ファカルティズ・コラム
2025年11月13日
FAX復権?
みなさんの組織では、FAXを使っていますか?
「そんな時代遅れのシステムは使ってないよ」と笑われる方も多いでしょう。
しかし、米国の市場調査会社ベリファイド・マーケットリサーチによれば、2023年から2031年にかけて平均年率6.96%で発展し、2023年に26億5,804万ドル(約3,879億円)規模だったのが2031年には45億7,667万ドル(約6,678億円)規模に達するとのこと。
なんと今後8年間年で約1.7倍の市場になるというのです。
昭和の異物のように感じるFAXの市場が今後伸びていく。その根拠はどこにあるのか。そしてそれは今後も続くのでしょうか。

ビジネスの現場でFAXが再び注目されたり、あるいは依然として根強く利用され続けたりしている背景には、いくつかの独自のメリットと日本特有の商習慣が関係しています。
ですから、完全に「復権」というよりは、「デジタル化が進む中でもFAXが持つ利便性や確実性が再評価されている」「一部の業界や業務フローではFAXが手放せない」といった側面が強いと思われます。
主な理由をまとめると以下のようになります。
1. 確実性が高い・「届いた」ことがわかりやすい
FAXが選ばれる最大の理由の一つが、「送信した」事実と「相手が受け取った」事実の確実性です。
・送信完了レポート: FAXは送信が成功すると送信結果レポートが自動で出力されるため、「確かに送った」という証拠がその場で残ります。これは、見積書や発注書など、ビジネス上の信頼性が求められる重要な書類のやり取りにおいて、大きな安心材料となります。
・物理的な出力: 特に従来のFAXでは受信した内容が物理的な紙として出力されます。これにより、メールのように「迷惑メールフォルダに埋もれた」「見落とされた」といったリスクが低く、「相手が必ず目にしやすい」という点で優れています。
2. セキュリティ面での安心感
インターネットを介した通信が主流の現在、あえて電話回線を利用するFAXの仕組みが、特定のセキュリティ面で評価されることがあります。
・サイバー攻撃のリスク低減: FAXは多くの場合、インターネット回線ではなく電話回線を利用します。そのため、インターネットを介したサイバー攻撃やウイルス感染のリスクから、少なくともFAX通信部分が守られていると見なされます。機密性の高い情報を扱う際に、この特性が重視されることがあります。
・宛先の限定性: FAXは電話番号を正確にプッシュすることで、特定の一対一の通信が可能です。「宛先番号を間違えない限り、不特定多数の目に触れることはない」というシンプルさが、心理的な安心感につながります。
3. 業務フローやITリテラシーへの適合性
特定の業務や、利用者のITリテラシーに合わせた使い勝手の良さも大きな要因です。
・スピーディーな送信: 手書きの図面、サイン、押印が必要な書類をすぐに送りたい場合、デジタル送信だと「印刷→押印/記入→スキャン→メール添付」という手間(押印がデジタル化されたシステムもありますが)がかかります。FAXであれば、紙を差し込んで番号を押すだけで、押印・手書きの書類をそのままの形で即座に送れるため、非常にスピーディーで手間がかかりません。
・操作のシンプルさ: 高度なIT機器や複雑なソフトウェアの操作スキルがなくても、「紙をセットして番号を押す」というシンプルな操作で利用できます。これは、社内や取引先にPC操作に不慣れな方が多い場合に、情報格差なく確実に情報伝達できる手段として機能します。
4. 取引先の慣習と「レガシー」な連携
特に日本国内の製造業、卸売業、医療機関、行政など、古い商習慣が残る業界では、FAXが業務の基本インフラとして定着しています。
・取引先の利用: 最も大きな理由の一つが、「取引先や顧客がFAXを利用しているから」という点です。発注書や請求書など、相手からFAXで送られてくる場合、自社だけがFAXを廃止することはビジネス上のリスクとなります。
・商習慣としての定着: 長年にわたりFAXでの受発注が商取引の「型」として定着しているため、新しい方法への移行が難しい関係性も存在します。
とはいえ、物理的なFAX機にはデメリット(紙代、トナー代、オフィスへの常駐が必要など)も多いですが、近年ではクラウドFAX(インターネットFAX)が普及しています。
これはFAX番号を維持しつつ、送受信をPCやスマートフォンで行い、受信データをPDFなどのデジタルデータとして管理する仕組みです。これにより、FAXの「確実性」や「既存取引先との連携」といったメリットは維持しつつ、以下のようなデジタル化の利点も得られるようになり、FAX業務が改善されています。
◆テレワークへの対応
◆紙の保管コスト削減とペーパーレス化
◆受信データの検索・管理の効率化
これらのことから、先に述べたように「FAXが復権している」というよりは、デジタル化の波の中でもFAXが持つ独自の利点が特定の業務や商習慣に適合しており、特に日本ではその利用が継続し、クラウド化によってFAXの利便性が高まっている、と言えるでしょう。
さて、ここで上記「2. セキュリティ面での安心感」についてもう少し掘り下げてみましょう。
特にセキュリティの点でFAXをなくせない業種や具体的業務は何なのでしょうか。
1. 医療機関・調剤薬局
最もFAXの利用が根強い分野の一つです。
・扱う情報の機密性: 患者の個人情報や病歴、診療情報といった非常に機密性の高い情報(機微情報)を扱います。
・通信経路の安全性:医療機関間での情報連携(紹介状、検査結果、緊急時の連絡など)において、インターネット回線を介さない電話回線によるFAX通信は、サイバー攻撃や通信傍受のリスクが比較的低いと認識されています。
特に調剤薬局では、病院から送られる処方箋をFAXで受け付けることが一般的です。これは、メールのように誤送信や第三者によるアクセスリスクが低いという判断に基づいています。
2. 金融機関
機密文書のやり取りや行政への報告など、特定の業務でFAXが使われます。
・監査・報告の確実性: 銀行や証券会社の一部業務で、行政機関や監査機関へ紙ベースの確実な情報提供が求められる際に、FAXの送信完了レポートが「証拠」として重視されます。
・押印・署名の即時共有: 契約書など、押印や直筆の署名が必要な書類を即座に(スキャン・メール添付よりも手軽に)共有する必要がある場合に利用されます。
3. 行政機関・自治体
緊急時の連絡や、市民からの機密性の高い申請受付などで利用されています。
・情報漏洩対策: 住民の個人情報や重要データを扱うため、インターネットからの独立性が高いFAXを重要な情報伝達手段として維持している部署が多くあります。
・災害・緊急時: インターネット回線やメールシステムがダウンした場合でも、電話回線が生きている限り通信が可能であるという冗長性が、災害対策として非常に重視されます。
4. 製造業・インフラ関連
機密性の高い技術情報や取引情報、工場現場との確実な連携で使われます。
・技術情報の保護: 新製品の図面や試作に関する情報など、企業秘密に直結する情報を、外部のインターネット経由ではなく、閉じた電話回線経由でやり取りすることを好むケースがあります。
・現場指示の確実性: 生産現場や保守現場に対し、システム経由ではなく「紙」という物理的な形で指示書や図面を届ける方が、現場での見落としを防ぎ、確実に業務が行えるという点で信頼されています。
これらの業種と業務でFAXが評価されるのは、デジタル通信のセキュリティ対策では得難い以下の特性があるためです。
◆非インターネット接続: FAXは基本的に電話回線で通信するため、メールやクラウドサービスのようなフィッシング詐欺、標的型攻撃、ランサムウェアといったサイバー攻撃の直接的な経路になりにくいです。
◆物理的な証跡: 送信側には送信結果レポート、受信側には紙という物理的な証拠が残るため、情報伝達の「法的・監査上の確実性」が高いと見なされます。
一方で、誤った番号へ送信した場合の誤送信リスクや、受信した紙の管理がずさんだと逆に情報漏洩につながるという、FAX特有のセキュリティリスクも存在します。そのため、近年は多くの企業がこれらのリスクを軽減できるクラウドFAXへの移行を進めています。
ただ、クラウドFAXは従来のFAXの課題を多く解決しますが、デメリットも存在し、それが乗り換えを躊躇させる大きな要因となっています。
結論として、FAXは今後、「クラウド化による延命」と「特定の業界や業務に特化した利用の継続」という二極化が進むと考えられます。
多くの一般企業や、FAXの確実性だけをメリットとしていた企業では、コスト削減と業務効率化による「クラウド化による延命」が進むでしょう。
そしてクラウドFAXのデメリットがクリティカルになる、あるいはレガシーなFAX機のメリットが勝る業種・業務では、従来のFAX(またはそれに近いシステム)が残存し続けると考えられ、これがもう一極の「特定の業界や業務に特化した利用の継続」です。
特に医療分野や行政機関の一部(緊急対応部署など)では、FAXが持つ「電話回線による非インターネット依存の通信」という特性が、セキュリティや冗長性の観点から引き続き重宝されるでしょう。
ただ、FAXの利用が継続するとしても、社会全体のデジタル化の要請は無視できません。
FAX操作に慣れていない、あるいは非効率だと感じる人材が今後主流となるため、FAX業務を担う人が限定されるという点、そして行政手続きのデジタル化が進む中で、FAXでのやり取りが「デジタルファースト」の原則と矛盾するという点が主な課題となります。
よって今後FAXとその運用は以下のように進化するのではないでしょうか。
■ セキュリティ強化型クラウドサービス: 医療や行政のニーズに応える形で、高度な暗号化、IP電話回線ではなく専用線に近いネットワークを利用するなど、セキュリティと機密性を高めたクローズドなクラウドFAXサービスが登場し、従来のFAX機の代替となる。
■ ハイブリッド運用: 既存のレガシーFAX機を維持しつつ、自動でデータ化し、業務システムに連携させるアダプター的なソリューションが普及し、FAX業務の効率化を図る流れも進む。
結果として、FAXは消滅することなく、特定のニーズとセキュリティ要求に応える通信手段として、その形を変えながら存続していくのかもしれません。
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