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夕学レポート

2018年07月10日

東京五輪後の金融政策をうまく使うための、暮らしの考え方 白井さゆり先生

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どんな暮らしをしたいのか

東京五輪後にどんな生活が待っているのか、考えて行動を始めたところでともするとどれも不景気に備える作業ばかりになりそうだ。この間の梅澤さんのお話を聞いて思ったけれど、五輪後の日本をどうしたいのか、どうしたら楽しく生活できるのかの自分に置き換えて、もっと具体的に思い描かないといけない。
慶應義塾大学総合政策学部 教授の白井さゆり先生のお話は、論理的に五輪後の日本経済を予測しつつ、発想の転換により新しい金融政策を行うことの重要性がテーマであったと思う。その根底に必要なのは、東京五輪後にどのような生活をしたいから、どのような金融政策へと発想を転換させていくべきなのかということなのではないだろうか。

暮らしの理想から生まれる金融政策の必要性

日銀が異例の超異次元緩和(マイナス金利)を開始したのは2016年1月。2016年と2020年五輪後の人々が求める生活スタイルや理想は、大きく変わっているのではないか。その間にどれだけの新しい技術が芽生え、どれだけのブームが起こり、新しい政策が実施され、人がライフスタイルを変化させただろうか。それを前提にすれば、やはりそれに見合った発想の転換は必要になるのかもしれない。
政府はインフレ率2%という水準で徐々に物価が上昇し、その好循環により名目国内総生産を2020年までに600兆円へ向上させたいと考えている。しかし、将来に対する国民の不安は小さくなく、財布のひもは固く、なかなかお金を借りてくれない。白井先生は、今や国民の3割が65歳以上の高齢者である我が国において、マイナス金利は歯が立たない状態であることを訴えた。
実際には、日本の物価上昇率は、2012年以降平均で0.5%となっている。他方、国民のインフレ率予測は高い数値を示しているのだ。主婦がパート等の短時間労働で働く割合が増えているため、世帯収入は2012年以降若干上昇傾向にあるものの物価上昇を懸念する声は、将来に対する不安を反映しているため、現在の収入によらず消えることはない。日本の低インフレは構造的な理由が原因となっている。

2020年以降の日本経済

過去5年間の企業の景況感と収益は、さらなる海外展開の推進や世界景気の同時改善にけん引され、好調であった。人々の景況感も、2014年3月を境に向上し続けている。しかも実績を上回る高さで。
しかし、先生は企業の収益が2018年度に対前年比で下落する見込みと考えている。アメリカの10年金利が2018年に急上昇しており、保護貿易主義に対する懸念と、トランプ政権への期待が徐々に失われたことで、投資家の動きが鈍化することが予測されるためである。また、これに関連して中南米を含む新興国の景気が鈍化することや、イラン等の地政学的リスクが存在する。
マイナス金利または10年金利0%という日銀金融政策の負の側面のリスクが顕在化する可能性もある。例えば、保険会社の貯蓄性商品は金利の低さから商品自体を撤退するか、資産・負債の不一致によるリスクの上昇が考えられる。日銀が大手企業の株を買い占めており、その金額は、日本の投資家ランキングで2位となっているが、これでは議決権を行使しない物言わぬ投資家ばかりがはびこる世の中になってしまう。先生は、日本企業のガバナンスにおいて非常に残念なことであると考えている。
最後に、日本社会自体の在り方も変わるだろう。モノを過剰消費していた時代から共有とリサイクルの時代へ突入しつつある。高齢化・長寿化と医療福祉にはより民間の力が参入するだろう。人手不足を解消するための労働力を集めなくてはならないし、今後はプロフェッショナル人材が増えていく。

発想の転換

先生は締めくくりとして、金融政策の発想の転換が必要だと説いた。低インフレはそもそも悪いことなのか、円高は悪いことなのか、低成長ではいけないのかを根本的に考え直すことが必要であると。先生のお考えでは、世の中の在り方が変わっているのだから、そして国民が求めている生活スタイルが変わっているのだから、それに見合った金融政策にすればよいというものだと受け取った。
私の理想はあと少し仕事の時間に余裕をもって、勉強する時間と新しい専門を身に着ける時間を作るという生活。奨学金制度のような金融の仕組みをより使いやすくできる政策はないだろうか。海外諸国では、奨学金を返金できずに働きながらいつまでも借金を返し続けるという奨学金地獄が問題となっている。日本でも同様の現象は起きているはずだ。現在金融価値化されていない、つまり内部経済化されていない価値を取り込むことによって、より多くの学生が奨学金を在学中に返金することはできないだろうか。
例えば、空いた時間を使って、研究テーマそのものを地域に生かし実践することで得られる地域コミュニティへの実験的な成果を授業料の代わりに充てることができる仕組みや、大学内ベンチャーでアルバイトをすると高時給をもらえるようにする等。日本の大学院では教授の手伝いに大きな時間が割かれると聞いたことがあるが、その時間をうまく活用して大学のブランド価値と社会への還元を奨学金返済に充てる仕組みができたら、いい資金循環をもたらすことはできないだろうか。奨学金制度は私にとってありがたい仕組みだが、今、日本の国民が借りたくないと思うお金ではなく、使いたいと思う時間や価値を金融に取り込むことでお金と生活の好循環が生まれると思う。
(沙織)

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