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夕学レポート

2018年06月04日

中間管理職よ、騎士をめざせ! 木村尚敬さん

キムラphoto_instructor_927.jpg「平成」も、残り1年を切った。
この時代の節目を前に、働き方改革関連法案が衆院を通過する一方、従来の官僚の仕事の進め方や、伝統ある大学運動部の指導方法などが立て続けに大問題となっており、昭和~平成を通じて「当たり前」とされてきた考え方が、次々と集中砲火を浴びている。
産業界においても激しい環境変化が起きている。世界に占める日本のGDPは今やわずか6%となり、日本企業はアウェイを前提とした戦い方が当たり前のフル グローバル化に直面している。
技術面から見ても、IT・デジタル化によりスマイルカーブ化が加速し、日本企業が得意としてきたモノづくりの付加価値が減少してしまった。
私たちは今、大きな大きな時代の変わり目に直面している。
日本を代表するメーカー系大企業の過去40年間の軌跡を見ると、80年代には高い営業利益率を誇っていたソニー、ホンダ、パナソニック、東芝、日立といった名だたる企業が、約40年後の現在では売上高を何倍にも伸ばしながらも、営業利益率を何分の1にも減らしてしまっている。規模は大きくなったのに稼ぐ力が激減しているというのだ。
同じく過去40年間で売上も営業利益率もともに伸長傾向にある多くの海外メーカーと較べると、その差は明らかだ。

“傍流”こそが勝つ時代へ

このように環境変化が大きいということは、企業経営においては過去の経験則が通用しないということでもある。これからの時代は、保守本流のエリート街道を歩いてきた人よりも、従来的な意味では”傍流”で、事業の撤退戦や子会社の経営再建を経験した人のほうが、強いリーダーになれる可能性が高い。これまでに経験したことのない局面を打開する力があるからだ。
「そうした現代にこそ求められるのがダークサイド・スキルだ」と語るのが、本日の講師、(株)経営共創基盤パートナー・取締役マネージングディレクターの木村尚敬氏である。
ダークサイド? おぉ、スター・ウォーズではないか。
スマホの壁紙をヨーダの写真にしているほどのスター・ウォーズ ファンの私だけに、受講のきっかけは「これからのリーダーシップのあり方~ダークサイド・スキルを身につけろ~」という講演タイトルに惹かれたからだった。
まさかジェダイの騎士をめざす話ではないだろうが、ダークサイド・スキルとは一体なんなのだろう…との期待を込めて講演に臨んだ。果たしてその内容は、スター・ウォーズ以上に刺激的なものだった。

泥臭くあやしい能力が生きる

古いやり方を廃して新しいやり方に変えようと改革を断行する際には、それが大きな企業であればあるほど、反対運動が起きたり、わだかまりが生じたり、ひずみが出たりするのは当たり前だ。こうした局面は、頭の回転が速いとか数字に強いとか説明能力が高いといった、MBA的な明快な能力だけでは不思議と打開できない。
そこで威力を発揮するのが、木村氏の唱えるダークサイド・スキルである。
さまざまな軋轢を乗り越えて、人に影響力を及ぼしたり、組織内の空気を支配したり、時にはトップまでをも意のままに操るといった、切った張ったの泥臭くあやしい能力のことだ。
このスキルはいわゆるメーカー系の大企業で働くミドルマネジメントにこそ有用なものであり、この環境変化の局面で改革のキーマンとなりえるのはミドルマネジメントなのだという。
しかし、なぜ改革のキーとなるのが、トップマネジメントではなくミドルマネジメントなのか。

トップは20年先のビジョンを持たない

その理由は、トップマネジメントの時間軸はせいぜい5年先までだからだ。目の前の課題を先送りしていても逃げ切れる世代であるトップには、20年先を見据えた大改革への決断などできないし、する必要性も感じられない。
もちろん20代や30代前半までの若手には、改革を断行するだけのスキルも知識もまだない。
それができるのは、20年先まで現役を続けるであろう時間軸を持っているミドルマネジメントだけなのだ。
大企業には様々な拠点や部署がある。そのそれぞれで現場を束ねるミドルマネジメントは、当然それぞれの課題に直面している。しかし、ミドルマネジメントがそれぞれの都合のために部分最適を求め、全体の課題を先送りしていては、会社を改革することはできない。
会社のためではない。課題は今のうちに対処しておいた方が、20年先まで働くミドルマネジメントにとっては楽でもあるのだ。

7つのダークサイド・スキル

ではミドルマネジメントは、トップにどのように”球出し”をし、全体最適につながるような意思決定を引き出せばいいのか。また部下から引き出す情報の質と量をいかにリッチにできるのか。
その方法論がダークサイド・スキルだ。
ダークサイド・スキルとして木村氏は以下の7つを挙げる。

  1. 思うように上司を操れ
  2. KYな奴を優先しろ
  3. 使える奴を手なずけろ
  4. 堂々と嫌われろ
  5. 煩悩に溺れず欲に溺れろ
  6. 踏み絵から逃げるな
  7. 部下に使われて使いこなせ

個々の趣旨についてここで説明する紙幅はないので、木村氏の著書『ダークサイド・スキル 本当に戦えるリーダーになる7つの裏技』(日本経済新聞出版社)を読んでいただきたいが、いかにも扇情的なアジテーションではないか。

ストレスのかかる意思決定から逃げない

木村氏が講演中、何度も口にしたのが、「ストレスのかかる意思決定から逃げない」というキーワードだ。
聖域なき構造改革や事業ポートフォリオの大規模な見直し、事業モデルの大転換。それらをスピーディーにやりきったかどうか、そして変革を継続し続けられるかどうかが、勝ち組と苦戦組を分ける分水嶺となる。
当然、そうした変革にはストレスが伴う。
そしてストレスを避けようとするのは人間の本能だ。
しかしそんな時こそ、勇気をもって立ち上がるべきはミドルマネジメントなのだ。ミドルマネジメントがストレスのかかる意思決定から逃げずに、ダークサイド・スキルを駆使して立ち回ることで、会社を勝ち続けさせることができ、やがて本当に強いリーダーとなることができる。日本の企業の潜在力はまだまだ高いので、そうすることが結果的により多くの人を幸せにできるのだ。
「フォースのダークサイドは誰もが到底不可能と考えるような数多の力を得るための道なのだ」
これは『スター・ウォーズ エピソード3』で銀河帝国初代皇帝のダース・シディアスが言ったセリフだが、映画の世界に負けず劣らず激動している現代、数多の日本のミドルマネジメントたちがダークサイド・スキルを身につければ、不可能を可能に変えることができるリーダーが輩出されるに違いない。
(三代貴子)

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