夕学レポート
2006年05月24日
「21世紀の新しいグローバルプレミアムブランド」 西山均さん
「トヨタものは必ず売れる」という定説があります。雑誌の特集にせよ、経営セミナーにせよ、トヨタの事例、トヨタの講師が登場すると多くの人が反応します。慶應MCCが春に開催した「マーケティング進化論」でもトヨタの調査部長さんにゲスト講師をお願いした回は大人気でした。そして今回の夕学も早々に満席マークが灯りました。
特にきょうのテーマである「レクサス」は、これまで日本の自動車販売のビジネスモデルに一石を投じる新たな試みとして大きな話題になりました。日本の自動車販売のビジネスモデルは、その昔トヨタの神谷正太郎さんがその原型を作ったと言われているだけに、「トヨタがこれまでのトヨタを否定した画期的な挑戦」とも言えるでしょう。欧州輸入車勢の独壇場であったプレミアム市場への参入、企業名を冠さないブランド戦略、「サービスとおもてなし」キーコンセプトに据えた差別化戦略、海外発ブランドの逆輸入戦略、いずれもトヨタの強い決意を感じさせる取り組みだと思います。
講演は、レクサス導入の背景説明からはじまりました。国内の自動車販売市場はバブル期の600万台をピークに減り続け、この数年は約400万台で推移しているそうです。しかも売れ筋もかつての主力であったセダンが、大型・大衆車ともに激減し、軽自動車の比率が高まるなど大きく変わったそうです。その中にあって、安定した人気を保ちつつける輸入車市場=プレミアム市場を取り込むことは、トヨタにとって避けられない経営課題でした。そこで選ばれたのが米国のプレミアム市場で成功した「レクサス」だったというわけです。
レクサスの基本コンセプトは“「最高の品質」と「最高のサービス・おもてなし」により、「最高の本質」を提供しよう”というものです。「最高の品質」は、ハイブリッドをはじめとしたトヨタの最先端技術を凝縮することで、至極当然の戦略ですが、「最高のサービス・おもてなし」を、ここまでやるのかというレベルで徹底するのがトヨタらしさと言えるでしょうか。選りすぐりのディーラーに委ねた全国150店余りの販売店は、外装はもちろん什器からトイレのタオルに至るまで統一されています。富士サーキット近くに「富士レクサスカレッジ」が設立され、販売店の受付スタッフまで全員が徹底した教育を受けます。サービスの鍵を握る店長教育では、異業種やビジネス界以外にも範を求め、リッツカールトンへの派遣、デパートのコンシェルジェサービスの見習い、華道小笠原流師範による「おもてなしの心」講座などがカリキュラムに組み込まれているそうです。21世紀の新しいグローバルプレミアムブランドを確立しようと姿勢が伺えます。
自動車が発明されたのは、120年前のドイツ、ダイムラーの手によるものでした。草創期の自動車は「貴族の道楽」として発展したとか。言ってみれば、欧州の自動車はプレミアムカーからはじまったわけです。一方で、米国と日本では、自動車は「生活の足」として発展してきました。かつてはフォードシステムが、いまならトヨタの「カイゼン」がそれを可能にしてきました。トヨタの魅力は、経営の隅々まで製造現場の「汗の匂い」が染み込んでいるところです。多くの人がトヨタに関心を持つのは、日本人のメンタリティを守りつつ世界と互して戦うことが可能な競争力にあります。誰もがトヨタの「汗の匂い」が好きなのです。これまでは、その「汗の匂い」がプレミアム市場を切り拓けない元凶とされていました。「レクサス」ブランドがアウト・オブ・トヨタを選択した理由でもあります。
願わくば、「レクサス」が築こうとしている特自のブランドポジションが、「汗の匂い」を失わない、新しいプレミアム市場を創造してくれることを期待したいものです。
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