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あの頃、僕らはくだらない質問ばかりしていた

2021年01月12日

ほり屋飯盛

大学にはオフィスアワーというものがある。週に一度決められた時間があって、学生が教員の研究室に行き、授業内容でわからないことや疑問点、進路などを直接質問できる時間である。新型コロナが蔓延して多くの大学がオンライン授業になった現在では、オフィスアワーは基本的にズームなどで対応している。

私は現役の大学生たちよりも教員たちとの年齢が近い。そして研究室で手伝いをしているので、教員と雑談することも多々ある。ここでする雑談というのは、あくまで全体的な大学に対する雑談であり、個人個人の学生がどうのこうのという雑談ではない。

ある日、教員たちとの会話で気がついたのだが、教員の年齢によって、オフィスアワーの学生からの質問に対しての感じ方が違うのである。具体的にはやや年配(60歳以上)の教員は、オフィスアワーに質問をする学生=みんな熱心な学生、であると捉えている人が多い。しかし、私と同年代(40歳前後)の教員は、オフィスアワーに質問をする学生=熱心な学生と怠惰な学生に二分化されている、と捉えているケースがいくつかあった。

教員の年齢によって、オフィスアワーの学生による質問の受け止め方になぜ差がでるのか。同年代の教員に「なぜ質問をしにくる学生が二分化されている」と感じるのか理由を尋ねてみた。すると「ネットで調べればわかることをわざわざ聞きに来るから」という答えが返ってきた。

それはまさしく“ggrks”である。“ggrks”とは何かというと、ネットスラングで「ググれカス」の頭文字からできた言葉である。ググれカスとは、「知らないことがあったら、いちいち他人に質問しないで、インターネットで調べなさい」ということ。つまり、その教員の主張としては、「質問をしにくるのはけっこうだが、ネットで調べればわかることを聞きに来るなよ」ということだ。

ネットが普及する以前はさまざまな情報が不足していた。大学生はわからないことがあれば、書籍で調べるか、友だちや教員に聞いて解決するしか方法がなかった。この時点でわざわざ教員に質問しにくる学生は、書籍等で調べたが、理解できないことがあったという熱心な学生しかいなかっただろう。そして書籍で調べているうちにある程度の知識は身についている。

しかし、ネットが普及してからは、だいたいのことは一瞬で手に入るようになった。授業でわからないことがある場合、ネットで検索すれば大抵のことは簡単な言い回しで説明されているサイトが見つかったり、図解などもあったりする。以前は不正確なものもあったが、現代ではきちんとしたアカデミックな機関が正確な情報を出して検索に引っかかるようにしている。

こんな時代にレベルの高い質問をするのはごく一部の学生であって、ほとんどの学生はネットで理解してオフィスアワーにわざわざ質問することはない。すると、教員に質問をする学生がネットを検索してもわからないレベルのことを聞く学生か、わからないこと調べるのが面倒くさいので教員に聞けば教えてくれるだろう!という突撃系のノリの学生しかいなくなる。

以下は私の仮説だが、やや年配の教員たちはネットが普及する以前に学生時代を過ごしたので、質問に来る学生がネット検索を経てきたかどうかは関係ない。かつて学生時代に自分がしてきたように、質問する際は図書館で調べてもわからないことを聞きに来ていると思っているのではないか。

そして、学生時代にネットがあり、論文などもネット検索して読んできた40歳前後の教員たちは、ネットで調べればわかることを聞いてくる学生に対して厳しい目を持っているのではないだろうか。

しかし、「質問」というのは、人と人を結びつけるものであり、コミュニケーションの潤滑油の役割も果たす。というか、私が若い時は潤滑油であったことは間違いない。ネットが普及していない中学生時代に、授業外でわからない問題(現代ならネット検索ですぐ解けるレベルの問題)をわかるまで教えてもらった数学の先生とは25年以上経った現在でも交流がある。

しかし、ネットでも質のいい情報が手に入る現代では、質問は本当に質問そのもの役割のみを果たすようになり、その求められる質の高さは、大学生に対してでさえもどんどん高くなっているように思える。

この現象は大学以外でも起きているように感じている。私たちはSNS等の普及で、直接会ったこともない人とオンライン上のみで繋がっていることが多くなった。たとえば、恋人や結婚相手を探すマッチングサイトなどでは、最初は他愛もない話をしてコミュニケーションをとろうとする。しかし、マッチングサイトでも以下のような悲劇があると聞く。

女:わたし食べ歩きが趣味なんです
男:え!僕も!普段はどんなお店に行かれるんですか???
女:〇〇というイタリアンによく行きます
男:へぇー、どんな店なんですか?
女:(はっ?どんな店ってなんやねん。ネット繋がってんなら、グーグルで調べてから聞けや!!ブロックしよ)

かつて、情報が少ない時代や対面で会話をする関係であれば、よく質問をされると「あ、この人私に興味あるのね」とプラスに受け取られた。しかし、現代のオンラインのつながりでは、「ちょっと調べてみたんですが、雰囲気良さそうですね」とか「メニュー調べてみたのですが、〇〇さんのおすすめは何ですか」という返しのほうが正解らしい。つまり、さまざまなシチュエーションで質問に対する質の高さが求められているのだ。

かつて質問に対する質の高さはビジネス、学会、講演会などの一部の世界では求められていたが、日常レベルではそれほど求められていなかった。むしろ、人が人と繋がるために、その人への興味がありますよというシグナルでもあった。それがネットで検索するのが当たり前になった現代では、オフィスアワーの時間でさえも質の高い質問が求められるようになってきた。もはや質問は本当に質問であり、過去に果たしてきた潤滑油という役割は薄くなってきているのかもしれない。

ほり屋飯盛(ほりやめしもり)
  • 3月に大学を卒業しました
36歳で大学に入学。まわりの学生には19歳と偽り、はじめはオープンキャンパスの学生トークショーに出演したり上手くやっていて、来年こそはミスキャンパスもいけるかもと思っていたが、「プラザ」を「ソニプラ」、「プリント」を「わら半紙」と言ってしまったことから実年齢を怪しまれはじめる。最近では「ほり屋さんの年齢を探ると社会から消される」と噂が流れ、ミスキャンパスへの道が閉ざされ気味。社会科学専攻。38歳の目には最近の大学生や大学はどのように見えるのかなど書いてます。

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