夕学レポート
2009年10月23日
グローバル・ビッグイシューに舵を取れ! 一條和生さん
20世紀は米国の世紀だったと言われる。
その代表選手を挙げよと言われれば、GM、IBM、GEの三社であることに異論はないだろう。
調べてみると、三社は、20世紀開始の号砲に呼応するかのように1900年前後に、相次いで設立されている。この100年間の米国の隆盛を体現してきた企業と言えるだろう。
今回の経済危機が「100年に一度」と呼ぶに値する大変革であることは、三社のうち最も巨大であったGMが、創業101年目の今年、事実上の倒産に追い込まれたという事実がなによりの論拠となる。
一方で、IBM、GEは、何度かの危機を乗り越え、今も世界有数優良企業として繁栄している。
GMとIBM・GEを分けたものは何だったのか。
一條先生は、「イノベーション(創造的破壊)」の有無であったと喝破する。
60年前、当時34歳だった新進気鋭の経営学者ピーター・ドラッカーは、GM成功の鍵が、徹底した分権化にあったことを明らかにした。GMに近代組織マネジメントの理想的姿を見たのだ。
しかし、GMは、同時に発せられたドラッカーの忠告を無視し、更なる「イノベーション(創造的破壊)」への道を閉ざし、成功パターンの踏襲に固執してしまった。
IBM、GEは違った。
彼らは、度重なる危機の度に、事業ドメインを大胆に変換することを厭わなかった。IBMは、電子計算機から大型汎用コンピューター、更にはITソフトサービス産業へと変貌を遂げた。
GEは、ジャック・ウェルチのもとで、無機的成長戦略に挑戦し、家電メーカーから、金融を核とした総合ビジネスへと舵取りを切り、いまは、ジェフ・イメルトの指導で、まったく違う企業へと生まれ変わろうとしている。
両者に共通するのは、絶えざる「イノベーション」に他ならない。
一條先生は、イノベーションの鍵が、製品・技術の革新からビジネスコンセプトの革新へと変わろうとする動きを「Thought leadership」という概念で説明してくれた。
ある領域・分野において、新たな思考・思想を掲げてパラダイムを変えてしまうことを意味する。
IBMは、コンピューター産業に「サービス」という思想を持ち込んで、それを競争優位の源泉にした。
GEは、「M&A」という企業戦略の思考を使って、多角化に成功した。
いずれも「Thought leadership」の成功例になるだろう。
では、21世紀は、どのような企業が、いかなる「Thought leadership」を発揮しようとしているのだろうか。
一條先生は、GEとネスレの二社を挙げて、明解な解説をしてくれた。
それは、「グローバル・ビッグイシュー」への取り組みである。
両者に共通しているのは、環境、健康、貧困、飢餓、医療とった世界が直面する政治・経済課題を解決することを自社の使命にしようという決意である。
しかも、少し前に話題になったCSRなんぞという、甘っちょろい思想ではない。
「グローバル・ビッグイシュー」の解決を、自社の事業ドメインのド真ん中に据えて、それを収益の核にしようという壮大な試みである。
たとえ、経営環境がどんなに不透明でも、複雑であっても、世界が直面している問題から目を離さずにいれば、絶対に間違えることはない。
彼らはそう信じているという。その志や好し。
一條先生は、彼らの動きを見て、グローバルカンパニーの定義が変わったと感じている。
「ローカル・マーケットを超えて、世界のさまざまな市場で事業を展開する」企業から、
「グローバル・ビッグイシューの解決で、Thought leadershipを発揮する」企業へと。
さて、日本企業はどうだろうか。
環境や健康をキーワードにあげる企業は多いだろう。BOP(ボトム・オブ・ピラミッド)という言葉もよく聞くようにはなった。
しかし、何かが違う。ケガをしない程度に、恐る恐る飛んでみようという怯えた姿がそこに見える。問題を捉える時間軸と空間軸の短さ・狭さを感じるのは私だけだろうか。
「鳩山政権が打ち出したCO220%削減方針は、日本企業が世界でThought leadershipを発揮する絶好の追い風になる」と一條先生は言う。
果たして、そうなるだろうか。
19世紀の英国、20世紀の米国と、資本主義の盟主は変わってきた。
21世紀はどうなるか。中国の躍進は間違いない。米国企業もしたたかだ。欧州にも先を見通せる企業群がある。
その中に日本はどこまで食い込めるのか。
見通しは、けっして明るくない。
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