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夕学レポート

2006年01月27日

世界の地図を変える国 榊原英資さん 「インドを読み解く」

榊原先生がインドに関心を持ったのは最近のことだそうです。詳しく調べようと思い、書籍を探したところ、日本にあるインドの専門書は哲学や宗教学ばかりで、経済について、特に現代インド経済を解説する本はほとんど存在しなかったそうです。中国に関する本が有象無象含めて氾濫しているのと対照的だとのこと。
恥ずかしながら、私もインドについての知識は実に浅はかなものです。「ゼロの概念が生まれた国で数字に強い」「シリコンバレーはインド人だらけ」「カースト制はいまだに深刻な問題らしい」といった程度の知識はありましたが、首相の名前がモンマハン・シンだということさえ知りませんでした。
そんな私にとって、きょうの講演は「現代インド入門」とでも呼べるようなたいへん分かりやすいものでした。


榊原先生のお話は、インドの歴史的背景の解き起こしから始まりました。14世紀~19世紀初頭まで、インドは世界第二位の経済規模を誇り、世界のGDPの17%を占める文字通りの大国だったとのこと。イスラム文化圏、中華文化圏、西欧文化の交流地域で文化水準も高く、香辛料や織物、陶磁器等の物品を世界に供給する先進国家だったそうです。19世紀以降の産業革命に取り残されてイギリスの植民地となって以降ここ200年間の沈滞の季節を過ごしてきましたが、いままた中国とともに「アジアの世紀」を象徴する存在になろうとしています。「インドには栄光の時代のレガシー(遺産)がある。地力のある国」なのです。
続いて、現在の経済発展の経緯について話が展開されました。インドの改革は1991年にはじまり、その設計図を描いたのが、いまの首相モンマハン・シンだそうです。中国の改革が、故鄧少平(当時89歳)の南巡講話からはじまったのに対して、改革の考案者がリーダーとして実行責任を負っている点にインドの若さ・勢いがあるようです。
榊原先生によれば、インドの発展は、ホワイトカラーエリートと米国の印僑が担ったIT産業中心の第一段階を終えて、大衆層の雇用を可能にする製造業強化を目指した第二段階に移行しつつあります。電力や道路といった社会インフラの整備が急ピッチに進み、世界中のメーカーを誘致しようという政策が推し進められているそうです。中国に続く「世界の工場」がもう一つ生まれようとしているということでしょうか。
さて、一番面白かったのは、中国と対比させながらインドの特徴を正と負の両側面で整理してくれた点です。インドは法治国家で官僚統制も厳しいのに対して、中国は人治主義で人間関係がないとはじまらない。ゆえにインド人は契約書の文言ひとつ一つまで細かくチェックするが、中国人は平気で契約を反故にする。インドは民主主義で中国は共産党支配。ゆえにインドでは何をするにも時間がかかるが、中国はあっと言う間。インド人は歴史的経緯から日本に親密な感情を抱いているが、中国人は侵略戦争の影響で日本が大嫌い。インドは人口の半分が25歳以下という若い国だが、中国は一人っ子政策の影響で高齢化が早く進む。インドへの日本企業の進出はこれからだが、中国はすでに過剰気味。等々です。
広大な国土、桁外れの人口、多民族・多言語、高い潜在可能性などの点で共通項を持つアジアの両雄ですが、国家・国民の性質には正反対のものがあることがわかりました。そんな彼らと我々は今後どう付き合っていけばよいのか。榊原先生が笑い話で諭されたように、インドの株や投信を買う前に、じっくりと勉強することが重要だと改めて思いました。

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