夕学レポート
2019年11月18日
革新者の孤独な闘い 平尾成志さん
盆栽がテーマの本講演、”登壇者は作務衣を着たおじいさん”と勝手に決めつけていた。
ところが、ステージ上にあらわれた平尾成志さんは日焼けした細マッチョな体型によく似合う黒いジャケット姿の若者。すらりと伸びた足、うしろでひとつに束ねたイマドキのヘアスタイル、見れば見るほど”BONSAI”より”EXILE”の風情だ。
まるでダンサーのような佇まいのこのイケメンが、文化庁の命を受けた文化交流使として世界各地で盆栽普及につとめたというのだから、そのギャップにただただ驚かされる。
講演は、平尾さんと盆栽との出会いからスタートした。
将来を考えあぐねていた大学時代、京都にある東福寺方丈庭園を訪れた平尾さんは”浄化されるような感覚”を抱いたそうだ。「で、庭園の美しさに感銘を受け盆栽の世界へ」という流れで話が進むと思ったのだが、次に続く言葉はわたしの想像と異なるものだった。平尾さんはこのとき何より「文化を継承することの素晴らしさ」に目覚めたのだという。庭園の美しさはもちろんのこと、昭和初期に創られたものが、形を変えずに今日まで管理され続けていることに衝撃を受けた、と。
「なんでもいいから日本文化を継承したい」という強い思いに駆られた平尾さんは、加藤蔓青園にてのちの師匠となる加藤三郎さんと出会い、盆栽の道に進むことになる。加藤さんと初対面の際に耳にした「これからの盆栽は海外に出ていかないとダメだ」という言葉に反応し、「ここで修行したらきっとおもしろいことになる」と直感して弟子入りを決めたそうだが、なんとも思い切りの良い話だ。日常の閉塞感に飽き飽きしている若者らしい衝動といえばそれまでだが、実際に行動できる人とできない人の間には大きな隔たりがある。
“盆栽”から”BONSAI”へ
「水やり3年」と言われる厳しい修行を経て一人前になった平尾さんは、やがて盆栽業界に対して問題意識を持つようになる。
盆栽が売れなくても「景気が悪いから仕方ない」と何も手を打たず、展示会では一見さんや小口の客はほったらかしで上客にペコペコへつらう。そんな先輩たちを目の当たりにし、「ここにいたら自分の視野が狭くなってしまう」と感じた平尾さんは、師匠の「君は海外に行った方がいい」という言葉にしたがって日本を飛び出した。
海外の盆栽愛好家は、盆栽を見たときにまず品定めしたりうんちくを語るのではなく、素直な感想を口にするそうだ。なぜなら、日本で”盆栽”というと園芸のくくりだが、彼らにとって”BONSAI”は芸術だから。
こうした価値観にふれて「盆栽はもっと自由で良いのだ」と肌で感じた平尾さんは、斬新なアイデアのもとに快進撃をスタートする。展示会会場やストリートで行うパフォーマンスをはじめ、ときにはバトル形式で海外の職人と争ってみたり、はたまたクラブDJとのコラボで音楽と融合したりしながら、BONSAIをエンタテインメントの1ジャンルにまで押し上げた。
客前で盆栽をつくる”盆栽パフォーマンス”は今や平尾さんの代名詞ともいえる活動だそうだが、このパフォーマンスを語る際にたびたび登場したのが「30分が限度」という言葉。たいていの会場では、客は立ったまま観ることになる。そのためパフォーマンスは長くとも30分以内に納めないと観客の負担になってしまう、という文脈だ。
通常なら必要とされている工程をギリギリまで削ぎ落としたり、途中で飽きさせないために派手な演出を取り入れたりと、「いかに魅せるか」をさまざまな角度から追求し、ショーとしての完成度を高めるための惜しみない努力を続けているところに、平尾さんの並々ならぬ意欲を感じた。
アーティスト兼エヴァンジェリスト
盆栽についてまったく無知なわたしでも、平尾さんのやり方がかなりユニークだということは分かる。
当然ながら一筋縄ではいかない面もたくさんあるようで、講演後の質疑応答タイムに「僕のやり方は業界から叩かれてるので」とさらっとおっしゃっていたのが印象的だった。この回答の元になったのは「通っている盆栽教室で、自由につくると古参メンバーからあれこれうるさく指摘される」といった主旨の悩み相談で、この相談者さんは明らかに平尾さんに共鳴している印象を受けた。しかし他の方から寄せられた質問には、独特なパフォーマンスのスタイルや講演内容そのものに対する戸惑いを含むものが少なからずあったように思う。
かくいうわたしも、講演中からザラッとした感覚を抱えていた。お話自体はとても明快で分かりやすかったのだが、どうにも咀嚼できない箇所がいくつかあるように思うのだ。で、つくづく考えてみたところ、平尾さんの目指すものと平尾さんが醸し出すスター性とのギャップが違和感の正体だと気づいた。
平尾さんは、どう見ても”盆栽エヴァンジェリスト”の枠にはおさまりきらない。類まれなプロデュース力を備えた唯一無二の”アーティスト”なのだ。だから「僕の活動は盆栽を広めるのが目的」と言われても、どこかピンとこない。良くも悪くも”平尾成志”の存在感が突き抜けている。
それでも、平尾さんが旧態依然とした盆栽業界に大きな風穴を開けたのは揺るぎない事実だ。
“美しいもの”は、ただそこに存在しているだけで魅力を放つのではなく、創った人、維持する人、そしてその価値を理解し愛でる人がいるからこそ輝く。だから、”美しいもの”を生かし続けるにはそれを守り慈しむ人を多く集めなくてはいけない。
この思いがぶれることなく続いているから、周囲に何を言われようと平尾さんは独自の道を進んでいけるのだろう。
(千貫りこ)
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私にとっての道は、TBSにありました。『VIVANT』は、同じような夢を持つ若者たちの道標になってほしい、そんな思いも込めてチャレンジした作品です。日本のドラマ界、映画界を目指す皆様、夢はあるけど方法がわからない皆様の一助になればと願っております。
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