KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

2012年03月23日

『継続こそ力なり』の考察

  『継続こそ力なり』
誰しも耳にしたことのある言葉です。
私みたいに「新入社員のころ、会社の朝礼で初めて聞いた」方もいらっしゃるかもしれません(笑)
しかし今さらながらこの言葉、何を意味しているのでしょう。
そう、一般的には「諦めずに辛抱強く続けていれば、いつか花開く」といった意味で使われます。
でも、それって本当なのでしょうか?
そして本当だとして、なぜ「続けていると花開く」のでしょうか?

まずは2番目の問い、「なぜ続けていると花開くのか?」から考えてみましょう。
ひとつの仮説として「いつか追い風が吹いてくるから」が考えられます。
「待てば海路の日和あり」という言葉もあるように、「今は辛抱の時」ということも確かにあるでしょう。
諦めずに続けていると、いつか「ようやく俺の時代/出番が来た!」という状況になる、ということですね。
『残存者利益』という言葉がありますが、この「時代遅れと言われた商品を、競合他社がやめても作り続けていたら、突然ニーズが再燃して一人勝ち」を意味する言葉も、まさに『継続こそ力なり』のひとつの形と言えます。
しかしこうした外的要因である風頼みでは、あまりにも他力本願(笑)
『継続こそ力なり』の本質とは言えません。
では、今度は内的要因の仮説を立ててみましょう。
この時の問いは「継続することが自分にもたらす効果とは?」です。
単純な答としては「習熟度の向上」が考えられます。
続けることによって慣れる。そしてミスも減るし、アウトプットの質も向上・安定、さらに所要時間も短縮される。
要するに「継続によって習熟度が向上することで、生産性が序々に上がる」ということです。
ただ少し注意する必要があるのが、この習熟度向上は単に同じ事を同じように続けることでもたらされるものではないということ。
続ける中での失敗や成功を振り返り、そこから次の課題を明確にし、やり方そのものも改善し続けることが重要です。
そう、継続という目に見える行為を通して目に見えない様々な気づきを得続けること。つまり「気づきの積み重ね」無しでは習熟度は向上しないのです。

さて、こうして考えていくと、確かに「諦めずに辛抱強く続けていれば、いつか花開く」という『継続こそ力なり』は正しいように思えてきます。
しかしここで1番目の問いについても考えてみましょう。
本当に「諦めずに辛抱強く続けていれば、いつか花開く」のでしょうか。
冒頭で私は「新入社員の時に朝礼で初めてこの言葉を知った」と言いました。
それだけビジネスの世界でよく使われているわけですが、私はこの言葉がなかば『続けるための言い訳』に使われることも多いと感じています。
たとえば売れない商品や業績の悪い事業があるとしましょう。
その商品や事業がどう考えても見込みが無い場合、また規模として続けることにあまり意味がない場合であったとしても、『継続こそ力なり』の金科玉条のもとに続けているケースはいくつもあります。
ひょっとすると、あなたの会社でもそうした商品や事業がありませんか?
確かに『継続は力なり』かもしれませんが、見込みのない商品、意味のない事業でも「とにかく続けることが重要だ」などということはありえません。
それが赤字を垂れ流しているならなおさらのこと。
しかし会社という組織においては、雇用やポスト、そして対内的/対外的メンツのために『続けることが目的化』しているモノ・コトがなんと多いことか。
事業という大きな問題以外にも、毎年作ることになっているから作る資料、たいした成果もないのに儀式的に毎週開催される会議などもその典型です。
これもまた無駄なコストを費やしているわけですね。
ですから私は『継続こそ力なり』と併せて、『撤退の決断こそ力なり』も組織の中で説くべきだと思うのです。
1番目の問い『本当に「諦めずに辛抱強く続けていれば、いつか花開く」のか?』に対する答は、「ケースバイケース」と言わざるを得ないでしょう。
『継続こそ力なり』とは、使いどころを間違ってしまうと手段の目的化を招くリスクの高い言葉なのです。

これで2つの問いに対する私なりの答は出たわけですが、ここでもうひとつ別の疑問が浮かんできました。
『継続こそ力なり』は「諦めずに辛抱強く続けていれば、いつか花開く」以外の解釈はできないのでしょうか?
継続「こそ」力、ということは[継続]=[力]を意味するとも言えます。
つまり、「何かを続けることができるというのは、それだけでひとつの能力である」という解釈もできるはずです。

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1度や2度失敗したぐらいであきらめない。
単に慣れていないという理由で元のやり方に戻らない。
「所詮自分には無理」と自分を過小評価しない。
「時間がない」と他人や自分に言い訳しない。
「もっといいのがあるかも」とすぐ飽きない。
多少苦しくても止めない。
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これらのコンピテンシーの集合体が『続けることができる力』であり、これもまた『継続こそ力なり』の本質的意味と言えるのではないでしょうか。
あなたがリーダーという立場であれば、今度の朝礼でこちらの意味も説いてもらえないでしょうか?(笑)

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