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夕学レポート

2012年05月10日

広告表現のイノベーション 川村真司さん

photo_instructor_610.jpg「イノベーションとは新しい組み合わせである」
ちょうど100年前、29歳の経済学者シュンペーターは『経済発展の理論』でそう喝破した。
・新しい技術の組み合わせ
・新しい生産方式の導入
・新しい原材料の使用
イノベーションとは、あらゆる新しい組み合わせを意味している。
32歳の若きクリエイターである川村さんが、シュンペーターのイノベ-ション概念を意識していたのかどうかはわからないが、クリエイティブに向き合う姿勢は、イノベーションそのものである。
クリエイティブとは、自分達が利用できるさまざまな物や力を、枠組みにとらわれないで結びつけること。
川村さんの講演を、そんなメッセージとして聞かせてもらった
慶應SFC佐藤雅彦研究室の一期生として、広告表現の世界に触れた川村さん。
卒業と同時に博報堂に入社し、CMプランナーになった。人も羨むキャリアである。
彼は、そこをわずか3年で辞めてしまった。
「プロダクトやサービスに近いところで何かを創り出したい」と考えていた川村さんにとって、CMという枠の中だけでクリエイティブを考えることが窮屈に感じたという。
その後外資系の広告代理店数社を経て、昨春5人のクリエイターによる新会社PARTYを立ち上げた。
広告代理店でも、製作プロダクションでもない。クリエイティブの実験をするラボ(研究室)。それがPARTYのコンセプトである。
広告だけにとどまらず、実際にプロダクトを作ったり、ミュージックビデオの映像をディレクションしたり、枠を越えた活動をしている。


そんな川村さんがクリエイティブにあたって意識していることは三つある。
CREATIVE PROCESS 作り方から作ること
クライアントのプロダクトやサービスが持つメッセージを忠実に守りつつ、クリエイティブの作り方をイノベーション(新しい組み合わせ)しようということである。
例えばSOURの「日々の音色」のミュージックビデオを見て欲しい。

プロのカメラではなく、PC付属のWEBカメラを使う
タレントではなく、SOURのファン(素人)に出てもらう
スタジオで収録するのではなく、出演者の自室で撮影をする
画面はひとつではなく、マルチスクリーンで勝負する
まさにイノベーションである。
こうして出来上がった作品は、バラバラでありながらひとつの画面を構成する画期的な映像表現になった。
ミュージックビデオはyou tubeで150万回再生され、インディーズのバンドであったSOURはメジャーになった。
NEW USE OF MEDIA メディアの新しい使い方
本というメディアは、グーテンベルク聖書以来、文字情報を伝達するために存在してきた。
これをアートグッズとして使おう、しかもよくある装飾デザインとしてではなく、動かすことで楽しめるエンタテイメントグッズにできないか。
子供のころからぱらぱらマンガが好きだった川村さんが考え出したのが、手の中で虹を創り出すツールとして本というメディアを使おうというものだ。

「Rainbow in your hand」と名付けたこの本は、世界で数万部を売り上げるヒット作品になった
これまた典型的なイノベーションである。
STORYTELLING TECHNOROGY 新しい物語のテクノロジー
最新のIT技術に強いクリエイターは、ともすると、新しい技術を使いたいがためのアイデアに陥りがちである。
一方で、どんな革新的なアイデアであっても、技術の裏づけがなければ、絵に描いた餅に終わる。
技術オリエンテッドでもなく、アイデア倒れにもならない、新しい物語のための新しい技術を適切に組み合わせることが肝要になる。
これこそイノベーションの本質と言える。
川村さんが目指しているのは
SIMPLE UNIVERSAL シンプルだけれどもユニバーサル
さまざまなジャンルを超えた多様性の中で、あえて共通項を探そうとしている。
ガラケーが、スマフォに完敗したケータイの例を取るまでもなく、ある枠組みの中での機能競争、効率性追求に邁進してきた日本の製造業は、垣根を超えた画期的なイノベーションを生み出せずにいる。
しかし、視線をほんの少しずらしてみれば、世界が認める若いイノベーションの担い手は育っいるのではないだろうか。
あとは、彼らに大きなチャンスを与えることである。
これもまた、イノベーション(新しい組み合わせ)なのだから。

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