夕学レポート
2013年11月12日
こころを苗にして育てる 安藤忠雄さん
「なんでこんな国になったのか」
安藤忠雄さんは、いつになく厳しいトーンで話しはじめた。
夕学四度目の登壇となる安藤さん、これまでの講演でも日本という国の社会システム、日本人の意識に対して警鐘を鳴らすことが多かったが、今回はこれまでにもまして思いが強かったのではないか。
2020年東京オリンピックが決まったが、安藤さんが監修するオリンピックスタジアム建設の入札に建築会社が乗り気にならないという。
理由は「現場の人が集まらない」ということらしい。
現場監督、大工、左官、建築資材・部品の加工工場等々で働く人がいない。
世界一と言って過言ではない日本の土木建設業。その現場力を支える肝心の人間がいなくなってしまった。
東北復興の需給が逼迫しているという事情はあるけれど、ホテルなどのサービス業でも人不足に悩んでいる。
「額に汗して働く人々」がいつの間にかいなくなってしまった。
「なんでこんな国になったのか」
それほど大きくもない自治体が、2つも3つもオペラハウスを建てようとする。
広大な敷地を持つ郊外キャンパスをほったらかしにして、大学は都心に回帰する。
そこにこれまで投下した資源はどうするのか。
「なんでこんな国になったのか」
経営者はゴルフばかりしている。
ホワイトカラーは勉強ばかりしている。
「なんでこんな国になったのか」
安藤さんが尊ぶスピリットは、ご自身が愛読しているというサムエル・ウルマンの『青春』になぞらえて言えば、「理想を追い求める」ことだ。
(詳しくはこちら(前回)の夕学ブログをご覧ください)
そのスピリットがいまも安藤さんを突き動かしていることは、きょうの講演でもよくわかった。
それだけに、日本人が「野生」「挑戦」「勇気」「構想力」を失いかけていることが歯がゆくてしかたがないのだろう。
「でも絶望することはない。こころはしっかりと残っている」
毒舌ながらもその心底に温かさを持つのが安藤忠雄さんである。
東日本大震災で親御さんを亡くした遺児のための育英基金を立ち上げたところ、たちまち40億円の寄付が集まった。
「日本をなんとかしたい」という人々のこころは失われていない。
「人々のこころ」を種や苗にして、時間をかけて豊かな森に育てようというのが、安藤さんのライフワークのひとつである。
長年の煙害のために全島が禿山だった直島は、20年掛けて日本有数のミュージアムアイランドに変わった。
東京湾では、かつてのゴミの島が「海の森」に変わろうとしている。
自然が持つ生命力を上手に活かしてあげれば、森は自ら育っていく。
「野生」の力を信じて、「勇気」をもって「挑戦」し、「構想力」を駆使して考えれば、荒涼たる大地を緑に変えることができる。
毒舌とユーモアを絶妙のバランスで組み合わせて送られた安藤さんのメッセージはそういうことだったと思う。
丸の内の会場で募った震災遺児育英基金の募金額は70,253円でした。
MCCより安藤忠雄事務所に送金させていただきました。皆さまのご協力に心から御礼申し上げます。
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