KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2014年06月17日

スポーツがめざすは守破離 山口香さん

yamaguchi.bmp山口香さん。かっこいい方でした。ハリのある白な柔道着を着て、凛々しく立つ山口さんの柔道姿、とてもかっこよかった。印象に残っています。信念をもって、力強く情熱的に、それでいて軽妙で明るく、お話くださった今夜の山口さんも、とてもかっこよかったです。
一芸に秀でている人は何にでも秀でている
よく言われる言葉ですがスポーツもまさに同じです。スポーツにどんな意味・価値があるのか。スポーツはなぜ社会に役立つのか。そして暴力がなぜ悪いのか。コーチの役割とは何なのか。柔道家であり指導者であるからこその持論を山口さんは語ってくださいました。スポーツのみならず仕事やマネジメント、生き方へのヒントも、たくさんあるメッセージでした。
守破離
山口さんは「守破離」の「破」「離」ができることで、スポーツが社会に役立つとおっしゃいます。スポーツの稽古に励み、勝負に挑むのは、そういう人間をつくるためです。
道にある「守破離」という言葉。山口さんは「守」とは「わかる」、「破」とは「できる」、そして「離」「つかえる」ようになることだと言い替えて教えてくださいました。稽古によって基礎を身につける自分を高めていく、勝負でお互いを高めていく、できるようになる、力がついていく、そしてさいご「つかえる」ようになってこそ。
「つかえる」とは、「世の中で自分の道ではないところで通用する」ことと山口さんはおっしゃいます。
スポーツをやる目的は、強くなる、金メダルをとる、ことではありません。世の中の役にたってこそです。そして、スポーツはその力を育む力や可能性を十分にもっていて、だからこそ道が受け継がれ鍛錬されてきたのでしょう。
しかしこれに至れるかは、指導者の責任も大きいと山口さんは力をこめられます。
指導者がときおり、「道」に立ち戻り、その精神をしっかり語り、教えなければ、伝わりません。体を鍛え技を磨くだけでは、強く勝てる選手にはなれるかもしれないけれど、離には至れません。
柔道で世界トップを極めた実力と実感、指導者としての経験とが礎にあって、山口さんのお話には説得力がありました。
スポーツは社会の縮図
では、社会で役に立つとはどういうことでしょうか。スポーツにはルールがあります。


特にオリンピック競技は、産業革命後の英国で近代民主主義とともに始まったスポーツなので、社会が反映されている、といいます。
例えばラグビー。前にゴールがあるのにボールを後ろに投げ、スクラムを組む。ボールを抱えて一人で突進しようとしても、途中でつぶされることがほとんど。社会も同じです。ルールのなかで、自分の力を活かすのです。いくら正しくても、正しいと主張しても、一人で突進するばかりではゴールにはたどりつけず、周りと力を合わせて共に進んでこそゴールをめざせるのです。一見不思議なようなスポーツのルールは社会の縮図ともいえます。スポーツを通して鍛えられるのは、身体や根性だけではなく、社会のなかで活躍していける、強さやしなやかさでもあるのです。
自律・自立
破離に不可欠なのが、自律・自立です。なぜ暴力がいけないのか、自律を育まないことにあります。
山口さんは東京オリンピック生まれ、今年50歳。当たり前のように教育指導に暴力のあった時代に育ち、強くなった方です。強くなるためにはある程度の暴力は必要ぐらいに思っていらしたそうですが、暴力が連鎖した指導とそれが当たり前とされる風土に危機感を覚え、問題視して立ち上がられたのでした。
人間は、殴られ続けると殴られなければやれなくなります。殴られたことで強くなり結果勝てば、暴力と成功体験がつながります。ますます暴力に依存していきます。指導者の問題もあります。殴らなければ、やる気にならないし強くなれないと思い込み殴り続ければ、自律をますます取り上げることになります。人間の考え方はそう簡単には変わりませんが指導者も変わっていかなければならないと山口さんは指導者についても強く問題提議されています。
負けから学ぶことは多いが、勝たないと自信は生まれない
さいごに。質疑応答ででたこの言葉がとても印象的でした。
勝負することで、自分の実力を知り、自分自身をより高め、お互いを高めていきます。
負けからも学ぶことは多くあります。仕事でも生活でも私自身、失敗や反省から学ぶことが多くあるなと感じます。
しかし、勝つことでのみ、自信がつきます。成功体験がメンタルの強さを育むのです。これも同様、小さくてもよいので上手くいった経験、手応えのあった仕事、認められたり褒められたりした出来事が、自己肯定感の源だなと感じます。
勝つことへのこだわりが、自信、精神を鍛えます。失敗が許されない現代社会で、挑戦し続け、一番を競い合う姿を見せることも、スポーツの役割ですと山口さんは添えられました。スポーツから私たちは何を学ぶのか、これは、スポーツを私たちは応援するのか、にもつながるのではないでしょうか。日本チーム、日本選手。いい勝負をたくさんしてほしい、そして勝ってほしい、願い、心から応援します。(湯川真理)

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