ファカルティズ・コラム
2016年02月12日
産業構造の激変は「他人事」ではない
「日本の市場は閉鎖的」という、なかば捨て台詞を残して日本市場からの撤退を発表した米国自動車メーカーであるフォード。
巷では、「ベンツやフォルクスワーゲンは成功しているわけですがw」などと散々な言われようですが、一方でこういう記事も。
「Ford、クルマの生産・販売から輸送サービス事業への転換を急ぐ」
こうした情報も併せて読むと、今回のフォードの日本市場撤退は、今後の大きな戦略転換の布石と読むことができます。
これはとても興味深い記事です。
タイトルからもわかる通り、フォードは「自動車メーカーからの事業転換」に舵を切ったと言えるでしょう。
フォードは「メーカー」であることへのこだわりを捨てた。
しかもこれまでのテリトリーであった、「地面を走るクルマ」へのこだわりも捨て、「空を飛ぶドローン」までも視野に入れた、幅広い「輸送サービス」を手がけようとしているわけです。
まさに「総合モビリティ・サービス企業」になろうとしているのです。
この「製造業からサービス業へ」というビジネスモデル転換の背景には、カーシェアリングやAirbnb(エアビーアンドビー:世界中の空き部屋のシェアビジネス)を初めとする、「シェアリング・ビジネス」市場の拡大があるのは明らかです。
いまや、「クルマくらいもっていないと恥ずかしい」という時代ではありません。
「若者のクルマ離れ」が叫ばれてから久しいですが、「どうせ週末の月6回程度しか乗らないクルマに、月2万円のローンとガソリン代を払うのは馬鹿馬鹿しい。それなら月1万でカーシェアリングを利用した方がマシ」と考えるのは、極めて合理的です。
「自分のモノかどうかなんて、どうせ他人は気にしない」と割り切っているのでしょう。
とすれば、この見栄を張らず、合理的に考える「賢い顧客」が、クルマだけそう考えるわけもありません。
現に、ジュエリーやブランドバッグのレンタルサービスも、最近話題を集めています。
『スパークルボックス(ジュエリーのレンタルサービス)』
『ラクサス(ブランドバッグのレンタルサービス)』
日本を初めとした先進国市場では、こうして「所有している」ことの価値が低下し、「自分で持っていなくても、誰かのを使えればいい」と考える顧客が増えています。
こうした産業構造の変化は、「製造業からサービス業へ」だけではありません。
人類最初の産業とも言える、第1次産業も、また大きな転換点を迎えています。
たとえば「農業」も、従来の「育てて売る」でとどまらず、「育てて加工して売る」ことまでを法人化して手がける、いわゆる「6次産業(1次産業+2次産業+3次産業)」に力を入れている地域が増えています。
そう考えると、もはや前述の「n次産業」というカテゴライズが意味を持たなくなってきたとも言えます。
さらに、Googleの自動運転技術による自動車業界への取り組みや、先に紹介した記事中にあるフォードとamazonの提携によるスマートホームなど、「自動車/IT/不動産」などといった「業界」という概念も崩壊するかもしれません。
そしてこうした産業構造の激変は、消費のトレンドとともに、技術革新がそのバックボーンとなっているのは言うまでもありません。
Airbnbもラクサスも、「スマホアプリ」で、サービスを使います。
IoTとビッグデータ、そしてAIにVR。さらに本ブログでも取り上げたハプティクスやロボット。
今後も様々な先進技術を活用したサービスが生まれるのは確実です。
顧客は、自分たちは「モノ」がほしいのではなく、その「モノを使うことで得られる価値」がほしいだけ、ということに気づいてしまいました。
そしてそのわがままな、しかし賢い顧客のニーズに応えるための技術は、もの凄いスピードで進化しています。
これから何が起こるか、どんなサービスが生まれ、スタンダードになっていくのでしょう?
ひょっとしたら前述のバッグやジュエリーと同様、「服」も買うモノではなくなるかもしれませんし、生活用品や食材なども、スーパーの会員になって「月額いくら」で使う(サービスを受ける)ものになるかもしれません。
…これらは「他人事」ではないのです。
さて、あなたの会社は、こうした業界構造の激変をどう読んでいるでしょうか。
そしてフォードのように、それにどう対応して生き残るかを考えているのでしょうか?
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