KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2009年12月08日

御立 尚資「変化の時代と戦略ルネサンス」

御立 尚資 ボストンコンサルティンググループ 日本代表 >>講師紹介
講演日時:2009年10月16日(金) PM6:30-PM8:30

ルネサンスは「再生」という意味ですが、歴史や芸術にも造詣の深い御立氏はまず、14-16世紀にイタリアを中心に興ったルネサンスがどのようなものであったかを、当時の代表的な芸術作品、例えば、ボッティチェリの絵画「春」やミケランジェロの大理石彫刻「ダビデ像」などをスクリーンに写しながら解説してくれました。
ルネサンス時代の作品は、人物がとてもリアルに生き生きと表現されています。人物をリアルに表現する方法は、紀元前の古代芸術ですでに完成していましたが、その後の中世芸術では失われてしまった表現方法だったのだそうです。古代芸術で重視されていた「人間らしさ」「ありのままの人間」の素晴らしさを再発見した中世の人々が、自分たちの祖先が持っていた優れた文化・芸術を再生させようとした運動が「ルネサンス」でした。その根底には、イタリアの北方、すなわちフランスやドイツからの侵略による軍事的な圧力や、ペストの流行によって高まっていた「時代の閉塞感」を打ち破りたいという「強い思い」があったそうです。


現代の日本をみると、90年代の失われた10年を経験し、新型インフルエンザの流行の兆しもあるという点で、ルネサンス時代と同じような閉塞感が感じられます。先日、政権交代が起きましたが、今は小手先の変化ではなく、ゼロベースでものごとを見直す「ルネサンス」が求められていると、御立氏は考えています。
さて、現在、私たちが経験している大きな変化(大波)をよく観察すると、その中にいくつか大きな「潮流」があることがわかります。御立氏がまず挙げるのが、金融経済と実体経済の乖離です。現代は、実際のモノの動きとはほとんど関係なく、金融市場で巨額の金が動いています。ところが、金融市場のクラッシュは、実体経済にも影響を与えてしまいます。昨年のリーマンショックが、世界的な景気低迷を招いたことはその一つの典型例です。
また、インターネットの登場による情報入手コストの低下という潮流があります。例えば、インターネット以前、株式売買に必要な相場情報を迅速に手に入れるのは相応のお金が必要でした。しかし、今はインターネットを通じて、豊富な情報が簡単に安価に手に入ります。こうした情報コストの低下によって、大きな変革を余儀なくされている業界・企業が増えているのです。
さらに、世界人口の爆発的な増加があります。1950年の世界人口は約30億人、 2000年には倍の60億人となっています。そして、注目すべきは、識字率が1950年に50%だったものが、2000年には85%へと向上している点です。これは、工場で働ける人間が増えているということであり、あらゆる国が「工業社会化」しつつあるということになります。この結果、中国、インド、ブラジルなどの、いわゆる「新興国」では、「生活の豊かさ」を追求する中流階級が拡大しています。彼らは、教育を受ければいい仕事に就け、よりよい暮らしができるという期待感で、活発な消費活動を行っているのです。そしてまた、地球環境保全などを重視する「サステナビリティ」(持続可能性)の潮流もますます大きくなってきています。サステナビリティを考慮しない企業活動は受け入れられない時代になりつつあります。
これらは「激流」と呼べるほどの変化です。御立氏は、この激流を乗り切る方策として、幕末維新のリーダーたちの行動が模範になると考えています。幕末維新もまさに激動の時代でした。 1853年にペリーが来航。1858年に日米修好通商条約締結。そして、安政の大獄や咸臨丸の訪米、薩英戦争などを経て、1867年に大政奉還、1868 年に明治が始まります。つまり、わずか15年ほどの間に日本は大きく変化したわけです。
幕末維新に活躍した人々の多くは、天保(1830 年代)生まれでした。具体名を挙げると、木戸孝允、福澤諭吉、坂本龍馬、井上馨、山縣有朋、高杉晋作、伊藤博文などです。彼らのほとんどは、明治維新後も長く権勢を維持したため、後に「天保ノ老人」たちと軽蔑気味に呼ばれました。御立氏によれば、彼らも当初は「尊王攘夷」の思想の持ち主だったそうです。ところが一転して「開国/富国強兵」を唱えるようになり、明治維新の立役者となりました。
御立氏は、後に「天保ノ老人」たちと呼ばれた彼ら、言い換えると明治維新のリーダーたちが発揮した重要な「資質」として、次の3つを挙げています。

  1. 情⇒理
  2. 知る、学ぶ
  3. 「利器」を使う

天保ノ老人たちが、尊皇攘夷から開国/富国強兵へと短期間で思想を大きく変えた理由は、感情に流されず、理性的な判断を重視したからだと御立氏は指摘します。「情」よりも「理」を優先したのです。例えば、当時の軍事力だけみても、射程距離の長い艦砲を持つ巨大な米国の軍艦に対して日本の勝ち目がないことは明らかでした。また、福澤諭吉を始め、天保ノ老人たちは米国・欧州に渡り、いかに欧米諸国が進んでいるかを体験してきています。つまり、自ら、欧米の現状を知り、学ぶことを通じて、精神論で尊王攘夷を唱えるよりも、開国し、欧米の進んだ技術を取り入れ、富国強兵を図ることが、日本が生き残る最善の策だと彼らは考えるようになりました。そしてまた、佐久間象山が“夷の術を以て、夷を制する”と言ったように、欧米の「利器」をうまく使うことで、明治維新を推し進めたのだそうです。
さて、今回の講演のテーマである「戦略ルネサンス」ですが、これは「ビジネスモデルのイノベーション」であると御立氏は考えています。その方法には、「提供価値を変える」、「提供する仕組みを変える」、「新しい仕組みを作る」などがあるそうですが、御立氏は、「GE(ゼネラル・エレクトリック社)」の航空機エンジンを例に説明してくれました。
航空機業界は、エンジン1基が日本円で数十億円もする大規模なビジネスです。従来は売り切り型の販売方法でしたが、GEはリース契約による販売に切り替えました。しかも、実際に稼動している時間に対してのみの課金であり、故障中などの期間は課金対象にならないという契約です。この新しい仕組みは、航空会社にとって大変都合の良いものであり、当該市場において大きくシェアを伸ばすことに成功しました。
なお、このリース契約には故障した場合の補修は必ずGEが請け負うという条件がありました。自社で補修を請け負うことで、どこが壊れやすいかといったエンジンの問題点が情報として入ってきます。これを次世代エンジンの開発に反映させるのです。また、特定の部品はある程度使用すると故障の原因になりやすいといったこともわかるので、先手を打って早めに部品を交換するといったことができるようになりました。こうして、GEのエンジンはますます壊れにくくなり、稼働時間が増えてリース収入も伸びるという良循環につながりました。提供する仕組みを変えることにより、航空機エンジンはGEにとって儲かるビジネスへと変革することができたのです。
御立氏は、現代の企業リーダーたちもまた、幕末維新のリーダーたちと同様、古い考え方ややり方に感情的に固執せず、長期的な展望も踏まえて理性的な判断を下すこと、自ら体験し学ぶことを通じて新しいビジネスモデルのヒントを得ること、そして、インターネットのような利器を最大限に活用してビジネスモデルを変革していくことの重要性を強調して講演を終えました。

主要著書
経営思考の「補助線」 変化の時代とイノベーション』日本経済新聞出版社、2009年
使う力 知識とスキルを結果につなげる』PHP研究所(PHPビジネス新書)、2006年
戦略「脳」を鍛える BCG流戦略発想の技術』東洋経済新報社、2003年

メルマガ
登録

メルマガ
登録