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すべて時代のせいにして

2020年09月09日

ほり屋飯盛

今年の大学4年生や3年生の就職活動はけっこう大変である。新型コロナの影響で新卒採用者数を大幅に減らすだけでなく、採用自体を停止している企業もある。私のまわりの大学生にもかなり苦戦している子たちがいる。もしくは、就活を諦めて大学院入試に向けて勉強している学生も多くいる。

就活で苦戦するとつらい。特に希望している職種がコロナの打撃を受けている学生は本当に大変だと思う。志望動機や自己PRを何度も書いて、優秀なのかわからない面接官と無給で30分もお話したあげく、数日後にお祈りメールが届く。これを繰り返していたら、誰もが落ち込んでしまう。それだけでなく、自分は何をやっても駄目なのだと自信喪失になり、病み気味にもなる。なんで、大学生が卒業後の進路でこんなに苦しまなくてはならないのか。新型コロナが悪いと言われれば、そうかもしれないが、本当にそれだけなのだろうか。

ある朝10時30分頃に起きて(遅い)、だらだらと新聞を読んでいたら「氷河期世代は『時代』の被害者だ(大意)」ということが書かれた記事があった。38歳の私は広い意味での氷河期世代である。より細かく区別するならば、ロスト・ジェネレーション(失われた世代)だ。もしかしたら、今の大学生も就活で上手くいかずに、企業から正規で雇われないまま年齢を重ねていったら「コロナ『時代』の被害者」だと言われるのだろうか。または、今は就職が厳しいから、とりあえず大学院に進学する学生も、数年後も経済が回復しないままで就職できなかったら、「コロナ『時代』の高学歴ニート」などと言われてしまうのだろうか。

いや、ちょっと待てよ。これらの「〇〇世代」や「〇〇ジェネレーション」は、時代が悪いということで、簡単に片付けてよい問題なのだろうか。氷河期世代やロスト・ジェネレーションが時代の被害者だと言われるのは、何もすべて時代が悪いのではなく、もともとある日本の採用制度や人々の価値観が問題ではないだろうか。

たとえば、新卒一括採用の存在。現在は批判的な意見が多い採用制度だが、有効求人倍率が高く、特に問題がない時代には合理的でそれなりに機能はしていた。しかし、現在のように企業が余裕がない時に、みんなが一斉に就職活動をすれば多くの学生はあぶれてしまう。

目下、多くの企業は採用する余裕がないとわかっているのに、なぜ学生たちは心をすり減らしながら就職活動を繰り返すのか。こんな時期だし、親のスネを囓れる環境があるのならそんなに頑張らなくてもいいんじゃないかと思う。しかし、社会の人を見る目がそうはいかない。最初の就活に失敗したらゲームオーバーみたいな価値観だってありありだ。その後の人生でも、大学卒業後にすぐ就職した人と、非正規雇用者やニートのどちらが転職に有利かと聞かれれば言わずもがなだろう。そして、一度の就職で失敗してしまい、その後正規で雇用された経験がないと、その後も正規で雇ってもらえずに挽回するチャンスがない。不寛容な社会である。

しかし、大学卒業後の進路は人それぞれでいいと思う。留学もしくは海外からの留学生と接するとわかるが、欧米の若者はけっこうフラフラしている。大学や高校卒業後に自分の進路を決めるために3ヶ月くらい留学や旅行しているんだという若者もいる。そう考えると、別に一つの生き方が正しいわけでもない。何もみんなが大学卒業後にすぐに就職しなくてもいいし、空白の時期があってもいい。履歴書に空白の期間があると、鬼の首を取ったように「その期間、何していたんですか?」という人事もなんかおかしい。私なんてこないだ約20年も前の空白の期間について聞かれた。

多様性とか変化とか成長とか声高に言う割に、未だに新卒一括採用だとか、大学卒業後にすぐ正社員として働くのが主流という古い価値観が蔓延っている。そのような問題があるところに、今回の新型コロナのような出来事が起きると、大きなショックが世代ごと吹っ飛ばしてしまうのだ。

『すべて時代のせいにして』という歌があるが、時代が悪い、生まれた時が良くなかったという前に、日本の採用制度や人々の価値観を問うたほうがよいのではないだろうか。つまり、就職が困難な学生や求職者は時代の被害者ではなく、新卒一括採用や大学卒業後は正社員一直線、そうでなければ人生詰んだという価値観の被害者だと思う。「〇〇世代」や「〇〇ジェネレーション」という呼称は、根本的な問題から人々の注意を逸らしかねない。

私の知る限りでは、通年採用が当たり前で高学歴者ほど採用に有利な米国では、ある世代が就職で不利ということはない。今後、私のまわりの学生たちが「時代の被害者」で片付けられるのは嫌だ。
新型コロナ騒動は、「あたりまえという思い込み」を次々とひっくり返している。ウィズコロナの時代は、学生が社会とつながる接点を増やし、社会が多様な生き方に対する考え方を見直す重要な機会ではないだろうか。

ほり屋飯盛(ほりやめしもり)
  • 3月に大学を卒業しました
36歳で大学に入学。まわりの学生には19歳と偽り、はじめはオープンキャンパスの学生トークショーに出演したり上手くやっていて、来年こそはミスキャンパスもいけるかもと思っていたが、「プラザ」を「ソニプラ」、「プリント」を「わら半紙」と言ってしまったことから実年齢を怪しまれはじめる。最近では「ほり屋さんの年齢を探ると社会から消される」と噂が流れ、ミスキャンパスへの道が閉ざされ気味。社会科学専攻。38歳の目には最近の大学生や大学はどのように見えるのかなど書いてます。

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