ファカルティズ・コラム
2025年09月17日
「税リーグ」からの脱却
半年前に書いたエントリー『「にわか」を切り口にJリーグのビジネスを考える』が、なぜかちょいバズったようで、一時「税リーグ」の検索結果の上位になっていました。
さて、今回はこの「税リーグ」について、私の最終見解としてまとめてみたいと思います。
しつこいようですが、私は別にJリーグをディスりたいわけではありません。
確かに私はプロ野球のファンであり、その中でもジャイアンツを応援していますが、サッカーもバレーもバスケットも、そして陸上や水泳、スケートなどもオリンピックに代表される国際試合では日本代表を応援しています。要はとても一般的な「ライトなスポーツファン」です。
だからサッカー日本代表が強くなるためのインフラであるJリーグの発展を祈っていますし、だからこそ「税リーグ」などという蔑称で語られていることは本意ではありません。
では、まずはそもそも論から話を進めましょう。
「税リーグ」とはJリーグのクラブがスタジアム建設や運営に関して、税金(公金)に大きく依存している状況を揶揄した言葉です。もちろん、自治体によるスタジアムへの公的支援は、地域経済の活性化や住民のスポーツ振興につながる側面も否定できませんし、私も自治体がJリーグのクラプを支援することそのものを批判するつもりはありません。
しかし、その一方で、税金の使途に対する透明性や、特定のプロスポーツクラブへの過剰な優遇ではないかという批判の声が上がっているのも事実であり、市長や県知事がクラブに対して厳しい態度を取るのも理解できます。
では、なぜ「税リーグ」という批判が生まれるようになったのか。
その背景には、Jリーグの「スタジアム規定」が大きく関わっています。
クラブライセンス制度には、スタジアムの設備に関する厳しい規定があり、それを満たすために多くのクラブが自治体の支援に頼らざるを得ないのが現状です。
その規定の中でも特に大きな負担となるのが、天然芝の維持管理です。
J1・J2ライセンスを取得するには、天然芝ピッチの設置が義務付けられています。天然芝は、選手の安全と快適なプレー環境には重要です。しかし、その維持管理には、非常に専門的な知識と多大なコストがかかります。水やり、肥料、芝刈り、病害虫対策など、年間を通じて専門の業者によるメンテナンスが不可欠で、年間数千万円に及ぶことも珍しくありません。これらの費用も、多くの場合、スタジアムの所有者である自治体が負担しています。さらに、天然芝は太陽光にじっくり当てる「養生」が必要で、平均週4日の養生期間中にはスタジアムが使用不可能(要はアマチュアサッカーやコンサートなどに貸し出して稼げない)となります。これもサカスタが「公共性がない」と言われる理由で、かつ養生期間中のコストは自治体負担ですから、これも「税リーグ」の根拠となっています。
このように、サッカーの競技性を高める上で非常に重要な天然芝ですが、自治体の財政的な負担と公共性という観点から見ると、最も「税リーグ」の根本にある問題と言えるでしょう。
また、チーム数が多すぎることも一因です。現在、JリーグはJ1からJ3まで60クラブが所属しています。これは欧州のトップリーグと比べてもかなり多い数です。クラブ数が増えれば、当然ながらJリーグの理念である「地域密着」を掲げるクラブが増え、それに伴うスタジアムの整備や改修の必要性も増大します。結果として、財政基盤が脆弱なクラブほど、自治体の支援に頼らざるを得ない状況を生み出しています。
Jリーグ全体の健全な発展を考えたとき、一部のクラブが無理な経営を続け、自治体に依存する状況は望ましくありません。時には、チーム数を削減し、各クラブの経営基盤を強化し、リーグ全体のレベルアップを図ることも、選択肢の一つとして議論されるべきでしょう。
さらにサッカー関係者の「サッカーは文化」という言葉を、安易に免罪符として使う風潮も他のスポーツファンから反感を買う要因の一つです。この言葉を盾に「だから公的資金の投入は当然だ」「だからサポーターの多少の過激な言動は許される」といった論理を展開するのは、もはや通用しません。
野球も相撲も立派な文化です。文化を盾に税金を使うことの正当性を主張するならば、スタジアムが地域にとってどのような経済効果や社会的価値を生み出すのか、具体的な数字やデータで示す必要があります。ただ単に「文化だから」という精神論では、納税者の理解は得られません。
一部のサポーターによる暴力的言動も、この問題と無関係ではありません。スタジアム内外での暴力行為、差別的なチャント、過剰なパフォーマンスは、一般の観客やスポンサーを遠ざける要因となります。「サッカーは文化」という言葉の派生として、某クラブのサポーターが「スタンディング文化」をうたい、立って応援することを強制しているのは暴挙とすら言えます。
そもそも、試合に負けた選手たちがゴール裏のサポーターに挨拶に行き、そこで延々とサポーターから説教されるのは文化でもなんでもない「悪しき風習」です。
では、ここまでを踏まえて、Jリーグが「税リーグ」という蔑称から脱却するための施策を私なりに考えてみます。
まず手を付けるべきは、Jリーグ、クラブ、選手、そしてサポーターの意識改革だと考えます。
チェアマンの「野球はショービジネスでサッカーは文化」などという発言は奢りであり、「赤字で当然」の開き直り、言い訳でしかありません。また、リーグの公式見解であり、選手も堂々と言い放っている「陸上トラックはいらない」発言も他の競技へのリスペクトを欠いています。
SNSでよく見かけるサポーターの「焼き豚(野球ファンの蔑称)」発言も同様です。もちろんその逆の「サカ豚(サッカーファンの蔑称)」発言を繰り返す野球ファンも同罪であり、こうした誰も幸せにならない不毛な対立構造そのものを無くす必要があります。
しかし、意識改革は簡単ではありません。時間もかかりますし、「サッカーは文化」という錦の御旗を失うことで、クラブの運営が難しくなることも予想されます。
だからこそ本丸の課題である「クラブライセンス規約」の見直しとセットで進めるべきです。
特に先に挙げたスタジアム規定、ただでさえ集客に苦労し、赤字のクラブが多いのに、現行義務づけられている客席数と屋根の設置は「分不相応」と言わざるを得ません。
また、「天然芝」への拘りも捨てるべきです。選手の立場で天然芝が理想なのは理解できますが、人工芝の進化も著しく、安全性については天然芝と変わらないレベルまで上がっています。
個人的には、Jリーグがどこかの企業と組んでサッカー用人工芝の開発に乗り出していないのが不思議で仕方ありません。
人工芝なら養生も不要ですから、試合がない日に市民に開放したり、コンサートなど他の用途にも活用できます。「税リーグ」の根拠である「天然芝のサカスタは公共性がない」を否定するためにも、ピッチの人工芝化にシフトすべきです。
さて、ここからは実現性の点でハードルが高い施策についても言及します。
現在、スタジアムの収入は入場料収入がメインであり、野球のような「飲食」の収入が弱いのもJリーグの問題点です。野球と比較するとサッカーは「のんびり飲み食いしながら観戦する」には向かないスポーツであることは確かですが、応援ガチ勢以外の人から見れば、どんなスポーツでも「レジャーのひとつ」であり、それを満たさなければプロスポーツとして成立しません。
この解決方法はいくつもあるはずです。
ハーフタイムを1時間取るのは難しくとも、「キックオフ前や試合終了後を飲食タイムとして推奨する」「観客席にバーベーキューエリアを設ける」「応援席と一般観戦席をゾーニングし、一般観戦席ではビール他の売り子を配置する」など、プロ野球のスタジアムの工夫を取り入れることもできるはずです。
そして最後に、難しいでしょうが「チーム数の削減」にも手を付けるべきでしょう。
ある試算によると、プロスポーツの適正チーム数は「人口1000万人にひとつ」だそうです。プロ野球はまさに1億2千万人に12チームであり、Jリーグの60チームは多過ぎです。
世界的に見れば、確かに競技人口やファンの人口はサッカーがトップですが、相撲・野球・サッカー・バスケ・バレー・卓球など、人気のプロスポーツが数多く存在し、競技人口も分散する日本を他の国と比較するのはほぼ意味が無いと言えるでしょう。
チーム削減という「身を切る改革」なくして、本当の意味で「成熟したプロスポーツ」は難しいと考えます。
繰り返しになりますが、私はJクラブ、特にスタジアムに税金が使われること自体は問題視していません。公共性が担保され、本当に地域の活性化に繋がるのであれば、という条件付きですが。
そしてプロスポーツとして自立すること、要するに「稼げる」スポーツであることも必要だと思うのです。
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