KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

2016年04月12日

ニューヨークはあたたかい

寺尾 美香

これまでなにかにつけてニューヨークで暮らすのって大変、ってなことばかり書いてきましたが、もちろんそんなことばかりではありません。これっていいな、って思うこと、あたたかい気持ちになること、日々の些細な出来事の中にいろいろあります。

まず思うのは、子供に優しいニューヨーカーのなんて多いこと!
ハワイやグアムなどで、ホテルのスタッフやレストランの店員さんが顔中にっこにこの満面の笑みで「Hi! Little Baby!」と声をかけてくれるのは嬉しいけど、それはそこが観光地だから、私たちがお客さんだからだと、心のどこかで思っていました。でも、ハワイでもなく、観光地でもない、クールで都会的な人たちというイメージのあったニューヨークの人々が、娘と私にこんなにも優しく接してくれることに、来た当初は嬉しい驚きと戸惑いを覚えました。

特にベビーカーにまつわるエピソードは山の数ほどあります。

例えば、ドアオープン。
お店に入る時、地下鉄の駅に入る時、ドアの前にベビーカーを止めて、ドアノブに手をかけたあたりでどこからともなく
「I got it 」
という声が聞こえてくるのです。すると自動ドアのようにすっとドアが開いて、私たちが中に入るまで彼ら、彼女らはドアを開けて持っていてくれたります。

ちょっと、ちょっと、かっこいいじゃないの!

日本じゃ、レディーファーストとか言ってデート中の男子にたまにやってもらった経験しかありませんでした。ここじゃ、男性だけでなく、女性も、若者も、お年寄りも、ホームレスような人にも・・・これまで本当に色んな方にこのドアオープンのご親切をしていただきました。その素早さったら!どこからともなくさっと現れて、さっと去っていく・・・

彼らは別にその店に入ろうとしているわけでも、地下鉄に乗ろうとしているわけでもなく、ただただ、ドアの前で立ち止まっている東洋人の親子連れを見て、わざわざ止まってくれる単なる通行人だったりするわけです。そこに驚きます。
誰かのためにドアを開けてあげるためだけに立ち止まれるか?
日本なら”おもてなし”とか”サービス業”という役割や責任を与えられたら俄然実力を発揮する人が多いと思うのですが、ここではなんかそれとは違うのです。

逆に、そんな親切なニューヨークの人々なのに接客などの仕事となるとその対応の悪さにがっかりすることの方が多い。食事をして、お金払って、チップまであげてるのにこんな対応しかできないの?!と、日本の高レベルの接客に甘やかされている私たちにはどうしても理解できないような経験も度々です。うーん、なんとも不思議です。

またある時は、”神の声”が聞こえることもあります。

エレベーターのない駅が多いマンハッタンの地下鉄、どうしても階段を使わなければ上り下りできないことが多々あります。子供が歩ける時はラッキー。なんとか歩かせながら階段を上り下りすればいいけれど、寝てしまった時などは最悪です。次女がお腹にいたとき、片手に長女を抱きかかえ、荷物の入った大きなバッグを肩かけしてベビーカーをたたんで持ち上げて「さあ、いくぞ!」と戦闘態勢を整えたところで「大丈夫?手伝おうか?」と、またどこからともなく声が・・・・

寝込んでさらに重く感じる13キロの娘を抱えた妊婦にそれはもう、ほとんど神の声!
「あー、もうホント助かります。ありがとうございますっっ!!!!(あなたは神さまです)」と最大の笑顔で御礼を言って厚意に甘えさせて頂きます。

別れ際にはにっこり笑って「Have a nice day!」とか言って去っていくその人。いいな、かっこいいな。ああいう人に私もなりたい!毎回心に誓うのでした。

もちろんバスや電車に乗り込んだ瞬間には、娘にさっと席を譲ってくれる人がほとんどです。混んだ車内で誰も立ち上がらないと、隣に立っている人が「ちょっと、あなた、この子に席を譲ってあげて」と言ってくれたりすることも。

とはいえ、甘えてばかりもいられません。私たちもラッシュアワーを避ける努力もするし、ベビーカーをたためるときは極力たたみますが、やはり子供が寝てしまった時や荷物をたくさん積んでいる時には「みなさん、ごめんなさい・・・」と思いつつドキドキしながら、エイやっとそのまま乗り込みます。

こういう時、日本なら「ちっ!」と舌打ちする人や嫌な顔をする人がいてもおかしくないし、それもわかります。ニューヨークの人々の中にも快く思っていない人も、もちろんたくさんいるでしょうし、子供が好きじゃない人も大勢いるでしょう。
一度やむをえずラッシュアワーとぶつかってしまった時「ちょっと、つめてよ!」と誰かがドア付近で叫んだ時に、隣のおばちゃんが、「ここにベビーカーがあるの!わかんないわけ?!」と返してくれました。「ごめん、ごめん、見えなかったから」というやりとりがあっておしまい。さっぱりしています。

もしこれが日本で都内の満員電車ならこういう時、どうなるのでしょうか。周りの人たちは、無言でスマホをいじりながらあからさまに厳しい視線を向けたりするのかも。。。

「空気よめよー。何考えてんの?こんな時間にベビーカーで乗るなんて非常識。」

という、無言の糾弾を受け、拷問のような数十分を過ごすのでしょうか・・・小心の私なら耐えきれなくて、逃げるように途中で降りてタクシーに乗ってしまうかもしれません。 

逆に、こちらではそういう非言語のコミュニケーションが愉しいことがあります。ショップの店員さん、歩いていてすれ違う人たちが娘を見てにこっとしてくれたり。最初はうちの子なんかヘン顔でもしてた?と思いましたが、単に子供を見て「可愛い」と微笑んでくれる人たちが多いことに気付きました。そこで私もにこっと返す。
こういうのってすごくいいなー

ただ、それだけのやりとりですが毎回思います。殊更にうちの子が可愛い、ということではなく、小さな子供を見ると、自然とそういう反応をしてしまう大人が多い、そういうことなんだと思います。社会が子供に対して優しいってこういうことかな。とも思う。
子供は母親だけからではなく、こういう見ず知らずの誰かからも笑顔というかたちの愛情を受けて大きくなっていく。とっても幸せなことです。
娘にはおおいに勘違いしてもらって結構!日本で足りない、足りないと言われている子供の自己肯定感も、アメリカではこんなかたちでも育まれているのかもしれません。

微笑んでくれたり、話しかけてくれたりするのは、おばちゃんだけじゃありません。若いお姉さんもお兄さんも、おじさんも子供をよく見ている人が多いことに驚きます。他人に無関心な人が多いのかと思っていた大都会のマンハッタンで、人々の周囲へのアンテナやアテンションの高いことに、ただただ驚くばかりです。

私もただぼーっと歩くのをやめて、困っていそうな人がいたら、少しでも日ごろのお返しをしよう。そういう気持ちにさせてくれるニューヨークの街。こういうあたたかい気持ちは人から人へ伝播して、伝染すること。ここの人たちに教えていただきました。
もうすぐニューヨークに暮らして2年になります。街の人たちのご厚意を当たり前に思うことなく、何年経っても感謝の気持ちを忘れませんように!
ここに留めておきます。

寺尾 美香(てらお・みか)
慶應丸の内シティキャンパスで4年9カ月間ラーニングファシリテーターとして多くのプログラムを担当。2014年4月よりNY在住。
メルマガ
登録

メルマガ
登録