KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2017年10月11日

Think through and Write. 梅田悟司さん

自分の本当の気持ちを考えることは、奥が深くて、少し難しいものと思っていた

photo_instructor_891.jpg 本当の自分の気持ちを問いただすことなんて、私は何か深い悩み事で行き詰ったときにしかしません。仕事終わりや休日にわざわざ時間をとって、普段から自分の考えを問いただしてみるということもしません。なぜなら、自分に問いただしてみるということはなんだか面倒くさくいもので、時間もかかるし、そうかといって答えがうまくでるとも限らないことだったから。深層心理らしきものにたどり着いては、深いところで思考の堂々巡りになり、答えを見つけられたような、そうでもないような中途半端な振り返りに終わることも多いかな。
 日々、言葉を通じてメッセージを伝えることがおしごとの梅田悟司さんは、どうやったらマーケティングする商品を深く理解し、そのセールスポイントにたどり着けるのかという問いただしのエクササイズを続けています。伝えたいと思うこと、商品に対する自分の気持ちや考えを深く、そしてうまく問いただすことで、考えの本質にたどり着く術を磨いてきました。

内なる言葉の解像度を高めることが、よく考えることの正体である

 うまく本質にたどり着くには、考えていることの解像度を上げることです。考えていることを言葉にすることです。言葉には、実際に発せられる言葉である「外に向かう言葉」と、思考を言語化した生身の「内なる言葉」があります。この「内なる言葉」を書き出してみることです。
 今の私であれば、
“あぁ、読者の皆さんは楽しんでレビューを読んでくれるのかな~”
みたいなもの。難解な言葉を選ぶ必要はありません。
 また、内なる言葉は書き留めたほうがいいようです。人に紙を見せる必要もないし、日記をつけるということがもっともこれに近い作業かなと思います。日記には気持ちの浄化作用があったり、考えが整理される効果があったりするものじゃないかな。その「内なる言葉」が目に見える言葉になり、自分と向き合うとき、その深さ、かわいらしさ、臭さが生まれ、言葉として生きるようになるとのこと。
 様々な角度からその言葉に向き合うことが重要だというのも、思考のコツです。まずは、少し客観的な視点で書き出された考えの真偽を確かめてみる。
“読者の皆さんに、楽しんでもらうというより、考えてもらいたい”
 それから、その考えを基礎にして、どうしたいのか、どうなるのかを書いてみることで、考えの先にある結末の予測をすることができます。
“読者の皆さんに、すごい楽しんでもらえる!または、酷評される”
 さらに、なぜ私はそう考えたのかという確認も忘れずに。
“私は人の目を気にしている”

内なる言葉の「語彙力」は外に向かう言葉のタネになる

 やっと、自分の気持ちや考えの本質にたどり着くことができたら、書き出した言葉をふんだんに使って自分の気持ちを紹介できます。”あぁ、読者の皆さんは楽しんでレビューを読んでくれるのかな~”という一文に前後の説明がくっついて、数十秒程度のスピーチになります。私の小さな心配と期待は、色々な方向に放射されグラデーションを帯びた深い「外に向かう言葉のタネ」に成長しています。

考えていることを書きだしてみる>ヨガの瞑想

 私は、ヨガのレッスンで瞑想をした後に、レッスン前よりもやもやして帰宅したことがあります。うまく自分の気持ちに集中することができずに、頭の中が余計にごちゃごちゃしたようです。結局、高い入会金を払ったのに、レッスンからもドロップアウト。すべての邪念を取り去る「無」ということへの道のりは、やっぱり険しかったと知りました。仏教的「無」の考えは今でも好きなのですが、うまくできないこともあるということです。
 でもね、梅田さんの考えるコツは書くことです。ヨガから脱落した私は、書くことで内省することができる点にとても救われました。最初は少しピントがずれたことを書いてもいい。その後に本当にそう考えているのか、確かめてみるステップも踏めばよいだけです。そして、人の気持ちの複雑さを複数の文章で書き表すことが、梅田さんの「内なる言葉」では許されています。本当に言いたかったことや、心の奥底で感じていたことが浮かび上がります。
 私の米国大学院時代の指導教授は、私が論文の執筆に躓くたびにこうコメントしました。「Think through.(考え抜きなさい)」。私は論文を通じて何を主張したかったのか、自分の考えていることを、納得いくまで考えることで、自然と書くべきことが見えてくるという導きでした。当時はただ単に論理的に考え抜く力が欠如していただけかもしれないけれど、書き出すという技を身に着けておけばよかった。。。
 年のせいかな。正解のなくなった時代に、よりどころになるのは、本当の自分の気持ちだけかと感じる場面が増えています。すべすべした手触りのよい紙と上質のさらさら鉛筆を準備して、明日も書こう。
(沙織)

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