ファカルティズ・コラム
2010年05月07日
普天間問題をas思考で考える
鳩山首相の沖縄訪問と実質的な県外移設の断念。
ここ何日かの話題の中心は、この普天間問題です。
twitterでも現役ジャーナリスト、即席評論家が入り交じって、様々な自説を展開しています。
そうするとどうしても発生するのが・・・口論。
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「抑止力が必要なんて子供でも知ってるw」
「沖縄の米軍が本当に抑止力になると思ってるのか、おめでたいなww」
「アブナイ国が近くにいくつもあるだろう。これだからブサヨはwww」
「却って米軍基地がそれらの国の標的になる、つまり抑止力というよりその正反対の戦争リスクということも理解できんのか。これだからネトウヨはwwww」
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・・・twitterがなんとなく『ミニ2ちゃんねる』化してやれやれです。
(これでもかなり大人しめに翻訳してます。本当はもっと罵詈雑言がいっぱい)
さて、こうした口論(議論なんてとても呼べないのでこの表現を使います)の当事者たちの最大の問題点は、「とらえ方が一面的」なことでしょう。
一面的なとらえ方、つまり「○○はAである」という考え方を、私は“is思考”と呼んでいます。対象とその解釈を1対1に単純化してしまう思考の癖といっても良いでしょう。
米軍基地を『抑止力』としかとらえていない人と、『戦争リスク』としかとらえていない人だから、低次元な口論になってしまうのですね。
お互いにモノゴトの一面しか見ようとしていない、という点ではお仲間とすら言えるのですが。
実のところ在日米軍が『抑止力』なのか『戦争リスク』なのかという論争に勝者はいません。
どちらも仮説であり、現時点で完全な検証はできないからです。
(これで何年後かにあの国あたりが在日米軍基地にミサイルでも打ち込めば、やっとそこで後者の仮説が立証されるのですが・・・縁起でもないですね、すいません)
では、普天間問題(もっと広げると在日米軍)について議論することは不毛なのか、といえばそうではありません。
これがきっかけとなり、日米関係・安全保障・外交全般・負担の不公平性など、様々なイシューについて議論が進むのは歓迎すべきことでしょう。
だからこそ、まず我々がやるべきなのは、is思考に縛られず、as思考で在日米軍の多様なとらえ方(「意味/位置づけ/意義」と言ってもいいでしょう)を洗い出すことです。
確かに『抑止力』『戦争リスク』、このふたつのとらえ方は間違っていません。
まずは、こうしたリバーシブルジャケットの表と裏のようなとらえ方を試みるべきでしょう。
時計を見て「あと5分“しか”ない」というとらえ方もできれば、「あと5分“も”ある」というとらえ方もできる。
SWOT分析で強み/弱みを洗い出す際「自社のある特性を強みとして見たら、弱みとしても見ることができないかを考えよう」と言われるのも同様です。
「片面だけ見ずに必ず両面を見よう」ということですね。
しかし、モノゴトは両面から見るだけではちゃんと見たことになりません。必ずもっとたくさんのとらえ方がきるはずなのです。
たとえば[事業仕分け]ってどのようなとらえ方ができるか考えてみてください。
「(子供手当などの)有意義な政策の原資を確保する仕組み」というとらえ方もできますが、その真逆の「(子供手当などの)無意味な政策による税金の無駄遣いを促進する仕組み」というとらえ方もまた間違っていません。
これは「表と裏の両面」からとらえたわけですね。
でもこの他にも「日本の科学技術を衰退させる仕組み」や「官僚イジメを全国中継する仕組み」、そして「蓮舫議員の人気を上げる仕組み」「国民に税金の使途について関心を持たせる仕組み」などなど、様々なとらえ方ができます。(これもほんの一例に過ぎません)
これがas思考です。
「○○はAである」ではなく、「○○はAとしてとらえることもできるし、BとしてもCとしても・・・」のように“~として(as)”と多面的にとらえるので『as思考』と呼びます。
いつもいつも同じ答しか頭に浮かばなかったり、他者の言うことを安易に鵜呑みにしてしまったりするのは、is思考という悪い癖が身についているからです。
だからこのas思考で多面的にとらえ直す(再定義)ことが必要です。
昨日とは違う、そして他人とは違う答を見つけたいのであれば、このas思考を良い習慣として身につけることが必要条件とすら言えるでしょう。
では本題に戻ります。
在日米軍基地の意味/位置づけ/意義を、as思考で『抑止力』『戦争リスク』以外にも考えてみてください。
コツは、このブログでも何度か述べてきたように、様々な視座で対象を見ることです。
民主党の立場では? 鳩山首相にとっては? 自民党の立場では? 沖縄県民、徳之島の島民、米国国防省、オバマ大統領、マスコミ、米国メディア、自衛隊・・・
きりがないほど様々な視座(対象を見る立場)があります。
「立場が変われば意見が変わる」とよく言われますが、それはとらえ方も変わるからであって当然のことです。
鳩山首相の立場もひとつではなく、「内閣のトップ」「自衛隊の最高指揮監督者」「民主党代表」「個人としての鳩山由紀夫」のように様々な顔があります。(アタリマエですね)
それを理解した上で普天間問題に関する鳩山首相の発言を聞くと、「どの顔が表に来た発言なのか」が見えてきます。
それに加え、見る範囲(視野)とフォーカスするポイント(視点)も変えて見てみましょう。
視野を変える際には、「国内の問題から環太平洋の問題に広げて見る」といった空間的視野だけでなく、「今だけを見るのではなく過去50年間に遡って見る」のように時間的視野も変えてみましょう。
また安全保障という視点もありますが、沖縄県民の感情、日米同盟、対中国外交、北朝鮮問題、基地周辺の治安、自衛隊の役割、参議院選、マスメディアの報道姿勢・・・様々な着眼点があるはずです。
こうして様々な視座・視野・視点で普天間問題を見ると、この問題が歴史的にも根深く、また影響範囲も広い複雑な問題であることがわかります。
決して安全保障という視点だけで、「在日米軍は抑止力なのかリスクなのか」と単純化して考えるべきではないのです。
視座・視野・視点を変えてちょっと考えるだけでも、
◆基地周辺の子供達への教育と安全を阻害するモノ
◆日米関係が良好なことを中国・ロシア・北朝鮮などにアピールするモノ
◆鳩山政権の寿命を短くするモノ
◆マスコミの民主党叩きを助長するモノ
◆自衛隊の存在意義や憲法第9条への議論を再燃させるモノ
◆公共事業や基地関連ビジネスにより地域の経済を活性化させるモノ
といった様々な普天間問題及び在日米軍のとらえ方ができることがおわかりでしょう。
(当然のことながら上記もほんの1例に過ぎません)
そしてこのような様々なとらえ方は、普天間問題や在日米軍に関わる様々な人々の『思惑』でもあります。
だから私が首相を含む政治家やマスメディアに望むのは、この様々な思惑を(全ては難しいでしょうが)洗い出し、それに向き合うことです。
次に望むのは、その様々な思惑の優先順位を付けること。
そしてその優先順に基づき、「こうすべきだ」と主張することです。
その際、優先順位をつけたモノサシ(判断基準)を明確にすることも必須です。
しょせん100点満点の回答などありません。
誰かの思惑を優先すれば、他の誰かが泣くことになります。
全てのステークホルダーにいい顔なんてできないのです。
だからこそ政治家やマスコミの方々には、様々な思惑を認識した上で「ちゃんと悩んでほしい」のです。
既にある答に強引に誘導したり、叩くことが目的で叩くのは卑怯者です。
結論と論拠(他の選択肢の開示と結論に至った理由)を誰にでもわかるように説明してくれれば良いのです。
アタマの良いはずの方々ができないわけはありませんよね?
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