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夕学レポート

2014年10月23日

武田双雲という人

photo_instructor_737.jpg NHK大河ドラマ「天地人」など、数々の題字を手掛ける書道家の武田双雲氏。自身を「スーパーポジティブ」と語る武田氏だが、元々はネガティブでイライラすることも多かったそう。どのようにして「スーパーポジティブ」になれたのか。武田氏は「ポジティブは技術、毎日の積み重ねで誰でも出来る」という。
 現在、江の島に住んでいる武田氏はあることに気が付いた。
江の島駅では、みんな笑顔で電車から降りてくるのだ。しかし、丸の内のようなオフィス街では、電車から降りてくる人たちの表情が暗い。今から遊びに行く人と仕事に行く人の違いだ。ポジティブとネガティブは、何か大きなことがあって決まるのではない。
同じ人がポジティブにもネガティブにもなることに気が付き、武田氏は生活の中での感情の持ち方を変えていった。


朝をポジティブに起きる
 朝が辛くなったのはいつからだろう。子どもの頃は一日が楽しみで、朝は飛び起きていた。
武田氏も中学1年生ぐらいから朝起きるのが辛くなったそうだ。
その原因は朝ベッドの中で、やりたくないことを思い浮かべるからだ。
聖路加病院の日野原重明氏は103歳だが、朝は楽しみで飛び起きると聞き、武田氏は起き方を変えた。「今日はどんなことが起こるかな?」と笑いながら起き、気持ちの良い目覚めを実践しているそうだ。朝だけでなく、一日を楽しく上機嫌に過ごせるように変わった。
口角も5mm上がった。上機嫌で過ごせるようになると、まわりに感謝したくなる。
一日の終わりには、身体全体に「ありがとう」と言って寝るそうだ。
だからこそできること
 「乙武洋匡はだからこそできることの神様だ」と武田氏はいう。
手足がないからこそできることを常に考え、心から感謝している。1年ぐらい対談をして、びっくりするぐらいポジティブな人だと思った。手足がないからと諦めない。乙武氏を見ていて「だからこそできること」とは過去の何かを否定しないことだと発見した。
武田氏は自分が不利な状態でも、ネガティブな考えに陥らず「だからこそできること」を考え、不利な状況を覆してきた。武田氏は顔が大きいのがコンプレックスだそうだが、だからこそ舞台映えすると考えている。あるものに感謝し、ないものは求めない。
 武田氏は面白いエピソードを話してくれた。
日光金谷ホテルで、明治時代に世界のVIP10人をもてなした料理のレシピが見つかった時のこと。小山薫堂氏に誘われて、「どんな美味しいものが食べられるのだろう」と楽しみに出掛けた。
しかし、期待とは裏腹に出されたシチューは甘すぎて美味しくなかった。
ファミリーレストランで食べるシチューのほうが確実に美味しい。
武田氏はそれでも「明治時代のVIPより、毎日美味しいものが食べられて幸せだな」ポジティブに考え、あるものに感謝したそうだ。
新妻プロジェクト
 「これ面白くないですか?」とは、どうやら武田氏の口癖みたいだ。今回の講演でも数多く使用していた。「新妻プロジェクト」はその中の一つだ。
結婚して10年経った頃、奥様が空気みたいになってしまったことから、武田氏は「新妻プロジェクト」を立ち上げた。どこまで妻を新妻と思えるかに挑戦する。
絵描きはリンゴをリンゴだと思っていない。初めて見たもののように観察し、面白いオブジェクトとして見て描く。
「新妻プロジェクト」もリンゴを描くことに似ている。妻をじっと見てみる。聴覚を研ぎ澄ませ声を聴き、恋をする。相手は変えられないから、自分の考え方を変えてみた。
実践すると新妻より新妻らしくなってくるから不思議だった。髪型を変えても気がつかなかったのが、相手に関心を持つようになり関係がよくなったそうだ。
仲の良い夫婦の共通点として、武田氏は「感謝力」を挙げる。ポジティブの中でも「感謝」は重要な要素なのだ。
武田双雲の書
 今回の講演会の目玉として、聴講者からのリクエストで武田氏は「飛」という字を書いた。
筆を持つと急に静かになる武田氏。何度も指で書き順を確認する。
子どもの頃は母親から「あんた天才」と言われて育てられた。しかし、書道だけは違った。母の武田双葉氏に教わる時、一画の中で「違う!そうじゃない!」と五回は否定された。
おかげで今は「無」の状態で書くことができる。双雲氏にとって、アーティスト特有の「降りてくる感覚」=「母の言葉」なのだ。
今、「飛」という字を書いている瞬間も、今日だからこそ書ける「飛」を意識する。同じことはしない。上手く書こうとも、失敗するかもとも考えない。
双雲氏が書き終えて色紙を掲げた時、会場からは歓声が沸いた。
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最後に
 最後に私の好きなスーパーポジティブな人を紹介する。『源氏物語』に出てくる明石の入道だ。娘の明石の君に対し「あなたは尊い仏や神の化身なのだから、自信を持って生きていきなさい」と断言するのだ。私は、この言葉を読んだ時に、自分が言われているような気がした。有名な言葉ではないが、すごく良い言葉なので最後に記しておく。

ほり屋飯盛
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