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『リーダーのための仕事哲学』参加レポート[Session3]

2014年09月09日

森 旭彦

Session2のレポートはこちらから

本部と現場のコンフリクト、どう対処する?

『リーダーのための仕事哲学』では毎回事前課題があり、それらは実際の企業で起こった出来事をそのままケーススタディとして採用しているのが特色だ。つまり、現実のリーダーが実際に直面した問題に、参加者それぞれが直面し、同じ目線で考えたことを課題にまとめ、講義で様々なアクティビティを行う。そして第3回目にあたる今日のアクティビティは、ディベートだった。
今回の課題は、本部と現場のコンフリクトを題材に、不条理な問題に直面した時に、リーダーとしてどう決断し、どのように実行に移すかが問われている。

課題のサマリーをお話すると、鉄鋼系の商社に所属する主人公の「A氏」はZスチールというアメリカ中西部の鉄鋼会社の社長として就任した人物。A氏は本社から、Zスチールの改革を任されることになる。
Zスチールはアメリカの西部劇に出てきそうな辺鄙な田舎町で、町に住む人口3000人・800世帯のほとんどがZスチールの従業員と家族、Zスチールの関係者を相手にしたサービス業に従事している。つまりこの町はZスチール王国なわけだ。
そしてA氏の取る道が2つのケースで示される。課題では、2のA氏の物語のうち、片方を選び、自分の主張を整理することが求められる。

  1. A氏はZスチールのローカルスタッフを指揮し、力技で改革を推進してゆく。しかしA氏のパワープレイについていけず、健康を害して欠勤するスタッフも出てくる。社内ではA氏に対して不満を持つスタッフも現れた。
    それでもA氏は成果貢献できていない従業員を50名レイオフし、改革を断行。結果として1年後は目標の100万トンの生産が可能となり、Zスチールの株価も買収前の2倍、企業価値は3倍となった。
    A氏はその後、東京本社に戻るが、インドの鉄鋼メーカーから年俸200万ドルのオファーを受けて退職した。
  2. A氏は着任するやいないや、毎朝Zスチールの従業員の誰よりも早く出勤し、社屋の入り口を掃除する。工場でも従業員の仕事を手伝う。さらに従業員が飲んでいる街の酒場に行っては、楽しく話し、100ドル札をテーブルに置いて去っていった。
    しかし4カ月経っても一向に改革への成果は上がらない。さらに6カ月が経っても変化が無いため、本社はA氏にレイオフの指示をしてくる。
    だが、A氏は本社からの指示には従わず、自らのプランに沿って改革を進めていった。そしてレイオフどころか、数カ月後に粗鋼の需要が増えることを見越し、新しい設備を使って在庫を積み増すことを指示。
    1年後、粗鋼の需要は増え、Zスチールは躍進する。しかし、本社の期待する水準には達せず、A氏はその責任をとってZスチールの社長の座を降りた。
    A氏は日本に帰り、現在はコーポレート部門で仕事をしている。しかし年に1度、プライベートでZスチールを訪れ、夜は従業員と酒を心ゆくまで飲んだ。今度は従業員が帰りたがらないA氏のために100ドル札を置いていった。

私はこの課題では「2」の立場を選択した。
組織的な部分では、たしかに企業側が求めている水準に達していないという点は彼の落ち度だ。しかし、レイオフをせずに成し遂げたということは、称賛に値するのではないか。
しかもZスチールのある街は、全てがZスチールで動いている。その中で、誰かをレイオフするということは、街の中で格差をつくってしまいかねない。会社の経営自体が、地域コミュニティのあり方に大きく影響していくことを、彼は知っていたのだ。

コミュニティに亀裂を生じさせることなく以前よりも高いパフォーマンスを引き出せたというのは、もっと評価されるべきだ。彼は数字としての営業利益だけではなく、いわば「環境アセスメント」に気を配っていたのである。
彼のような経営者こそがグローバル企業におけるダイバーシティの高い環境の中では必要とされると私は考えた。

優れたリーダーに必要な、「捨てる勇気」の話

かくして、参加者は課題に対してそれぞれの思いを持って集まった。全体としては「1」のストーリーを選択した人が多かったようだ。これはガゼン、燃えるというものだ。

まずは我らが安藤さんのレクチャーがある。
「自分の想いに周りが共感してくれれば集団の意志になる。今回は想いの必要性とは何かをディベートによって浮き彫りにします」
前回、「どんなに強い願いやアイデアを持っていても、周囲の人の共感を得られなくては、そのリーダーは異端児になる」という言葉があったのを思い出す。
また、今回の課題のような企業の衰退には5段階があるという。
第一段階「成功から生まれる怠慢」
…一時的な成功に永遠を感じ、企業や事業に寿命があることを忘れてしまう。そしてビジネスリーダーが外部の脅威やビジネスチャンスに目を奪われ、企業が迷走し始める。
第二段階「規律なき拡大路線」
…成長戦略を目ざさないといけないが、足を踏み外して拡大戦略に進んでしまい、関連しない分野へと無謀な拡大してしまう。日本国内でのバブル崩壊はこれによって引き起こされた。
第三段階「リスクと問題の否認」
…「今期業績が落ちたのは円高・リーマンショックのせい」といった具合に、外部要因に押し付け、リスクや問題を直視できなくなる。
第四段階「一発逆転策の追求」
…特効薬を追求して、一発逆転に打って出ようとする。しかし大きな改革によって成功する確率きわめて低い。こういう状況でこそ、救世主のような指導者を待望するがこれもまた成功確率が低い。不都合な選択ばかりをしてしまう。
第五段階「屈服と凡庸な企業の転落か消滅」
…戦いを諦め、企業が完全に死に絶えるか、以前の壮大さと比較すればまったく重要性のない企業に縮小する。

「企業を崩壊から守るためには、必ず何かを捨てないといけません。ついつい相手の反論が怖いからオブラートに包んでしまいますが、輝かしい未来像のためには、何を捨てるかをまず宣言しなければなりません。あれもこれもでは無理なのです」
自分の立ち位置と、安藤さんのレクチャーで、みなの頭は完全に経営者・A氏。いよいよディベートへと進む。

人は何かを捨てる勇気を持つ時、本当の言葉を手にする

まずはチームに分かれて作戦会議。私たちのチームでは、意見を武器と防具に分けた。
【武器】
Z社の改革は、本社側がアメリカのマーケットで存在感を出すためのこと。つまりステータスを確立するためだ。本社の求める「数字」は本来の目的ではない。
この街はほとんどの住人がZ社で動いている小さな社会。そこで軽はずみにレイオフするのは、企業の社会への貢献性を著しく踏みにじっているのではないか。

【防具】
「短期的な具体的な数値目標は無いのですか?」と攻撃される場合はある。その際は…
・企業の財産は人である。
・改革の責任をひとりで負っているのが「1」、分散しているのが後「2」。「1」の場合のA氏はドライで自分の意志がない。会社の意志で動いているだけだ。
と反論する。

開始の合図とともにディベートが始まる。やはり攻め入られたのは「A氏の仕事は数値の目標を達成するのが仕事。なぜ達成できていないのか」「なぜ本社の指示を無視したのか」だった。辛口の質問が続く。
こちらは「数字ではなく、人へ先行投資をしている。そのことを評価されないのはおかしい」「無視したのではなく、そもそも最低限の報告をしているわけだから、社長としての責任を全うしたにすぎない。むしろ現場を知らない本社に何ができるのか?」と反論。議論は一進一退を続ける。

2ラウンドの白熱したディベートで、私はお腹が痛くなってしまった。しかし、これほどまで熱く自分の意見を言ったのは久しぶりのことであり、非常に達成感があった。

最後に、このケースがどこの会社のものだったか、そして実際のA氏はどのように選択し、行動したかが安藤さんによって示された。事実は小説よりも奇なり。そして、何よりも深かった。

「みなさんは自分の想いを持っていればいい。自分が何を信じて経営をするかというのが今回のお話です。今後は自分の想いを、いかに言葉を尽くして話すか、その手段を考えてみてください」

安藤さんのこの言葉と、参加者同士のたくさんの握手でディベートは終わった。
今回のケースでは「1」のストーリーでは人を、「2」では数字を捨てたことになる。リーダーは捨てる勇気がなければ何も言えないのだ。そのことをディベートで体得した回だった。

Session4へ続く

プログラム詳細:リーダーのための仕事哲学(現:人と組織を動かすリーダー哲学)

講師: 安藤浩之

執筆者:森 旭彦(もり・あきひこ)
ライター
京都生まれ。主にサイエンス、アート、ビジネスに関連したもの、その交差点にある世界を捉え表現することに興味があり、ライティングを通して書籍、Web等で創作に携わる。
尾原史和著『逆行』(ミシマ社刊)、成毛眞著『面白い本』『もっと面白い本』(岩波書店)、阿部裕志・信岡良亮著『僕たちは島で、未来をみることにした』(木楽舎)ほか、東京大学理学部『リガクル』などで多数の研究者取材を行っている。

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