夕学レポート
2006年11月21日
「五感と実質価値を提供する」 須藤実和さん
東大理学系の大学院でバイオを学んでいた須藤実和さんが、畑違いのマーケティングの世界に飛び込んだ理由は「化学を社会にPRする」という夢を抱いたからだそうです。
博報堂で広告実務を経験した後、外資系コンサルティングファーム、ベンチャーキャピタルで会計や企業投資のキャリアを積み、戦略系コンサルで経営戦略、新事業創造に携わり、今春からは大前研一さんのもとで人材開発支援活動を中心に活躍を始めました。
華麗なキャリアに加えて、相手を優しく包み込むような、柔らかな対人能力はトップコンサルタントに不可欠な要素かもしれません。
控え室でお聞きしたところでは、須藤さんは、個人の活動として、来春オープンを目指して、飲食系の新規ビジネスの立ち上げにもコミットしており、リアルビジネスへの関心も強く持っていらっしゃるようです。
「マーケティングとは、顧客を満足させて、利益を得ることである」
須藤さんは、コンサルタントらしくマーケティングの本質をシンプルに定義しています。
この定義の含意には、「顧客の立場にたって、顧客満足を提供すること」と「企業の立場にたって、必要な利益を上げること」という二つの目的を同時追究することの重要性と困難さがあります。
顧客満足というスローガンに異論を唱える人はいませんが、顧客が求めるモノ・コトと企業とっての利益が必ずしも一致しないことも我々は身をもって知っています。
ともすれば二律背反しがちな「顧客志向と「利益志向」を表裏一体のものとして設計できるかどうかがマーケティングの使命だということでしょうか。
須藤さんは、この成功例として、男性雑誌『LEON』を紹介されました。
“モテたいオトコ(おじさん)へ”という明確でオリジナリティのあるコンセプトで読者ロイヤリティをつかみつつ、おもしろい、ためになるのではなく、行動につながる=紹介した商品やサービスを購入することにこだわった編集方針が、読者の支持と高単価の広告収入という二つの目的の同時達成を可能にしたそうです。
カスタマーインサイト(顧客の意思決定を決定づける“口説き文句”の作り方)についての話も印象的でした。
須藤さんによれば、“口説き文句”を創り出すプロセスには三つの分かれ目があり、それを決定づけるのは「センスの有無」だとのこと。
1.小さい現象や変化に気づくかどうか=「感度」があるかどうか
2.客観的な仮説が立てられるかどうか=「客観性」があるかどうか
3.仮説検証の実行=「行動力」があるかどうか
の三つです。
「感度」の有無をはかる指標は次のような口癖を使っているかことだそうです。
「え、そんなことあったっけ」「それは深読みだよ」
何事にも同じものを観て、そこから何かを感じる人とそうでない人がいるものです。
「客観性」有無は次の口癖でわかります。
「私なんかだと」「そんなも目新しくないよ」
ついつい自分の目線と尺度で全てを理解したつもりになることです。
「行動力」の有無についての口癖は次のようなものです。
「それは思いつきだろ」「それは前にやってみた」
有用なアイデアを葬ってしまったり、お蔵入りさせることのなんと多いことか。
須藤さんは、「コンセプトは五感で訴える世界観と実質価値の両方を提供しないといけない」と言います。
論理を越えて、丸ごと感覚的に共感してもらえるようなパッションがないと顧客には受け入れてもらえない。
でもそれだけでは不十分で、顧客がそれを選んだ理由として雄弁に説明できる実体がないと顧客は高いお金を払わない、ということです。
イメージと論理、感性と理性、そのバランスの妙がマーケティングというわけです。
須藤さんは、世界観と実質価値の両方を提供して成功した例としてハンバーガーショップの「KUA-AINA」を紹介し、実質的価値の提供だけにとどまっている「モスバーガー」の高級ハンバーグ匠と比較をしてくれました。
理系出身で会計の専門家でもある須藤さんは、「マーケティングを科学する」ことを心がけているそうです。
いまマーケティングの世界ではブランドイメージに代表されるような感覚的な選別理由を脳科学の知見に求めようという「心脳マーケティング」といわれる分野が注目されています。
感性が科学的に説明できる時代がそこまで来ているのかもしれません。
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