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『リーダーのための仕事哲学』参加レポート[Session1]

2014年08月11日

森 旭彦

リーダーシップって学べるの?

ある日、慶應MCCで働く友人から連絡が来た。「うちの講座をレポートしてくれないか?」というメールだった。
講座の名前は『リーダーのための仕事哲学(現:人と組織を動かすリーダー哲学)』だった。話を聞いてみると、リーダーシップを学ぶ講座なのだという。

レポートといっても客観的に見ているだけではなく、実際に参加者たちといっしょにディスカッションやディベートに参加して、自分で体験しながらレポートしてみてほしい、とのこと。さらには「本気で参加してみないと分からないよ」とのこと。
自分にできるのだろうか? 私はフリーランスのライターであり、多くの経営者の方とインタビューなどをご一緒させてもらったけれど、企業や組織に就職したことがない。でも、本当にリーダーシップが学べるのであれば、それはどんな講座なのだろうか、と興味が沸いた。しかも実際にいろんな企業のビジネスパーソンが参加するという。

物書きを仕事にする以上、何事も経験だ。躊躇なくOKしたら、さっそく課題が送られてきた。以下の問に対して、意見をまとめておくというものだった。

<問1>
世界のベストCEOに選ばれたアップルのスティーブ・ジョブズ、アマゾンの創設者でありCEOであるジェフリーペゾス。優れたリーダーにあって、普通のリーダーにはない特徴とは何でしょうか。

なんだろう…。本能に訴えかけるものを持っているかどうか、だろうか? 
たとえばスティーブ・ジョブズであれば、有名なスタンフォード大学の卒業式のスピーチで、
“「もし今日が最後の日だとしても、今からやろうとしていたことをするだろうか」…「違う」という答えが何日も続くようなら、ちょっと生き方を見直せということです。”

ということを言っている。かの有名な「Stay hungry, Stay foolish」のスピーチの中の言葉である。私はこの言葉が好きだ。この言葉は、たとえジョブズのことを知っていなくても、何か心に訴えかけるものがある。
こういった、人の本能に訴えかけるメッセージを持つ人こそが優れたリーダーになるのではないだろうか。

<問2>
会社では顧客第一と言いながら利益を出さなければなりません。また、コスト削減と言いながら品質を強化しなければなりません。そうした同時に実現することが難しい現実に対して、あなた自身は心のなかでどのように消化していますか。また、それはどのような想いからですか。

顧客…おお、早くも実感がない。とはいえ、ライターもこれと似たようなことがある。読者第一と思いながら、利益を出さなければいけない。良い本を作らなければと思いながら、売れる本を作らなければいけないと考える。それと似たことだろうか?
そういえば、顧客という視点から考えると、世の中には「この出版社の本ならば必ず買う」という人は稀だろう。むしろ1冊ごとに顧客は変わる。そうして考えると、出版というのは面白い仕事だなあとも思う。

<問3>
変化の時代だからこそ、不動点となるような一貫した論理、ぶれない基軸がリーダーに求められていると言います。しかし、そのような一貫した論理やぶれない基軸を持つことは容易なことではありません。何かの努力をすれば持てるのだと仮定したとき、私たちはどのような努力をすればよいのでしょうか。

ぶれない軸を持つのは、私でも得意だ。単純に、他人の言うことを聞かなければいいのだ。
他人が「いい」と言うものは、自分で試してみるまで「いい」と言わない。そうすると、自分だけで考えられるようになる。非常に簡単なことではある。

といった感じで課題を終わらせて、いざ、講座へ行ってみた。

語り合いの中で自分の仕事を捉える

私以外はみんなビシッとスーツを着こなしている。半袖Tシャツは私だけだ。さっそく名刺交換が始まる。同業者は居なかった。
それにしても、いろいろな仕事をしている人がいるものだ。IT、鉄道、製造…同じ業種の人はほとんどいない。みんなばらばらだ。いろいろな仕事をしている人に「どんな仕事をしているんですか?」と聞いて回るのは新鮮だった。中にはイノベーションを語る上で避けて通れないような超有名企業で働いていた人もいた。

そんな中でグループに分かれて、まずはワールドカフェ形式で課題について考えてきたことをみんなでシェアしていく。
ワールドカフェ形式というのは、とにかく自分の考えを大きな模造紙に書き出して、周囲とシェアするというものだ。しかもお酒を飲みながら。

ここで面白かったのは、私もそれなりに考えて参加したものの、実際みんなで話しながらシェアするとなると、自分の考えを案外うまく話せないということだった。
そして、人に理解してもらえるように話していく中で、自分の考え方にもいろいろな変化があった。自分だけの考え方は、そのままではみんなのものにならないのだ。

理屈屋の私よりも、問2の「同時に実現することが難しい現実に対して、あなた自身は心のなかでどのように消化していますか」に対して「(お酒を)飲んで消化!」と発言していた人の方が周囲の笑いを誘っていた。
ライターの仕事においても、面白い言葉とか文章というものは、案外こねくりまわされたものよりも、シンプルで、分かりやすすぎて誰も書かないようなものであることが多い。
そんなことを感じつつ、気づけばいろんな人と仲良くなっていった。こうした語り合いが、この講座の醍醐味だ。
 

正解の無い問いに、いかに答えるか

続いて講義が始まった。講師は安藤浩之さん。組織・人材マネジメント、戦略的意思決定論を中心に企業内教育で活躍されている方だ。
その講義形式がとても面白かった。座学なのだが、私達がワールドカフェで話したことを拾いながら、全体をまとめあげていく。まさにリアルタイム編集だ。本のようなタイムラグがある編集が得意な私には到底真似できない。これが上質なファシリテーションというものだろう。

「かつての日本は、昇りのエスカレーターでした。勝手に昇ってくれているから、立ち止まっていても上へいける。しかし今私達は下りのエスカレーターに乗っています。つまり、自分の足で、エスカレーター以上の力で上へいかないといけない。そこで大切になるのがイノベーションです」

「イノベーションは何かを捨てて、何かを手に入れることです。中途半端なことは”何もしていない”に等しい。”どうなるか分からない中で信じているものがある”ことを理解してくれと言えるかどうかが問われている時代なのではないか。イノベーションとはなにかを捨て、何かをつくること。それが変革=撤退×創造です」

といった具合に、心に響く言葉がたくさん出てくる。

私は正直なところ、本に出てくる”自己啓発”というものがあまり好きではない。読んでいて気持ちはいいけれど、実際そのうちのほとんどが身につかないからだ。
しかし、この講座ではそれが少し違う。課題などを通して自分でちゃんと「考えている」ということが大きいのだろう。いわば自分の足で登った山の上で食べるから、いつものお弁当も美味しいと感じるのに似ている。
きちんと自分で考えた後で心に響く言葉を聞くと、自分の心にストンと落ちて整理される。こうしたことは、社会に出てからは機会も少ないし、誰も教えてくれないこと。

そういえばライティングも基本的にはファシリテーション的なものに支えられていると思う。たとえば科学者にインタビューをしたとして、それを読者にどうやって届けるかと文体を考えて言葉を選ぶ時の頭の使い方は、ファシリテーション的なものだと思う。

「各セッションで自分を知っていってほしい。自己啓発のもうひとつの側面は、自己を知ること。がむしゃらにやってきたけど、その中で自分が将来何をしたいかを見失ってしまう。唯一の正解、普遍的な正解はない。自分の正解をお持ち下さい」

その後、参加者のみなさんと懇親会で話し合う。
不思議だ。ほんの数時間前に初めて会った人に、自分がライターとしての仕事で一番大切にしていることを、気づけば話していた。さらに、自分がどうしてライターを目指すようになったのかすらも話していた。
普段なら、よっぽど仲の良い人にしか話さないような言葉も、ふと口をついて出てくる。それは他の人たちも同じだった。

そして気づくのは、普段私たちはいかに深い語り合いをせずに、仕事をしているかということ。日常の職場では、つい目の前にある問題や、短期的な目標だけの話に終始しがちだ。それをとっぱらって、自分の心の奥まで入ってきてもらって話をすると、いろんなことが見えてくる。

久しぶりに自分の業界以外の人といろんなことを話し込んだ。これもこの講座の魅力だろう。案外自分が見ている世界というものは狭いのだ。
自分の仕事は、全然違った業界の人にどんなふうに映るものなのか。そんなことを語り合いの中で探っていくことも、面白い体験だった。

Session2へ続く

プログラム詳細:リーダーのための仕事哲学(現:人と組織を動かすリーダー哲学)

講師: 安藤浩之

執筆者:森 旭彦(もり・あきひこ)
ライター
京都生まれ。主にサイエンス、アート、ビジネスに関連したもの、その交差点にある世界を捉え表現することに興味があり、ライティングを通して書籍、Web等で創作に携わる。
尾原史和著『逆行』(ミシマ社刊)、成毛眞著『面白い本』『もっと面白い本』(岩波書店)、阿部裕志・信岡良亮著『僕たちは島で、未来をみることにした』(木楽舎)ほか、東京大学理学部『リガクル』などで多数の研究者取材を行っている。

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