KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

ファカルティズ・コラム

2020年05月16日

ニューノーマルを考える

少しずつ日常を取り戻しつつある世界ですが、まだまだコロナショックの終焉は見えません。
私も在宅勤務がスタンダードとなり、慶應MCCでの講座もすべてZoomを使ったリモート授業で進めています。
皆さんの多くもテレワークでお仕事をされていると思いますが、不便を感じることもあるにせよ、「あれ? オフィスに行かなくてもいいのでは?」と思う場面も増えているのではないでしょうか。
今回のコロナショック。
確かに厄災であり、感染・死亡した方とその周りの方々にとっては悲劇以外のなにものでもないのでしょうが、これによって『ニューノーマル』、新しい当たり前が見えてきた、その契機となったこともひとつの事実です。
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先日、日本経済新聞主宰の遠隔セミナーに参加してきました。
テーマは「アフターコロナを考える」
コロナショックによって私たちのビジネス、そして働き方や組織どう変わっていくのか。
それを考えるセミナーでした。
講師は東京大学大学院教授の柳川範之氏。
彼は親の仕事の都合でブラジルに住んでいた時、高校に行かずに大検を取得しました。そして慶應義塾大学の経済学部通信科をシンガポールで修了し、帰国後東京大学大学院に進まれた、異色の経歴を持っています。
そんな柳川先生のお話の中で、私が最も興味を引かれたのが、『これからの変化は「逆向きの動きが同時に進む」』というメッセージでした。
その動きは何によってもたらされるのか。
それは「人の移動が少なくなる」という、コロナによって全世界で起きた現実です。
ロックダウンなどによって「移動できないから」起きること。
反対に「移動しなくて良くなるから」起きること。
それが「逆向きの動き」です。
具体的にどのような逆向きの動きが起きるのか。
<「移動できないから」起きること>  <「移動しなくて良くなるから」起きること>
 地域分散     ⇔   都市集中
 閉鎖経済     ⇔   グローバル化
 自動化/AI化   ⇔   人の活用
人の移動が少なくなることで、ビジネスの地域分散が進みます。
テレワークが進み、東京の本社に出社する必要がなくなるのもそのひとつの形態です。
反面、都市から地方への出張も減ります。リモートでの研修が常態化すれば、都市の一流講師の講座が受講できたり、都市のリソースを地方にいても享受できる社会になります。
また、既に起きているように生産拠点の国内回帰が進みます。食料についても、自給率を高める動きが加速します。
しかしネットワークを介したグローバルなビジネスも広がりまする。たとえば多様な国の人々がバーチャルな組織を構成し、新たなビジネスを立ち上げるような例も増えるでしょう。
そして既に起きているように、人の代わりにAIやアバターとしてのロボットが医療や介護、流通の分野で活躍するようにもなるでしょう。液晶画面の向こうにいる「人」との対話により、私たちはリアルな店舗やECで買い物をするようになります。
しかし反対に「どうしても人でないと」という分野では、より「リアルな人間」であることが重要になってきます。たとえば舞台やコンサート、スポーツ観戦などは、CGやVRの活用も進んではいますが、今以上に「リアル」が贅沢品としての価値が高まることが考えられます。
もちろん、この逆向きの動きが同時に全ての分野で起きることはないでしょう。
しかしながら、確実にアフターコロナでは「ちょっと前では考えもしなかった」変化が起きます。
それをビジネスチャンスにできるのか、それともその動きについていけないのか。
それが企業の命運を握るようになるでしょう。
そう考えると、決してコロナも悪いことばかりではないと言えます。
こうした逆向きの動きのエンジンは、言わずもがな「デジタル化・オンライン化」です。
しかしそれは手段でしかなく、
重要なのは、それで何がしたいのか。デジタルだからこそ、リアルだからこその「価値」を考えなければなりません。そこに変える/変わらない「言い訳」は不要です。
また働き方については、テレワークの流れも、もう止まることはないでしょう。
「通勤して職場に毎日来るのが当たり前」ではなくなります。
だからこそ組織としては、「仕事の役割分担の再定義・再構成」が必要です。
デスクワークや営業活動、そして生産や開発など、全ての業種・職種でニューノーマル、つまり「新しい当たり前」を作っていかなくてはなりません。
本当に出社しなければ、対面でなければできない仕事は何なのか。
仕事をモジュール化し、それを誰がどこで行うのが効率的・効果的なのか。
これを真剣に考えない組織は、「コロナから何も学んでない」と言わざるを得ません。


ようやく、日本にもコロナ禍からの脱却の光が見えてきました。
だからこそ「元の日常に戻る」のでなく、ニューノーマルについて考える。
そしてそのための準備をする。
それが全ての組織に求められています。
「のど元過ぎれば」ではダメなのです。

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