夕学レポート
2008年03月25日
第16回(6/27) 福岡伸一さん
第16回(6/27)の講師は、青山学院大学教授で分子生物学者の福岡伸一先生です。
狂牛病問題に対して確固たる知見を持っており、知る人ぞ知る存在であった福岡先生の名を一躍高めたのが、昨年出版された「生物と無生物のあいだ」でした。
ネーミングの妙もあって、科学をテーマにした啓蒙書としては異例の50万部のベストセラーになったと聞いています。
昨年夏に、この本を読んだ時には、その内容もさることながら、読者を惹きつける文学としての完成度の高さに驚きました。
かつて三島由紀夫は「小説とは何か」の中で、柳田国男の「遠野物語」の一節を激賞し、これぞ小説であると喝破しました。民俗学の泰斗であった柳田が、実は優れたストーリーテラーであったことを指摘した一文として、よく知られるところです。
分子生物学という、およそ文学とがかけ離れたサイエンスの世界にいる福岡先生ですが、実は、作家顔負けの卓越した「書き手」でもあるようです。
ウィルスの発見やDNA塩基列のらせん構造の発見など、一般人には縁の遠い科学史の一端を分かりやすい文章で繙きながら、「生物とは何か」という命題に挑んできた多くの科学者の功績や愛憎・悲劇を語っています。
自らも彼ら(挑戦する科学者)の一員である福岡先生が記す淡々とした文章には、日の当たらない地下室で、黙々と顕微鏡を覗き続ける科学者への、強い愛惜の思いが込められていると感じたのは私だけではないと思います。
今回の講演は、「生命観」がテーマです。
生命とは、数多くのパーツを精緻にくみ上げた高度で複雑な造形物である、とするステレオタイプの生命観に対して、生命とは、パーツそのものが常に生まれ変わりながら、ダイナミックな流れの中に存在する動的なものだ、という新たな生命観を説明してくれるそうです。
この世に存在する全てのものは「無常」=常ならぬものである、とみる仏教的な世界観が、分子物理学の最先端の知見と一致するという話は、玄侑宗久さんや竹内薫さんも触れていましたが、福岡さんはどのように語ってくれるのか、とても楽しみです。
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