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プログラム体験レポート『経営戦略-ビジネスモデルから構想力を学ぶ』Session1

2015年09月08日

白澤 健志

他社から「儲かる仕組み」を学ぶ

平日ならば、スーツに身を包んだ無数のサラリーマンが行き交う東京・丸の内。だが土曜の朝となればさすがに人影も少ない。駅から会場の三菱ビルまではわずか徒歩3分、いつもと違った街並みを充分に楽しむ暇もなく着いてしまった。

ビジネス講座から芸術系まで、慶應MCCが扱うプログラムは幅広い。その中で今回私が参加するのはビジネス系「知的基盤能力プログラム」のひとつ、「経営戦略―ビジネスモデルから構想力を学ぶ」である。同プログラムの中では経営戦略の入門編的に位置づけられる、全2日間のコースだ。

慶應MCCのプログラムは平日夜に4~6回連続で行われるものが多いが、この講座は土曜日2回で完結する。といっても決してラクなわけではない。他の講座が1回3時間×4~6回のところを、この講座は1日6時間×2回、つまりダブルヘッダー状態でこなすのだ。その意味ではむしろキツイ。
 
9時40分の開場に合わせて教室に入る。座席は半円状に前後2列に並べられている。どの席からも演壇が近い。少し横に目をやれば、他の参加生の表情までが容易に見て取れる配置になっている。
 
配布されたリストによれば、今回の参加者は計15名。勤務先の業種は商社・電機・不動産・食品・運輸、等と多岐に渡る。
だがそれ以上に私が目を見張ったのは参加者の肩書である。「経営企画部長」「執行役員 副統括本部長」さらには「代表取締役社長」…。さすが経営戦略の講座、各社の将来を担う方々が集まっておられるのだということにあらためて気付く。一介の現場の課長に過ぎない自分が果たしてついて行けるだろうか、と不安になりつつ、机上の資料に目を通す。
 
1日目の内容は「セッション1『他社から「儲かる仕組み」を学ぶ』」。
テキストに記された梗概には次のようにある。

「成熟市場で新しいビジネスモデルを生み出すことは難しいが、異業種のモデルを取り込んで画期的なビジネスモデルを創りあげた事例は少なくない。企業経営者による講演を題材に、ディスカッションとレクチャーを行い、ビジネスモデルを変革させるための視点を学びます。」

個々の企業や業界の実事例をまとめた「ケース」を事前に読み込み、その内容をもとに授業当日にディスカッションする「ケースメソッド」のスタイルは、ビジネススクールでは定番ともいえる。この講座も2日目はそのスタイルだが、1日目は少し勝手が違う。書かれた資料でなく、ゲストスピーカーが「生」で喋る内容がそのまま「ケース」となるのだ。このスタイルを「ライブケース」と呼ぶらしい。
 
本日「ケース」として取り上げられるのは、楽天バスサービス株式会社。楽天トラベルの高速バス予約サービス事業、といった方がわかりやすいかも知れない。そしてこの「ケース」をライブで語るゲストスピーカーは成定竜一氏。元・楽天バスサービス株式会社の取締役であり、現在は高速バスマーケティング研究所株式会社代表としてコンサルティングなどを手掛けている人物である。

午前に成定氏の講演を聴いたあと、午後から「ライブケース」に基づくディスカッション。そして最後に、担当講師である早稲田大学ビジネススクールの山田英夫教授が「異業種に学ぶビジネスモデル」と題してレクチャーを行うこととなっている。各パート2時間ずつの3部構成である。

第1部:ゲストスピーカーによる「ライブケース」(10:00-12:00)

10時。いよいよ講座が始まった。


山田教授は挨拶もそこそこに、ライブケースに臨む心構えを私たちに説かれた。曰く、
「バスは比較的規制の強い成熟産業。その中で伸びている企業もそうでないところもある。業界の内部事情にも通じた成定氏からどんな講演が聴けるか。終わった時に『よい講演だったな』で満足してはいけない。午前の講演で、質疑応答も含めてどこまで話が引き出せるかで、午後の分析の深みが違ってくる。訊きたいことはきちんと訊いておいて」
そういって教授は成定氏にマイクを渡した。

マイクを受け取った成定氏は、自身の学生時代の体験から語り始めた。新宿の高速バス乗り場でバイトしていた時、便によって客体や乗車率が大きく異なるのに気付いた。「どうしてだ?」疑問をとことん掘り下げて調べるうち、いつしか自他ともに認めるバスマニアになっていた。
大学を卒業し、ある有名ホテルに10年近く勤めた後、楽天で高速バス予約事業に携わるようになった。バスへの熱い想いと、疑問をそのままにしない探求心、そしてホテル業界から持ち込んだ「レベニュー・マネジメント」の手法。この三つを携えて、成定氏は高速バス業界全体に新風を吹きむとともに、WEB予約システムを通じて新しい市場を開拓していった。そして今や、時にバス業界を代表して国の検討会に委員として出席して熱弁をふるい、またメディアを通じてバスの魅力をアピールする、バス業界の「仕掛人」として活躍するに至った。

自他ともに認める早口である成定氏の講演は、60枚近いスライドを交え70分間続いた。業界の外から異端児としてやってきた当時の熱量を維持しながら、ものすごい量の情報を私たち参加者に振りまいてくれた。バス事業経営者ではないが、単なるコンサルタントでもない、不思議な変革者だ。講演に続く30分間の質疑応答でも、延べ6人の参加者からの問いにサービス精神たっぷりに答えていた。

12時になった。この日だけはみんな一緒のランチタイムとなり、教室に隣接するラウンジで、午後からの討議グループ別にテーブルを囲む。山田教授と成定氏も分かれて輪に加わる。用意されたランチボックスのサンドイッチをつまみながら、参加者同士、お互いの仕事や会社などの情報を交換しあう。
参加動機は様々であったが、ある商社の方は「新事業立ち上げの参考に」当該部署から4名まとまって参加していることを教えてくれた。講座では、同一法人からの参加は4名までと決められており、その上限まで応募したということだ。これには驚いたが、それだけこの講座に期待するところが大きいということだろう。

第2部:ライブケースに基づく「グループディスカッション」(13:00-15:00)

 
13時、講義再開。会場を後にした成定氏に代わり、マイクを持つのは山田教授。そしてスクリーンには教授からの二つの問いが映し出されている。

「問1 楽天バスサービスの成功要因は何でしょうか?」
「問2 楽天バスサービスが今後直面するであろう課題・問題点は何でしょうか?」

正解があるわけではない、皆さんの考えを自由に言って欲しい、という教授の言葉を合図に、ここから1時間は4人ずつの小グループに分かれてのディスカッションとなる。
グループ2にアサインされた私は、他の3名とともに指示された小部屋へ入る。制限時間は小一時間。問1は私が、問2は他の方が手を挙げてファシリテーターを務めることとなった。早速、ホワイトボードを使って各自の答えを列記していく。ボードがあっという間に埋まってしまう。それらを、フレームワークを用いて分類・整理し、A4の紙にまとめる。

14時、再び教室に全員が集まって講義再開。他のグループのうち2つは制限時間内に紙にまとめきれなかったらしく、熱い議論の痕跡が残るホワイトボードがそのまま持ち込まれた。

問1に対する私のグループのまとめは以下のようになった。

「自社:低コスト、低リスク、ブランド力あり」
「対バス会社:レベニュー・マネジメント導入で収益性向上、稼働率向上→供給量増」
「対顧客:WEBで容易に比較検討し購入可能→利用者の支持獲得」
「対競合:(いない)→先行者利益」
「対業界全体:レガシーも巻き込んで底上げ→市場の拡大」

教授は各グループの発表を紹介しながら、書かれた言葉を一つ一つ吟味していく。曖昧な言葉があればそれを書いた人に訊ね、明確化する。ある言葉から、受講者の所属業界に絡めた話題を振り、あるいは引き出す。そして教授自身が様々な事例を次々に紹介していく。
グループディスカッションでは平面的だった理解が、教授のコメントでどんどん立体的に膨らんでいく。

例えば「レベニュー・マネジメント」について。需要に応じて価格を変えるこの手法は、ホテル業界では当たり前のこと。それを成定氏はバス業界に紹介し導入させ、バス会社の収益性を向上させた。
そこで山田教授は問いかける。
「この二つの業界に共通する要素は何か?」
「他にはどんな業界があてはまるか?」
答えはそれぞれ「固定費が大きい」そして「航空業界など」、となる。
こんなふうに教授は、先ほどの成定氏にも劣らないテンポで、ディスカッションを展開させていく。

この時、ある受講者が、成定氏の「気付く力」についてコメントされた。他のバイト仲間も同じ光景を見ていたはずなのに、成定氏以外は不思議に思わなかった。成定氏だけが問題意識に目覚め、そして今に至っている、と。
この指摘に山田教授も首肯した。そして「好きなことを追いかけていると、他の人には見えないものが見えてくることがある。成定氏の場合はそれがバスだった」とおっしゃった。

問2についても同様のディスカッションを行ったあと、15時にようやく休憩に入った。相当長い時間アタマを使っていたような気がしたが、午後のセッションはまだ2時間しか経っていない。しばしの休憩時間、ボーッとしてアタマを休ませる。

第3部:講師による「レクチャー」(15:00-17:00)

最後の2時間は、山田教授による「異業種に学ぶビジネスモデル」と題したレクチャー。
中身は次の四部構成となっている。

  1. ビジネスモデルとは?
  2. 異業種にあるヒント
  3. ビジネスモデルを見る視点
  4. ビジネスモデルの課題

レクチャーといっても、もちろん、ただ黙って話を聴くだけではない。60枚近いスライドを次々とめくりながら、山田教授は受講生にどんどん問いを投げかける。こちらは話を聴きながら、問いへの答えをあわせて考えていく。

ビジネスモデルとは「儲ける仕組み」のことである。問題は、それをどう構築するか。
もちろん「ゼロから構築する」という方法もある。しかし、ビル・ゲイツでもなければ、成功するビジネスモデルを全くのゼロから構築することはほとんど不可能だろう。
そこで「他社をヒントにする」のが現実的な方法となる。この時、つい同業他社をベンチ―マークしたくなるのだが、それでは陳腐になり過ぎる。そもそも同業を真似たところで良くて横並びになるだけ。他社を追い越す「儲ける仕組み」を構築するのは難しい。
そこで、なるべく離れた異業種のビジネスモデルからヒントをもらう、という選択肢が出てくる。ライバルが気付きにくい分だけ、これは有効な方法となる。

異業種からヒントを得た例:
・金融の裁定取引 → 不動産業のスターマイカ
・ゼロックスの遠隔保守 → コマツのKOMTRAX
・ホテルのレベニュー・マネジメント → 楽天バスサービス
・GEの航空機エンジン → ブリヂストンの売り切らないタイヤ

では、どうやって異業種から具体的なヒントを得ていくか。
ここから山田教授はさらに話のテンポを速めていった。出てくる事例も更にバラエティに富んでいく。自宅介護用ベッド、無料レンタカー、銀座のランナーズ・ステーション、セブン銀行、棚卸し代行業…。
そしてそれらの収益モデルを類型化し分類する。裁定取引、ポートフォリオ、レベニュー・マネジメント、ジレット・モデル、ネットワーク効果、…。

事例を聴いて理解するだけでも忙しいが、個々の話がインスパイアリングなものだから、「自社に応用するとどうなるか?」ということにも自然と考えが向いてしまう。こうなるともうアタマはフル回転状態である。

最後に山田教授は、ビジネスモデル移植の3ステップを次のように整理した。
「気づき→抽象化→移植」
ある事例を見たり知ったりしても、自社に関係ない、と考えたらその会社はそこで終わり。抽象度を上げれば、異業種である自社にも応用できるアイデアが必ずある。まずはアンテナを立てて気付きを得ること。そして抽象化し、移植する方法を自分のアタマで常に考え続けること。
そのような言葉で1日目の講義は終了した。

長い一日が終わり、再び駅へと向かう。来るときに見た風景が、だが、もはや同じには見えない。いま自分が見るもの、聞くもの、すべての中に新しいビジネスモデルへのヒントが隠されているのかも知れない、と思うと何だか落ち着かなくなってきたのだ。
しかし本当にヒントを見出せる能力を身に付けるには、いましばらく世界を見る眼を養う必要があるのだと思う。次回、それを少しでも深められることを期待して、事前課題に臨むことにする。
 
(第2回レポートへ続く)
 

講座詳細:経営戦略―ビジネスモデルから構想力を学ぶ』講師:山田 英夫

白澤 健志(しらさわ・たけし)
昨年はagoraで小田嶋隆氏に文章を習い、オープンワークショップで鴻上尚史氏に演技を習い、ダイアログ・イン・ザ・ダークで金井真介氏に暗闇の温かさを習った、45歳の会社員。
夕学リフレクション」のレビューも執筆している。

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