KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

2012年03月09日

『ことば』のコンテクスト、そして優秀な彼女たち

今週、某女子校の公開授業(ワークショップ)に参加してきました。
(そこ、「羨ましい」とか言わないように(笑))
この授業、私の慶應MCCのプログラムに参加していた先生が社会人や大学生を巻き込んで行っているもので、私としては今回が3回目の参加でした。
生徒は10数人、そして社会人は50人以上!(笑)
大学の授業やゼミではこうした取り組みはしばしば耳にしますが、高校では社会人の参加者数も含めて大変珍しい試みです。
今回は、この公開授業の参加レポートという形で、当日私が感じた/考えた『学習に関する気づき』を皆さんと共有したいと思います。

参加者は12のグループに別れ、それぞれのグループは社会人・大学生が4~5名、生徒が1名で構成されていました。
軽い個人・グループワークでアイスブレークを行った後、本日のメインテーマ『ことば』についてのワークの始まりです。
この授業、毎回テーマに沿った豪華なゲスト講師がいるのですが、今回はなんと芥川賞作家の川上弘美さんと、電通ソーシャル・エンジン・デザインの福田崇人さん。川上さんは言わずもがなですが、福田さんは電通ECOプロジェクトの中心人物として、「もったいない」だけでない日本の伝統的なエコな言葉を調査し、『エコトバ』という本にまとめられた方。お二人とも『ことばのプロ』です。
ワークの前に川上さんが話された「ことばはその字面だけでなく、その背景によってとらえ方が異なる」というお話しがとても印象的でした。
「私が自己紹介で「私は友達の少ない嘘つきです」と言ったら、普通「とんでもない奴だ」と思われる。でもそこに”小説家”という肩書きが背景としてあると、この自己紹介は全く別のとらえ方がされるでしょう」
確かに言葉にはその言葉そのものが持つ意味(ソシュールが言うところの『シニフィエ』)とともに、それがどのような文脈で使われるのかによって様々なとらえ方が可能です。
『ことば』は、そのコンテンツだけでなく、コンテクストと必ずセットになるわけです。
小難しい話をしているように見えるかもしれませんが、これを私たちの日常で考えてみましょう。
同じ小言を言われても、「あの人から言われると反省するけど、あの人からだとなんかムカツク」という経験はありませんか?
また、同じ「いってきます」という挨拶でも、ウイークデイに会社に出掛ける朝と終末に遊びに出掛ける昼過ぎ、はたまた難しい試験に臨む朝では、おのずとその言葉、そしてそれに対する「いってらっしゃい」の意味が違ってくるはずです。
ここから言えることは、「コミュニケーションにおいては自分と相手の言葉だけでなく、そこで共有されている(あるいは共有すべき)コンテクストを意識した方が良い」ということでしょう。
しばしば、「コミュニケーションにおいてはバーバル(言語)情報だけでなく、視覚・聴覚のノンバーバル(非言語)情報にも気を配ろう」と言われますが、そこで見える/聞こえるノンバーバル情報だけでなく、このコンテクスト情報も重要なのです。
自分の話を聞いているこの人は、今どのような状況に置かれているのか。
自分に話をしているこの人は、どのような経歴と価値観を持っているのか。
こうしたコンテクストに配慮する、あるいはコンテクストを作り上げることが、適切な言葉やその言い回しを選択したり、相手の言葉を誤解無く解釈することに繋がるのです。


話を授業に戻しましょう。
ワークは計2回、お題に対する個人の考察とグループでのシェアと議論、そして各グループの生徒がグループワークのまとめと気づきを発表、というスタイルで行われました。
最初のお題は福田さんの『エコトバ』中の様々な日本のことば(有難う・いただきます・お蔭様・お裾分け・道草 等々)から自分の好きな言葉を選び、その理由も述べます。
このワーク、個人の価値観が表れてなかなか面白いものになりました。また、多くの方が「他者との関係性」に関連する言葉を選んでおり、まさにこの「他者との関係性を重視する」日本人気質がワークからも見えてきました。
ちなみに私が選んだのは『道草』。
道草や寄り道に見えても、その経験は無駄にならないとの想いからでしたが、前述の「他者との関係性」に関連した言葉でなかったのは、グループでは私だけでした(笑)
グループワークでは、もうひとつ面白いことに気づきました。
それは「単独の『ことば』について考えるだけでなく、なんらかの切り口で分類したりそれぞれの相関関係を見ていくと、そこからまた新しいことが見えてくる」ということ。
たとえば前述のように『人と人との関係性に関する言葉』と『人と時間/場の関係性に関係する言葉』という切り口で分類してみるのも良いでしょう。また相関図を描くと、「いただきます」の背景には「お蔭様」があり、そこから「お裾分け」に繋がって…などが見えてくると、日本人気質が浮かび上がってくるように思いませんか?
これはいずれ時間を見つけて私自身やってみたいと考えています。
そしてふたつ目のお題は、「日本で変わらない方がよいことと、変わった方がよいことは何か」でした。
これも個人の価値観が表れるわけですが、面白かったのは最初のワークと違ってグループ内で反論が出たことです。
たとえばある人は「自己犠牲の精神は変わってほしくない」と言い、ある人は「自己犠牲の精神なんてナンセンス」と言う。
これ、まさに先ほど述べた『コンテクスト』の違いです。
ただ、円滑な(誤解の少ない/無用なコンフリクトの起きない)コミュニケーションという観点ではコンテクストに配慮するのは重要ですが、こうした反論を生むコンフリクトから、お互いのコンテクストの違いを認識したり、また新たなコンテクストを形作っていくことも必要なのだと思いました。
うーん、やはり『ことば』って面白い。


さて、こうしたワークの後は各グループの生徒達が全員の前でグループワークのまとめや自らの気づきを発表するわけですが、正直感心してしまいました。
私のグループの生徒にしても、「よくあの脈絡のない話をこの言葉をキーワードにして上手くまとめたなあ」と脱帽。
また、ふたつ目のワークでの発表では、「そもそも『変わらない方が良い/変えた方が良い』と二元論で考えるべきではないのではないか」など、原発反対/推進で不毛な議論を繰り返すオトナ達に聞かせてやりたいとすら思いました。
彼女たちのこの感性や能力。
良い意味で「変わってほしくない」と思いましたし、彼女たちにこれから関わるオトナ達に、悪い方向に「変えてほしくない」と切に願います。
いろいろな意味で、私にとっても本当に実り多い一日でした。

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