KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2007年10月17日

「理想を追い求める」 安藤忠雄さん

アイルランドから帰ったばかりだという安藤さん。
自宅を設計した縁で、U2のボノに招かれて、ダブリンでボノを前座に従えたイベント講演をやってきたとのこと。
「ボノのファンばかりやからね、3000人集まりましたよ」
「でも寄付してくれる人が700人もいて、驚きましたわ」
そんな話を聞くと、主催者としては、つい対抗意識が湧いてしまうのですが、そんな思いには関係なく、いつものようにギリギリまでサインのペンをはしらせたうえで、あわただしく講演会場に入っていかれました。
安藤さんは、「東京から世界を考える」というタイトルを受けて、日本人の「民族としての民度」を話題にされました。
小泉八雲をはじめ、幕末・明治期の日本にやって来た外国人が、こぞって口にしたのは、日本人の「民度の高さ」だったと言われています。


私も歴史が好きで、開国当初に渡来した西洋人が著した日本滞在記、旅行記などを読むことがあります。
一様に口にしているのが、日本人の慎み深さ、礼儀正しさであり、循環型社会システムが整い、清潔に保たれた町並みや街道の美しさです。
安藤さんは、その「民族としての民度」が経済成長のカーブに反比例するように低下していることを強く感じているそうです。
誇るべき、日本人本来の素晴らしさを見失っている、気づいていない、ことへの危機感です。
建築に対する考え方には、それが象徴的にあらわれており、経済発展に伴い次々と建てられた建築は全て、古いものを壊したうえでゼロから造られていると安藤さんは言います。
安藤さんは、西欧での仕事も多いそうですが、ヨーロッパの古い街では、「元々ある古い建造物を改造したうえで、新しいものを造って欲しい」という依頼を受けるそうです。
素材や建築技術の違いや文化保存のための規制等々があって、その手の依頼は、建築家としては難しい仕事になるそうですが、「だからこそ面白い」と思えるとのこと。
「かつての宮殿を学校に造りかえて欲しい」
「15世紀の税関跡を美術館にしたい」
そんな難題を突きつけられて、軽口を叩きながらも楽しそうに設計構想を膨らませる姿が、安藤さんの一番輝いている時なのかもしれません。
そんな、安藤さんのスピリットは、ご自身が愛読しているというサムエル・ウルマンの『青春』になぞらえて言えば、「理想を追い求める」ことだそうです。
1969年、独学で建築を学んだに過ぎない、無名の安藤さんは、「大阪駅前プロジェクト」なる建築プランを携え、大阪市役所の門を叩きました。
それは、大阪駅前の高層ビルの屋上を緑化し、相互のビルをスロープで自由に行き来できるようにしようという壮大な「大阪駅前再開発デザイン」でした。
けんもほろろに突き返された当時の出来事をユーモアたっぷりに紹介しながら、「次はこれ」「その次はこれ」と次ぐ次ぎに却下され続けたプランを見せていただきました。
私も含めて、多くの聴衆は、そのエッセンスが現在の安藤建築に結実している事実に少し驚いたと思います。
特に、「表参道ヒルズ」は、40年前の「大阪駅前プロジェクト案」の発展型に他なりません。
「理想を追い求め、夢を実現するためには戦略性が必要です」
そう語る安藤さんが、40年前に描いていた夢と理想が、いま次々と実現されようとしているのかもしれません。
安藤さんが、いま注力しているのが、東京湾「海の森」構想です。
東京が排出するゴミと廃棄物の集積地である東京湾の埋立地を、樹木を植林し、明治神宮に匹敵する巨大な「海の中の森」を作ろうという壮大な計画です。
これを国や行政に頼るだけでなく、一人1000円の募金を50万人集めて、市民の力で成し遂げようという構想です。
「海の森」は、行き過ぎた現代都市が、都市機能を保ったまま、生まれ変わるための困難な挑戦の第一歩かもしれません。
東京から世界に、何かのメッセージを送るとすれば、それは、「都市再生」の新たな姿を提示することではないか。
そう語る安藤さんは、まだ「青春」真っ盛りです。
「海の森」募金については、下記のサイトをご覧ください
http://www.kouwan.metro.tokyo.jp/kanko/park/uminomoribokin.html

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