。

アメリカの人気ドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』で主人公が友人のホームパーティーで靴を盗まれた時に、その友人が最初は靴代を弁償すると言っていたものの、値段(確か500ドルくらい)を聞いて、やっぱり弁償はしないと言われると同時に独身生活も否定されてしまう。その時、主人公は結婚式や子どもの出産祝いでその友人にいくら使ったか勘定するのだが、その時の気分に似ている。結局、「私は私と結婚する。お祝いはマノロ・ブラニク(靴のブランド名)で」と主人公は友人に電話で告げる。

私はいくつか論文で入賞し、その度に年賀状でかつて結婚式に参列した既婚者たちに、あの時の3万円を返す機会を与えるようにアピってきたのだが、まるで何もない。お祝いなんてない。相互扶助を受けられない独身のために、いっそのこと結婚式も簡素化するのがいいのではないだろうか。そうでなければ、私は私と結婚するしかない。

(*)編集部注:昨夜、学位授与式の中止が発表されました。

ほり屋飯盛(ほりやめしもり)
  • 大学生
36歳で大学に入学。まわりの学生には19歳と偽り、はじめはオープンキャンパスの学生トークショーに出演したり上手くやっていて、来年こそはミスキャンパスもいけるかもと思っていたが、「プラザ」を「ソニプラ」、「プリント」を「わら半紙」と言ってしまったことから実年齢を怪しまれはじめる。最近では「ほり屋さんの年齢を探ると社会から消される」と噂が流れ、ミスキャンパスへの道が閉ざされ気味。社会科学専攻。38歳の目には最近の大学生や大学はどのように見えるのかなど書いてます。

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