HOMEへ戻るMCCマガジン高田 朝子「個人も組織も「チャプター」のある働き方が求められています」

高田 朝子「個人も組織も「チャプター」のある働き方が求められています」

2017年04月10日

高田 朝子
法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科教授

人口減の時代は生産性の向上が必須

日本はいま人口減とそれに伴う生産性の低下という大きな問題に直面しています。人口が右肩上がりに増えた時代は消費も増え、特段生産性に注目しなくても経済が好循環していましたが、人口減に向かうこれからは、従来の評価・昇進人事システムのままでは生産性を上げ機能し続けることは困難になります。

日本は戦後、日本株式会社と呼ばれるような働き方のシステムがうまく機能していました。ほぼ12時間以上一緒に働き、飲む男性たちには、あうんの呼吸や察する文化が形成され、昇進にあたっては、働いた時間数や一緒に働きやすいかどうかといった点も評価に含まれていました。ひところで長い時間を共有していた当時の働き方は、人を育てる・育てられるという点においてはよい方向に機能していたのだと思います。

ところが景気が悪化し、アメリカ型の成果主義が導入されるようになりました。プレイングマネジャーが登場し、必要なものはM&Aといったオンデマンドで調達して、といった努力の陰で、成果主義になじめない人材は育てられることもなく、短期間では成果が見えない人材育成はおろそかになってしまいました。

そこに初めての人口減という大きな転換期を迎えています。人口はすぐに増やせるものではないですから、限られた人員をいかに「活躍する人材」に育てていくかを意識するべきでしょう。

活躍する人を増やす評価・昇進システムの構築を

生産性を上げるとは、付加価値をつけるものづくり、考え方を身につけ、「活躍する人を増やす」ことです。
そこで組織はまず、「自社が求めるいい人材とは?」という人材像を明確にし、それに基づく採用基準と育成目標を持たなければなりません。

次に、将来の経営人材を育てるためには、「人材選抜の機会を多く、ゆるやかに設ける」ことをおすすめします。多くの「人材プール」を確保しつつ、階層ごとの「点」の教育ではなく、早い段階からゆるやかな選抜を複数回行うことです。そして、ひとつの昇進ルートではなく、敗者復活を含めた多くのルートを用意することです。そのためには中長期的な育成計画を持つ必要があります。

さらに、「人をどのように育てたか」という評価基準を設ける。何人育てたかとか、育てたというのは昇進なのか落伍者が出なかったのかなど、より細かい基準や数値とあわせた項目を設定して、自分ごとであるという意識を持ってもらいます。

雇用も育成も「長期」を前提に

人を育てる環境を実現するには、長期を前提とした雇用をしなければなりません。必ずしも終身雇用の必要はありませんが、これは働く個人にとってもパフォーマンスを上げるために欠かせない前提条件です。
誰しも育児・子供の受験・介護などさまざまなライフステージがあり、常に一定の生産性を維持することは困難です。1年2年の短い期間ではなく、10年ひと区切りくらいのスパンで評価やキャリアデザインを考えないと特に女性は育ちません。10年なら10年というチャプターで、パフォーマンスが下がる時期もあれば上げる時期もあるという視点を持たなければ、貢献できていない期間の自分に罪悪感を持つ人は働き続けることが困難になりますし、可能性を持った人材が育ちません。

さらに言うと、晩婚化・少子化が進んでいますから一人っ子の介護は男女問いませんし、介護の始まる年齢は現在よりずっと早く、40代前半、30代から始まるケースも増えてくるでしょう。
育児や介護に限らず、個人の人生計画と実際に起きることは往々にして異なります。ですから組織と個人がともに生産性を上げていくために必要なのは長期視点です。
定年制度の存在理由を説明する、ラジアーモデルの「賃金と貢献度のカーブ」があります。
あの図は賃金と貢献度のカーブが交わるのは1カ所ですが、これからは10年なら10年の「チャプターごとに山と谷があるカーブ」のイメージで考えましょうということです。育てた人材が流出することは当然ありえますが、それならたとえば退職した社員の再就職を可能にするなどマインドセットを変えていかないと、個人も組織も国もたちいかなくなってしまいます。

個人のキーワードは「多様性」「異質」「越境」

そして個人は主体的にキャリアアップや能力を高める努力がこれまで以上に重要になります。組織でのパフォーマンスが落ちている時期は、「自分で自分の爪を研ぐ期間」と考え、再び組織に戻った時にパフォーマンスを発揮できるよう生産性を上げていかなければなりません。その際のキーワードは「多様性」「異質」「越境」です。今までとは異なるコミュニティに足を踏み入れ、いままでと違う何かに挑戦することです。

そのためにも、慶應MCCが勉強だけの場にとどまらず、異質な人が集まる場、あえて関心事ではなかった学びに触れる場として今後も機能し続けてくれることを願っています。

高田 朝子(たかだ・あさこ)
高田朝子

モルガン・スタンレー証券会社勤務をへて、サンダーバード国際経営大学院国際経営学修士(MIM)、慶應義塾大学大学院経営管理研究科経営学修士(MBA)、同博士課程修了。経営学博士。専門は危機管理、組織行動。

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