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プログラム体験レポート『経営戦略-ビジネスモデルから構想力を学ぶ』Session2

2015年10月13日

白澤 健志

事前準備:ケース資料読み込みと事前課題への回答提出(~セッション前日)

第1回のレポートで書いた通り、セッション1は「ライブケース」で行われ、事前の準備は不要だった。だが今回のセッション2は、事前に自宅に送付されてきたケース資料を各自読み込み、与えられた課題への回答をセッション前日までに事務局に送付するよう指定されていた。つまり、今回のセッションは、教室に行く前から始まっている。

そのケース資料の事前の読み込みであるが、実はこれがまた結構手間のかかる作業である。数十ページにも及ぶ資料は、事実関係を記した文章あり、経営者や関係者へのインタビュー記事あり、企業概要や財務諸表などのIR関係資料あり、と内容的にも形式的にもバラエティに富んでいる。まずはそれぞれの資料を正しく読み取るための、最低限の知識(例えば財務諸表の読み方のうち基本的な部分)が必要になる。

また、個々の資料を正しく読み取れたからといって、それだけではケース資料の全体を適切に読み取れたことにはならない。漫然と資料を眺めていると何もかもが等しく大事な情報に思えてしまうが、ケース課題を解くにあたって重要な「鍵」となる部分はむしろ限られている。溢れるほどの情報の中から、そのような「鍵」をいかにして見出すか。そのためのセンスのようなものが問われることになる。

なんだかもう「ケースを正しく読み解くための講座」を受けたくなってくるが、それでは本末転倒。ケースの読解は目的ではなく、あくまで手段である。結局は、できるだけ多くのケースに接して数をこなすことでしか「センス」なるものを身に付けるのは難しいかも知れない。ただ間違いなく言えるのは、事前の準備の深さがセッション当日の理解の深さをある程度規定してしまう側面がある、ということ。これは事前の段階ではなく、セッションを受け終えた今の、私の実感である。

事前準備の話から、いきなり時制がセッション終了後に飛んでしまった。
もちろん事前課題の提出は準備作業のひとつにすぎない。あくまでも肝となるのは当日のグループ討議・クラス討議である。まずはセッション当日に話を戻そう。

セッション2:導入部(10:00-10:10)

セッション2は、「2-1」と「2-2」の二部構成で、1日で二つのケースを扱う。アタマがもう一つ欲しくなる、文字通りのダブルヘッダー状態である。それぞれのセッションの概要を、パンフレットから抜き出しておく。

セッション2-1「仕組み」を創るための工夫1:脱「持たざる経営」で強みを活かす
【ポイント】人や設備をなるべく抱えない「持たざる経営」の代表事例だったミスミが、コンサルタント出身の三枝匡氏を社長に迎えたことを機に「創って作って売る」経営へと大きく戦略を転換し、いまや「機械部品のアマゾン・ドット・コム」と評価される企業へと変革を遂げた。本ケースからは、自社の強みにあったビジネスモデルを構築することの重要さを学ぶ。
【ケース】株式会社ミスミグループ本社

セッション2-2「仕組み」を創るための工夫2:「見える経営」と「見えない経営」
【ポイント】規制が厳しい中、ユニークな経営で顧客満足を高めている青梅慶友病院。成熟市場ではビジネスモデルを変革することの難しさを痛感することも多いが、本ケースを通して、規制の厳しい病院経営でも工夫可能であることを学ぶ。
【ケース】青梅慶友病院

事務局の方による「本日の進め方」の説明に続き、山田教授が「前回の振り返り」から話を始める。そして本日の説明に移る。
「前半はミスミ。金型の商社として成功した同社が、社長交代によってビジネスモデルをどう変えるのか、どう変わりうるのか」
「後半は青梅慶友病院。ビジネスモデルの話で何故病院を取り上げるのか?と不思議に思われるかも知れないが、表で起きていることと裏で回っていることがフィットしているケースとして打って付けの素材」

まずはセッション2-1、ミスミの「ケース」についてグループに分かれて討議を、と言いかけて山田教授は「そういえば」と、次のようなコメントを口にされた。
「ミスミについての皆さんのレポートを事前に見たが、読み込みがちょっと浅い。経営は、ポジティブな、良いことだけではない。このケースも三枝さんを持ち上げるのが目的ではない。田口社長時代と三枝社長時代、それぞれの良し悪しを、環境変化を踏まえて論じてほしい」

この言葉に私はヒヤリとした。私が事前に提出した回答は、まさに「三枝社長礼讃」一辺倒のものだったからだ。教授からの「直前アドバイス」を胸に、私は他の参加者たちとともに、指定された小部屋に移動して40分間のグループ・ディスカッションに臨んだ。

株式会社ミスミグループ本社(10:10-12:40)

小部屋には、前回同様のA4のまとめ用紙のほかに、各メンバーの事前回答が人数分コピーされ用意されている。まずはそれを交換し、互いの答えに目を通すところからディスカッションを始める。

事前に与えられていた問いは2つ。

  1. 田口社長時代のミスミと三枝社長時代のミスミを比較して下さい。何が変わったのでしょうか?
  2. あなたはミスミの社長交代をどのように評価しますか?

それぞれの問いに対する私の事前回答のうち、1.のほうだけを参考に記しておく。もちろんこれが正解とか模範解答というわけではない(そんな自信はない)。そもそも教授は「経営の課題に正解はない」ともおっしゃっている。あくまで、実際の回答例のひとつ、として見ていただきたい。
上述の通りグループ内では他の参加者とお互いの回答をシェアしたが、それらはいずれも驚くほど多様性に満ちていた。同じ資料を見ても各自が読み取るものはこれだけ違うのか、というのが正直な感想であった。

———————–
(1):
経営戦略:「持たざる経営」から「創って作って売る経営」へ転換
(総資産:271億→860億と3倍増、その大半は株主資本で197億→718億)
事業領域:多角化を廃し7事業から撤退や中止、既存の機械工業系事業に集中
主力事業:金型部品事業からFA用部品事業(自動化事業)へシフト
(連結売上高:前者は横ばい(216億→284億)、後者は5倍(121億→584億))
組織改革:チームを細分化し機動力を高めつつ、事業部制を併用し長期戦略で動かす
経営人材:当初は外部から登用、その間に内部育成を進め部門長クラスまで昇格
経営資源:行き過ぎたアウトソーシングを改め経営の要所を自社化
(自社化:協力メーカー最大手、コールセンター、倉庫、配送拠点、IT)
海外展開:海外物流網を整備し米中欧亜に展開、売上高比率目標10%台→30%台
生産政策:駿河精機を経営統合し海外展開と改革モデル構築のパートナーを確保
業績評価:チーム単位をベースとしつつ、全社業績の視点も加味
*金額は第38期(2000年3月)と第47期(2009年3月)の連結財務比較
———————–

他の方の回答と比較してすぐにハッと気づいたのであるが、私の回答は、網羅的ではあるが並列してあるだけで、ポイントが絞り込めていない。
いちばんのポイントは何か。その点についてメンバーで意見を交わしたところ、それはやはり「持たざる経営」から「創って作って売る経営」に移行したことだろうということで一致した。そのほか、時代背景として「成長の時代」と「成熟の時代」という違いがあること、商社の方はやはり商社の目線で見るのだなあ、ということなどが印象に残った。

そして2.の問い。前述の通り、私の答えはただただ社長交代を肯定するだけのものだった。しかし他の方の回答には、例えば「規模拡大に見合った利益の増大が達成できていないのではないか?」といったネガティブな見方なども含まれていて、なるほどなあ、と感心させられる。

ディスカッションの時間はあっという間に過ぎてしまう。いくらひとりでケースを読み込んだつもりでも、他の参加者とディスカッションする中では、必ず新たな考え方に触れ、目を開かせられる経験をする。これが、グループでディスカッションすることの醍醐味であり、また意義でもあるのだと思う。

やがて時間となる。A4にまとめたものを持ち寄り、参加者が再びひとつの教室で山田教授を囲み、クラス討議が始まる。
前回同様、各グループのまとめをプロジェクターで映し出しながら、山田教授が的確なコメントを加え、また話題を展開していく。今回もさまざまな魅力的な言葉が飛び出したが、私のメモには、例えば次のような山田教授の言葉が残されている。

  • 「最適化」って書いてくれたけど、それって具体的にはどういうこと?
  • 国内で成長できた田口時代と海外に出るしかない三枝時代、まとめるとそういう違い?
  • リーダーシップのSL理論(タスクとヒューマン、軍隊/工場/オフィス/研究所)
  • リーダーとフォロワーの整合性を説いた理論について
  • 業態の変遷という観点から、ミスミとリクルートを対比させてみると…
  • 7つのS(Strategy Structure System Style Skill Staff そしてShared value)

そして山田教授は、私たちの反応を見ながら、易し過ぎず難し過ぎずの絶妙なレベルで問いを次々と繰り出す。参加者は、少しストレッチすれば届くところにある問いに、全力で手を伸ばす。それを繰り返すうちに、自分のアタマの守備範囲が少しずつ拡がっていくのがわかる。

このミスミのケースの最後は、だが、山田教授によるまとめではなかった。最後の30分間は、私が想像もしなかった、ある「仕掛け」で締めくくられた。プログラム案内にも書かれていないこの「仕掛け」については、このレポートでも、その内容を明かすのは控えておく。ただ、印象的で意義深い時間であったことを記しておく。

青梅慶友病院(12:45-16:50 昼食休憩含む)

ところで、第1回目の10分間の休憩の折、私は山田教授から「11年ぶりですか!」と声を掛けられた。実は私が山田教授のレクチャーを受けるのは初めてではない。勤務先で、やはり競争戦略に関する一泊二日の研修を希望して受けたことがあるが、その時の外部講師が山田教授だったのだ。事前提出のプロフィールシートにその旨を書いておいたところ、山田教授がそれを見つけて下さったということである。

11年前の研修と今回のクラスは、もちろん内容も狙いも異なるが、この青梅慶友病院のケースだけは共通して取り上げられている。いわば山田教授にとっての「定番」である。同じケースではあったが、もちろん11年も経てば細部については記憶から抜け落ちているところも多く、ほぼ新鮮な気持ちでケースに取り組むことができた。

なにより、11年前と今では、勤務先における自分の立場も大きく異なっている。一般の中堅社員だった頃と、現場の課を預かる身になった今とで、同じケース教材に対してどれだけ違う答えが出せるか。そういったところも自分にとってチャレンジのひとつとなった。

本レポートではミスミのケースを中心に紹介したため、青梅慶友病院のケースの紹介は最小限にとどめる。それでも、事前課題の二つの「問い」だけはここに記しておこう。

  1. 青梅慶友病院が成功してきた要因は?
  2. 青梅慶友病院が今後直面する課題は?

この事前課題への回答をもとにグループ・ディスカッション、そしてクラスでの討議と山田教授による解説へ、という進め方はミスミの場合と同じである。

クラス討議での山田教授のコメントからひとつだけ記すとすれば、「真の顧客は誰か?」という第一回での問いかけがここでもなされた、ということがある。それについて、教授は著書『なぜ、あの会社は儲かるのか?ビジネスモデル編』(日本経済新聞出版社)の中で、青梅慶友病院について紹介する2ページ余りの記述の冒頭の一文として、次のように記している(単行本P110)。

「病院の顧客は?」と問われれば、「患者」と答えるのが普通であろう。しかし、本当に患者だけが病院の顧客だろうか。

どうだろうか。この、たった一つの「問い」からだけでも、いろんな思考や発想が誘発されそうではないか。興味を持たれた方は、ぜひ同書を手に取ってほしい。

修了式(16:50-17:00)および感想

最後に、山田教授から参加者ひとりひとりに、修了証が手渡された。ささやかな感動の瞬間である。

思えば、ひとりでケース資料を読んでいる間は、「点」の理解だった。
これが、事前課題への回答を考えるうちに、一本の「線」に進化した。
そしてグループ・ディスカッションで多様な考えに触れるうちに「面」としての広がりを持つようになり、最後、山田教授による理論化・具体化・事例紹介を通じて「立体」としての厚みを獲得した。

ミスミ、あるいは青梅慶友病院という一つの会社のケースが、このように次第に立体的なものとして膨らんでいく。そしてそれを目の当たりにする中で、自らの内なる理解も、より豊かなものになっていく、そういう実感とともに過ごした二日間であった。そして、この二日間にとどまらず、今後も永く続く「学び方」のヒントを得られたことに、密かな喜びを感じている。
この貴重な場を創り出してくださった山田教授、事務局の方、そして他の参加者の皆様に、あわせて御礼を申し上げて、レポートの結びとしたい。

(了)
 

講座詳細:経営戦略―ビジネスモデルから構想力を学ぶ』講師:山田 英夫

白澤 健志(しらさわ・たけし)
昨年はagoraで小田嶋隆氏に文章を習い、オープンワークショップで鴻上尚史氏に演技を習い、ダイアログ・イン・ザ・ダークで金井真介氏に暗闇の温かさを習った、45歳の会社員。
夕学リフレクション」のレビューも執筆している。

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