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夕学レポート

2011年06月23日

21世紀の日本発イノベーションとは  辻野晃一郎さん

「いまの大学生は、井深大・盛田昭夫という名前を知らないのです」
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辻野晃一郎さんは、自分の故郷であるソニーの創業者二人の名が、日本社会で急速に忘れ去られようとしている現実に驚いたという。
一方で、二人の名前は、シリコンバレーのITベンチャーの間では、今も語り継がれている。
1999年、スティーブ・ジョブスは、アップルの新製品発表スピーチの冒頭で、前日に亡くなった盛田昭夫の偉績に触れた。
トランジスタ、トリニトロン、CD、ホームビデオ、ウォークマンetc... 既に過去のものとなった技術も含めて紹介しながら、MORITAのようになることが若い頃の夢であったと語った。
2007年、Googleに入社した辻野さんは、わずか20時間滞在という強行スケジュールで訪日したエリックシュミット(当時のGoogle CEO)と初めて顔を合わせた。
辻野さんがソニー出身だと聞いたエリックは、ソニーがいかに素晴らしい会社であったかを熱く語ったという。
ソニーとGoogleの共通点は何か。
「イノベーションを宿命とした会社であること」
辻野さんは、そう喝破する。
先述のソニーのイノベーションが、世界のエレクトロニクス産業を変え、人々のライフスタイルを変えたように、Googleの検索エンジンは、情報探索の方法を変え、知のあり方を変えた。クラウド・コンピューティングは、マイクロソフトやインテルが作り上げた20世紀型IT産業の力学構造を変えようとしている。
「イノベーションは、リスクを取ることから始まる」
だから、異能・奇才が活躍できる。
ソニーは、創業者のカリスマ性や、創業期に入社した冒険心溢れる世代が作り出した企業文化が、異能・奇才を育んだ。これまでに夕学の登壇した出井伸行氏、天外司朗氏、そして辻野さんもその一人だろう。
創業者が亡くなり、カリスマの余韻が消えるとともに、冒険者世代が退場したことで、いまソニーは、普通の大企業に変わろうとしている。
Googleは、もっとシステマティックに異能・奇才に場を与えようとしている。
自由な服装、遊び感覚溢れるオフィス、24h無料食堂etc...。いずれも、仕事とプライベートの境界を取り去り、異能・奇才の遺伝子を24時間ONの状態にするために設計された意図的な環境である。
だから仕事に「のめり込む」ことが出来る。泥臭い、地道な作業も厭わない。
すべては、イノベーションを生み出すために、考えられた生態系維持システムである。


イノベーションは、企業のみならず、現代日本社会が切実に希求するものである。
だとすれば、ソニーの成功と停滞、Googleの成長が教えてくれるものがあるはずだ。
辻野さんが、やろうとしている新しい会社「アレックス」が目指していることが、ひとつの答えなのかもしれない。
1.最初から世界市場へ
2.日本経済の新陳代謝を加速
3.経営スタイル、企業カルチャー、ビジネス慣習の刷新
4.少数精鋭、パートナー重視
5.群衆の叡智の積極活用
6.20世紀的にならない
7.常識を疑う
8.10年早く、10倍速く
9.人にフォーカス
10.天真爛漫
アレックス社の行動指針は、ソニーの「設立趣意書」Google「10の事実」の影響を色濃く残しながら、成熟期を迎えた日本の現状に立脚する、新たなイノベーションの姿を探そうとしている。
オープンしたばかりの「ALEXCIOUS」というeコマースサイトは、その具現化のひとつになる。
九谷焼で作ったワイングラス、漆で描いたネールチップ、曲げわっぱのランチボックス、和紙のスタンドグラスetc...。
日本の伝統工芸が守ってきた職人技に価値と競争優位性を見いだし、「グローバルマーケットに売る」というターゲティングの革新性と組み合わせることで、イノベーションを目指そうというものだ。
松岡正剛氏は、日本は「方法の国」だという
グローバルとジャパンを並列しつつ、巧みに使いこなし、新しい組み合わせを創造していく「方法」が日本の強みである。
日本の「漢字」、日本の「仏教」、日本の「儒教」、日本の「会社」、日本の「ケータイ」。
いずれも「日本という方法」が作り出した傑作である。
幸いにして、いまは、ネットを使えば、グローバルマーケットに簡単にアプローチできる。
“日本”のという枕詞が取れた21世紀の傑作の登場を期待したい。
・この講演に寄せられた「明日への一言」はこちらです。
http://sekigaku.jimdo.com/みんなの-明日への一言-ギャラリー/6月22日-辻野-晃一郎/
・この講演には感想レポートコンテンストへの応募がありました。
20世紀の常識が覆る 新しい時代が始まった(T.M/会社員/32歳/男性)

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