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ファカルティズ・コラム

2026年05月14日

エアクロメンズに見る「意思決定の自動化」というマーケティングのキーワード

いよいよ今月28日、ファッションサブスクの雄「エアークローゼット」から、待望の男性向けサービス「airCloset Men’s(エアクロメンズ)」が正式にスタートします。

「単にターゲットを男性に変えただけでしょ?」と思ったら大間違い。実はこのサービス、先行する女性向けサービスとは、単なる「性別の違い」以上に、解決しようとしている課題やユーザー心理に鮮やかなコントラストがあるのです。

今回は、エアクロメンズのサービス開始から、現代のヒットの鍵を握る「意思決定の自動化」について考察します。

1. 似て非なる「ライフスタイル」と「マインド」の差

同じ「服のサブスク」でも、女性向けと男性向けではターゲットの生活背景や心理的アプローチが大きく異なります。
マーケティング的な視点で分解してみましょう。

● ライフスタイル:「多様な選択」vs「標準化の効率」

女性ユーザーは、オフィス、休日、行事など、シーンに合わせて「常に新しい自分」でありたいという拡張志向が強いのが特徴です。

一方、男性ユーザー(特にビジネス層)が求めているのは、忙しい日々の中で「清潔感や信頼感を一定に保つ」という合理化・標準化志向。クローゼットを服で満たすことよりも、最適化された数着で効率よく回したいというニーズが根底にあります。

● マインド:「新しい発見」vs「失敗の回避」

ここが最も面白いポイントですが、ユーザーが期待する心理的メリットが対照的です。

女性向けは「ワクワクする体験(ディスカバリー)」。
自分では選ばない服に挑戦し、新しい魅力を見つける「自己表現」や「エンタメ」としての楽しさを提供しています。

それに対し男性向けは「失敗しない安心感(リスクヘッジ)」。
ファッションを「楽しむもの」である前に「マナー」や「課題」と捉える層がターゲット。「ダサいと思われないか?」という不安を、プロの手に委ねることで一気に解消したいという「問題解決」の心理が強く働いています。

2. 現代人を救う「意思決定の自動化」という魔法

ここで重要なキーワードが「意思決定の自動化(ディシジョン・オートメーション)」です。

私たちは毎日、数えきれないほどの選択を迫られ、脳は常に「決定疲れ」を起こしています。エアクロメンズの本質的な価値は、単に服を貸すこと以上に、「何を着るか悩む」という脳のリソースを肩代わりすることにあります。

「プロが選んだんだから、これを着ておけば間違いない」という思考のショートカット。これこそが、忙しい現代のビジネスパーソンが月額料金を払ってでも手に入れたい対価だ、という考え方です。

3. 「選ばせない」ことでヒットした成功事例たち

「選ぶ手間を省く」ことで成功しているサービスは、他のジャンルでも枚挙にいとまがありません。

食の自動化:Oisix(ミールキット)
「今日何作ろう?」という献立の悩みから解放し、「作るだけ」の状態を提供。

投資の自動化:WealthNavi(ロボアドバイザー)
複雑な銘柄選定やリバランスをアルゴリズムに丸投げさせ、投資の心理的障壁を突破。

サプリの自動化:FUJIMI(パーソナライズサプリ)
膨大な種類から選ぶコストを「診断」というプロセスで解消し、納得感とともに自動化。

娯楽の自動化:TikTok / Netflix
「次は何を観るか」を考えさせる前に、好みの動画を流し続けることで、ユーザーの滞在時間を最大化。

どの事例も、ユーザーが本来やりたい「美味しい食事」や「資産形成」の果実だけを摘み取れるよう、面倒な「選別」をシステムが引き受けているのが特徴です。

まとめ: 「選ぶ楽しみ」と「選ぶ苦痛」の境界線

私たちは、好きなことならいくらでも悩めますが、興味のないことや苦手なことに関しては、1秒でも早く決断を終わらせたいと考えます。

マーケティングにおいて大切なのは、自社のサービスが提供しているのは「選ぶ楽しみ(Joy of Choosing)」なのか、それとも「選ぶ苦痛からの解放(Relief from Choosing)」なのかを見極めることです。

今回のエアクロメンズは、後者の「選ぶ苦痛」を徹底的に取り除くことで、ファッションを「個人の趣味」から「効率的なアウトソーシング」へと変えようとしています。

もちろん、エアクロメンズが成功するかどうかは現時点ではわかりません。「選ぶ苦痛からの解放」が想定するターゲットの何割に刺さるかどうかは不透明ですし、またプロモーションや価格など、提供価値以外のマーケティングも重要だからです。

しかし、今の「モノとサービスが溢れかえっている」現代において、「意思決定の自動化」は、今後あらゆる業界でさらに加速していくでしょう。
あなたのビジネスでは、顧客のどんな「決定疲れ」を肩代わりできるでしょうか?

この「思考のショートカット」という視点、皆さんの身近なサービスに当てはめてみると面白い発見があるかもしれません。

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