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ファカルティズ・コラム

2012年11月08日

『シンプル』に走る時代(その2:マーケティング編)

前回のエントリーでは、
◆現代は非常に「ややこしい」時代であること。
◆人は「ややこしい」状況に置かれると、よりシンプルさを求める傾向があること。
をお話ししました。
そして、この『シンプルに走る時代』にはプラス面とマイナス面があることも。
今回は第2回として、そのプラス面についてマーケティングの視点からお話ししてみようと思います。

ご存じの通りSWOT分析では、内部環境の様々にファクトを「強み/弱み」、そして外部環境の様々なファクトを「機会/脅威」として解釈し、整理していきます。
以前もこのプログで述べたように、その際のクリティカル・ポイントは「あるファクトを強み/弱み、あるいは機会/脅威の両面で解釈する」ことです。
内部環境であれば、たとえば「様々な原材料を取り扱っている」というファクトを、「原材料に関する幅広いノウハウを所有している」と『強み』として解釈することもできれば、「原材料に関する深い(つまり「これについてはどこにも負けない」という)ノウハウを所有していない」と『弱み』として解釈することも可能だからです。
つまりここでは『シンプルに走る時代』を『機会』、つまり追い風として考えてみようということです。


さて、顧客(消費者)がシンプルさを求めるということは、どのような観点で企業にとって追い風となるのでしょうか。
そう、「他社とは異なる何かに特化すること、つまり差別化が容易になる」と解釈することができるはずです。


ここで少し個人的な話をさせてください。
私は2年ほど前、つまりAppleのiPhoneが評判になり、Androidが新たなOSとしてリリースされた時からスマートフォンを使っています。
機種はREGZA-Phone、NTT-DocomoのAndroid端末。
さすがにそろそろ買い換えようと思っているのですが、いかんせん「買いたい機種がない」。
私がスマホに求めるものは、タッチパネルの反応速度とか信頼性とか電池の持ちといった誰もが重視する基本スペックを除けば、『LTEとテザリング』だけ。
要するに私は『ワンセグ』も『オサイフケータイ』も、ましてや『NOTTV』などいらないのです。
しかし、これら「私には不要な機能がない」スマホはありません。
ここで「不要な機能は使わなければいい」という意見もあるでしょう。
しかし、なぜ不要な機能まで買わなくてはならないのでしょう。
不要な機能を無くせば、「より薄く・より小さく・より軽く・より安い」製品になるのではありませんか?
日本の携帯電話が、なぜ『ガラケー(ガラパゴスケータイ)』などという蔑称をつけられたのか。
そしてグローバルでは全く通用せず、スマートフォンの時代にはアップルやサムソンの後塵を拝することになったのか。
それは日本独特のニーズに一台で全て応えることで肥大化し、結果的に差別化ができなかったことへのアンチテーゼでもあったはずです。
もちろんその背景として、日本の携帯電話市場の「キャリア主導型」という特色があるのは確かです。実際サムソンですらキャリアに合わせて国産メーカーと同様に『ガラパゴス・スマホ』を展開しています。
しかし本当に「日本のユーザーは機能てんこ盛りでないと買ってくれない」のでしょうか。
たとえ市場調査でそのような傾向が強いと見なされていても、市場調査の結果が正しいとは言えないはずです。市場調査で見えてきたニーズに合わせたはずなのに、全く売れなかった商品などごまんとあるではありませんか。
メーカーとして「横並びにして安心したい」という姿勢が本当にないと言い切れますか?


私は残念で仕方ないのです。
ユーザーは「シンプルであること」を求めている時代なのに、それに対応できていない今の日本企業の現状が。
未だに各社横並びでオーバースペックな商品を出し続けている日本の製造業の現状と、その背後にある「戦略の欠如」が。
何度も言っているように、戦略とは選択です。
何を捨て、何に特化するか。
「やらないこと、諦めることを決める」のが戦略のはず。
マッキンゼーでは、「戦略とは差別化のこと」と言われているのも、まさに同じです。


今がチャンス(機会)なのです。
消費者はシンプルな商品・サービスを求めています。
それは現代が複雑すぎる、「ややこしい時代」だからです。
日経トレンディで、毎年恒例のヒット商品ランキングが発表されました。
ランキンク3位の『国内線LCC』は「低価格に特化」。
4位の『マルちゃん正麺』は「麺の食感に特化」。
8位の『キリン メッツ コーラ』は「トクホという機能に特化」。
することで、それぞれ競合との差別化に成功した商品です。
やはり「他とは違う」ことが消費者から選ばれた要因なのです。
特に現代は前回からお話ししているように、以前にも増して「シンプルであること」が求められています。
そうであれば、
「勇気を持って何かを削り、何かに特化する」ことがマーケティングの、そして経営戦略としてのKSFと言えるのではないでしょうか。
横並びのオーバースペックから脱却する。
日本企業にとって、その最後のチャンスなのかもしれません。

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