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夕学レポート

2019年10月25日

青柳 直樹「キャッシュレス社会とメルペイの戦略」

青柳 直樹

メルペイが創る「なめらかな社会」

現在はキャッシュレス戦国時代である。paypayにLINE Pay、SEVENpayなどなど、キャッシュレス決済の数は30にものぼり、どの「ペイ」が勝ち抜くのか気になるところだ。
私はメルカリが大好きである。大好きというか、メルカリで売ったり買ったりすることが日常的になってしまった。しかし、メルペイには懐疑的であった。その理由は単純に自分がメルペイを使う機会がなく、メルカリの売り上げもすべて現金化していたことと、割引クーポンが使える場所がファーストフード店やコンビニなど自分はあまり使わないところのものであったからだ。さらに、今年8月発表の決算では、メルカリの経常利益がかなりマイナスになっていたので、個人投資家ではないがメルカリ愛好家である私は、メルペイにまで事業を広げることが心配であった。
しかし、今回のメルペイ代表取締役の青柳直樹さんの講演とNewsPicks佐々木紀彦さんとの対談は、メルペイが可能とする「なめらかな社会」の実現を見据えておられ、希望に満ちあふれ、聴いていてとても幸せな気分になる内容であった。


10月の消費税導入とともに、日本政府はキャッシュレスポイント還元制度を導入した。これを機にキャッシュレス決済を使い始めた人も少なくないであろう。そんな2019年はキャッシュレス元年とも言われており、キャッシュレスで支払いをすることは私たちの生活に身近なものになってきた。私も現在、スイカでせっせと還元ポイントを貯めている。
さまざまなキャッシュレス決済の中でも、メルペイはCtoCのフリマアプリである「メルカリ」の売上金を他のお店でも使えるようなしくみであり、銀行からもチャージ可能である。そんなメルペイは企業として「信用を創造して、なめらかな社会を創る」というミッションを掲げている。そこには単なる決済システムというだけではなく、壁や膜のない、経済価値が適切に配分された「なめらかな社会」を創りたいという思いが込められている。
なめらかな社会の実現のために、メルペイはフィナンシャル・インクルージョン(Financial Inclusion)の取り組みを行っているという。ファイナンシャル・インクルージョンとは日本語で金融包摂といって、金融サービスをすべての人々が利用できるようにする取り組みである。貧困や差別などによって金融サービスから取り残され、経済的に不安定な状況にある人々が基本的な金融サービスへアクセスできるように支援するのだ。
そのためにフィンテックを中心としたテクノロジーの活用によって、銀行口座をもっていない個人に預金や送金の機会を提供できるようにする。今年4月にはじめた「メルペイあと払い」もファイナンシャル・インクルージョンのための取り組みの一つだという。
メルペイあと払いでは、その人のメルカリでの取引情報から、機械学習に基づいて後払い可能な金額(上限枠)を決めている。ハッキングされてしまうので、詳細は教えられないそうだが、メルカリ内での三段階でのレビューや約束を履行しているかなどが信用のポイントになるそうだ。
既存の金融システムでは、所属する企業名や勤続年数・年収でその人の信用が決まっていたが、これからの時代とは「信用のかたち」がミスマッチだという。そういえば、先日読んだボッツマン著『TRUST』にも、「これまでは信用は下から上に流れていたが、それが横へと分散されはじめている」と書いてあり、なるほどと思った。真面目な行動をしている人が信用されるというのは、その人の地位や年収ではなく、その行動を評価するシステムであり、テクノロジーなのだが「より人の温かみ」を感じられるところがいい。
メルペイのあと払いシステムによって、クレジットカードが作れない未成年やフリーランサーなどが欲しい時に買いたい物を買えることにより、「買えるまで待つ」という時間的コストを節約できる。さらには買った物の支払いに追われることなく、自分の身の回りの不要品を売って後払い分のお金を作れることもいい。それだけでなく、クレジットカードはそれにまつわるプレーヤー(関係者)が多い分、利用店の支払わなければならない手数料が高く(1~3%)、中小企業へのダメージが大きい。「あと払い」はそんな困ったことからも解放してくれるシステムだ。
さて、対談者の佐々木さんと青柳さんは、もともと慶應義塾大学総合政策学部の同期であり、偶然にも同じゼミだったそうだ。それもあり、皆が聞きたいことを佐々木さんが青柳さんへと、ぐいぐいと質問してくださった。
冒頭にも書いたが、現在はキャッシュレス戦国時代で、お店に行けば「〇○ペイ使えます!」の宣伝を必ず見かける。その〇○ペイたちの「生き残りの勝者の鍵は何か?」という質問には、投資ができて開発能力があるペイが生き残るだろうというお答えだった。メルペイには400名もの人的資源投資をして、不正利用のアタックから守るにはそれぐらいの人数が必要だそう。そして、投資分を回収する期間は、5年10年はかかると見ておられる。先日、メルカリCOOの小泉文明さんの講演を聴いたときも、偽物を排除する画像認識に投資されていて、とてもユーザーのことを考えた会社であると思っていた。
そんな数あるペイたちのなかでも、カスタマーが想起できるペイは2~3個が限界であるから、現在30ぐらい乱立しているペイたちが収斂していくと青柳さんは予想されている。メルペイは不要品のやりとりなど、エコの観点からしても他のペイと比較して社会的貢献度も高いように思われる。だから生き残って欲しい。今後はメルカリ不要品を売ったお金でメルペイから寄付できるシステムなどを考えているそうだ。「なめらかな社会」、メルペイなら実現できそうな気がする。
(ほり屋飯盛)

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