ファカルティズ・コラム
2025年07月18日
「ステルス解雇」と「リベンジ退職」
「ステルス解雇」と「リベンジ退職」という言葉を最近耳にします。
これらは今の日本の雇用状況を理解する上で、決して無視できない重要なキーワードと言えます。
今日は、この二つの現象がなぜ増えているのか、そして、企業として何に気をつけたらいいのかを、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
まず「ステルス解雇」ですが、これは文字通り、水面下でひっそりと行われる解雇のこと。つまり、会社が「辞めてほしい」と直接言わずに、間接的な方法で従業員に自主退職を促す行為を指します。
具体的には、こんなケースが考えられます。
・突然の部署異動:これまでの経験やスキルが全く活かせない部署に飛ばされる。
・名ばかりの降格・減給:明確な理由がないのに役職を下げられたり、給料が減らされたりする。
・仕事を与えられない:やる気が削がれるほど、能力に見合わない簡単な仕事しか与えられない。
・陰湿なハラスメント:上司や同僚からの精神的な嫌がらせや、無視される。
・組織からの孤立:チームの輪に入れなかったり、必要な情報が共有されなかったりする。
こうした「嫌がらせ」とも言える行為の裏には「この会社にいても、もう自分の居場所はないな」「辞めた方がマシかも」と思わせ、従業員自らが退職するように仕向ける狙いがあります。
では、なぜ今「ステルス解雇」が増えているのか。
主な理由は、企業側の事情にあります。
・厳しい解雇規制の壁:日本では従業員を解雇するには非常に厳しい条件が課されており、簡単にクビにできないので、遠回しな方法を取らざるを得ない。
・訴訟リスクを避けたい:直接解雇することで「不当解雇だ!」と訴えられるリスクがあるため、自主退職の形に持ち込めば、そのリスクを減らせる。
・リストラ費用を抑えたい:解雇に伴う退職金などのコストを削減したい。
しかし、このようなやり方は、従業員に計り知れない精神的な苦痛を与えるだけでなく、企業のイメージを著しく損ねる行為であることは間違いありません。
そしてステルス解雇のような不当な扱いを受けた従業員が、退職する際に企業に対して何らかの「報復(やられたらやり返す)」を行うのが「リベンジ退職」です。
その具体的な行動は、想像以上にエスカレートすることあります。
・機密情報の持ち出し・漏洩:会社の重要なデータを不正に持ち出したり、競合他社に渡したりする。
・SNSでの暴露:企業の裏側や不正行為を、SNSなどで世間に公表してしまう。
・集団訴訟: 他の被害者と一緒に、会社に対して訴訟を起こす準備を進める。
・意図的な業務妨害:退職直前にわざと仕事を滞らせたり、システムに不具合を起こす。
この「リベンジ退職」が増えている背景には、いくつかの社会的な変化があります。
・SNSが「武器」に:誰もがSNSで簡単に情報を発信できる時代では、企業の不満や不正を告発し、世間の注目を集めることが可能になった。
・「おかしいことはおかしい」という意識:働く人々の間で、自分たちの権利を守ろうという意識が高まりっています。不当な扱いに泣き寝入りせず、声を上げる人が増えた。
・「この会社は信用できない」という不信感:ステルス解雇のような不誠実な対応は、従業員の会社に対する信頼を根底から揺るがし、それが報復行動につながる。
・相談できる場所が増えた:労働組合や弁護士など、労働者をサポートする体制が以前よりも整ってきた。
企業からすれば、リベンジ退職は事業に深刻なダメージを与えかねない、非常に危険な行動です。
ステルス解雇とリベンジ退職の増加は、企業にとって大きな警鐘と言えるでしょう。会社がこれから生き残っていくためには、従業員との健全な関係を築くことが何よりも重要です。
企業が特に気を付けるべきポイントは、以下の通りです。
・納得感のある人事評価:「なぜこの評価なのか」を明確にし、従業員が納得できるような透明性の高い評価制度を作る。
・風通しの良いコミュニケーション:上司と部下が本音で話せる機会を増やし、不満や問題を早期に発見・解決できる環境を整える。
・ハラスメントを許さない:パワハラ、セクハラなど、あらゆるハラスメントを徹底的に防止するための研修や相談窓口を設ける。
・成長できる機会を提供する:従業員のスキルアップやキャリア形成を支援することで、「この会社で成長したい」という意欲を引き出す。
・もしもの時は誠実に:万が一、人員整理が必要になった場合でも、法律に基づいた適切な手続きを踏み、従業員への説明を丁寧に行う。
・「社員を大切にする」企業文化を育む:従業員一人ひとりを尊重し、倫理観の高い企業文化を育むことが、長い目で見てもっとも大切。
ステルス解雇によって目先のコストは抑えられるかもしれませんが、従業員のモチベーション低下や企業のイメージ悪化、そしてリベンジ退職といった形で、最終的には会社にとってより大きな損失となる可能性があります
企業は、従業員を単なる「人件費」ではなく、「会社の未来を創る大切な仲間」として尊重することが、持続的な成長への唯一の道ではないでしょうか。
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