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夕学レポート

2010年04月28日

「笑いの効用」 伊東乾さん

伊東乾先生の講義は盛り沢山の内容で、正直な話、消化不良を起こしそうになった。そこで思い切って、「笑いの効用」に絞り込んで論をまとめてみたい。
「絶望の反対は、ユーモアだと思う」
希望学を提唱する東大の玄田有史先生は、かつて、宇多田ヒカルが語ったという言葉を紹介してくれた。
ユーモアがなくなった時、人間は絶望する。
どんな困難な状況、悲惨な境遇に陥っても、ユーモアさえあれば、希望に繋ぐことが出来る。
ユーモアには、そんな「力」がある。
「吉本の漫才を聴くと、血糖値が下がる」
遺伝子工学を専門とする村上和雄先生が、吉本興業の協力を得て実証研究をした科学的知見である。
二万個以上あるという人間の遺伝子のうち、23個の遺伝子が、お笑いを聴くことで活性化する。それが人体にプラスの影響を及ぼす。
お笑いには、そんな「力」がある。
伊東乾先生の「笑いの効用論」には、上記を一歩進めて、脳科学的な解説が加わる。


人間の脳は、反射や調節を司る「脳幹」、 情動行動を制御する「大脳辺縁系」、 理性・知識を担う「大脳新皮質」の三層構造であることはよく知られている。
伊東乾先生によれば、人間は、どんなに理性的・合理的になろうとしても、動物的な古い脳(脳幹、大脳辺縁系)の影響から逃れることは出来ない。
なぜなら、動物的な古い脳の方が、人間らしい新しい脳(大脳新皮質)よりも、ほんの少し早く反応するからだ。
古い脳の反応は、人間の心身状態をロックインし、理性的思考に縛りを掛けてくる。
ひどく悲しい時、猛烈に腹が立った時、恐怖に身がすくむ時、人間の理性は働かない。
たったひとつの例外が、「笑い」であるという。
「笑い」は、古い脳である情動的な行為であるにもかかわらず、同時に、新しい脳をも活性化させる唯一のものだ。
人類は、どうやらこのことを経験的に知っていたようだ。
古代ギリシャのポリス社会では、悲劇と喜劇が盛んに演じられたという。
「強い情動を共有しつつ喚起して、共同体の一体感をたもったのではないか」
伊東先生は、そう言う。
日本の古事記にも、「天の岩戸説話」をはじめとして、「笑い」に連なるエピソードが散りばめられている。
現代エンタテイメントの世界でも、かつての王者であった映画やTVドラマ、歌謡曲が衰退していく中にあって、唯一生き残り、益々元気な存在が「お笑い」である。
「笑いの効用」の全貌は、まだ解明されていないのだろう。
23個の遺伝子が反応することはわかっても、どこに、どういうメカニズムで働くのかは、未だわかっていない。
しかし、そこに大きな金鉱脈が隠されていることだけは間違いないようだ。
若者が保守的になった。大きな夢を追わなくなったと言われる。
しかし、お笑いタレントを目指す若者が減ったという話は聞かない。
笑いには、明日を信じさせてくれるポジティブエナジーもあるのかもしれない。
困った時こそ笑いましょう。
苦しい時こそ笑いましょう。
未来を拓く扉が、きっとそこにある。

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