KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2010年11月12日

グローバルワールドにおける日本 <寓話風>  リシャール・コラスさん

きょうは、趣向を変えて、リシャール・コラスさんの講演を寓話風にまとめてみました。
10年ほど前まで、ちきゅう村の市場には、三人の大きな商人がおりました。
「あめりか屋」、「おうしゅう屋」、「にほん屋」の三人です。
「あめりか屋」は、大きな家屋敷・田畑もあり、たいそうなお金持ちでした。明るく心の広い親分肌の商人で、新しく店を出す人には何くれとなく世話を焼き、市場に揉め事が起きれば、進んで仲介をしていました。
「おうしゅう屋」は、村一番の老舗で、「あめりか屋」も、その分家筋にあたります。老舗らしく気品と教養があって商売も堅実ですが、「あめりか屋」や「にほん屋」の勢いに押されて、かつてのように繁盛はしていません。
「にほん屋」は、店構えも小さく資産もありませんでしたが、やたらと働き者で、小さな仕事も厭わずにせっせと商売に励んだおかげもあって、「おうしゅう屋」を追い越し、村で二番目に大きい商人になりました。
「おうしゅう屋」「にほん屋」共に、「あめりか屋」相手の商売が中心で、たくさんの商品を買ってくれるので頭が上がりませんが、心のどこかで「あめりか屋」のやり方に危惧を抱いておりました。「お金が儲かればなんでもやる」という欲張りなところがあるからです。
「あめりか屋」は高利貸しや怪しげな富くじ売りで大儲けをしたこともあって、ここのところ、強欲な気質が一層目立っておりました。


ところが三年前に富くじが突然売れなくなり、高利で貸付けたお金も焦げ付いて、「あめりか屋」の商いが急に傾いてしまいました。当然ながら、「おうしゅう屋」「にほん屋」の商売も激減して、ちきゅう村の市場には閑古鳥が鳴き始めました。
そんなところに、「ちゅうごく屋」「いんど屋」といった新興商人が登場してきます。彼らは、とにかく商売熱心で、商いを大きくしようと一生懸命です。「あめりか屋」以上の家屋敷や田畑を持っているので(事情があって長いこと荒れ果てていましたが)、これからもどんどん大きくなりそうです。
ちきゅう村のお客さんは、「ちゅうごく屋」「いんど屋」へと急激に流れていきました。「あめりか屋」、「おうしゅう屋」、「にほん屋」もせっせと商談に出かけています。信じられないような大量の注文を出してくれるので、とてもありがたい存在です。
ただ、新興商人達は、商売のマナーや決まり事を守ることが苦手で、平気で商談の約束をすっぽかしたりします。「おうしゅう屋」、「にほん屋」の名物の偽物を安く売ったりもしているようです。
最近「にほん屋」にとって心配なのは、これまで自分の面倒をみてくれた「あめりか屋」が、「ちゅうごく屋」「いんど屋」の方に関心を向けて、冷たくなってきたように感じることです。
三人の大きな商人が中心になって回っていた、ちきゅう村市場の秩序構成が変わりつつありことは間違いありません。
さて、「にほん屋」はどうすればいいか。いままで通り「あめりか屋」との商売に頼るべきか、それもとも多少のマナーの悪さやわがままを我慢して、「ちゅうごく屋」「いんど屋」との商いを増やすべきか。
「にほん屋」の主人や手代達は、どうしたものか思案にくれています。
そこに「おうしゅう屋」から声がかかりました。
「節操なく新興商人にすり寄るのはやめよう」「両者の商売を増やして力を増し、新興商人に言うべきことは言おう」というお誘いです。
かねてから「お金が儲かればなんでもやる」という商売の考え方を苦々しく思っていた両者ですが、なぜか互いの取引額は多くはありませんでした。
「おうしゅう屋」からみれば、働いてばかりいて生活を楽しまない「にほん屋」の暮らしぶりが不思議でなりません。「にほん屋」の従業員は、人付き合いが下手で、何を考えているか分からない不気味な相手でした。
「にほん屋」にすると、プライドが高く、高貴な雰囲気を漂わせる「おうしゅう屋」は、苦手な存在でした。大昔は、「おうしゅう屋」も随分とあこぎなやり方をしていたことも気になります。(「ちゅうごく屋」「いんど屋」の田畑が荒れ果てたのはそのせいだという人もいます)
「お金がすべてではない」という商人道を共有化できるのならば、互いの苦手意識や生活習慣の違いはひとまず脇に置いて、もっと関係を深めよう、と「おうしゅう屋」は言ってくれます。「にほん屋」はもっと自信を持てとハッパをかけてもくれます。
さて、「にほん屋」はどうすればいいのでしょうか。
「にほん屋」は一生懸命働くことは得意ですが、将来の行く末を深く考えることは苦手のようです。
とはいえ、誇り高き「おうしゅう屋」がいつまで待ってくれるかはわかりません。
「にほん屋」が悩んでいるうちに、きょうも日が暮れていきます。
追記:
・この講演に寄せられた「明日への一言」30件です。
http://sekigaku.jimdo.com/みんなの-明日への一言-ギャラリー/
・この講演には「感想レポート」も応募いただきました。
「日本人へのエール」(さわらさん/会社員/40代/男性)

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