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宮城まり子「「捉え方」がこころのありようを規定する」

2015年12月08日

宮城まり子
法政大学 キャリアデザイン学部教授、臨床心理士

企業では、ストレスからメンタルヘルス不調になり休職したり、薬を服用しながら働く社員を多く抱えている。

メンタルヘルス不調のなかでも、近年最も多いのが「うつ」であり、再発も多いのがその特徴である。対応としては、医師の投薬、会社を休んでの休養、業務の軽減などが一般的な対応になっている。しかし、こうした対応だけで果たして充分だろうか。多様なストレスを抱え「うつ」になり悩む社員に対する本質的な問題解決になっているのだろうか。

投薬とは別に「うつ」に対する精神療法として「認知行動療法」がある。むしろ、薬物療法よりも、効果が継続し予防的機能を果たすと考えられている。「うつ」の人は、ややもすると「マイナス思考」(私はダメなのではないか、きっとダメにちがいない)に陥りがちであり、ものごとの「捉え方・見かた」に固有の「偏りやゆがみ」がある。

「認知行動療法」の理論的背景では「そのできごと自体がこころのありようを規定するのではなく、人がそれをどのように“捉え”(認知)ているかが感情を規定する」のであり「その捉え方がゆがみ偏っていると、感情や行動に対しマイナスの影響を与える」と考える。

つまり繰り返すが、自分に起きた出来事(事実)をどのように捉え、考えるかにより、感情は規定され行動も影響されるということである。実際、私達が捉えている日常の「事実」は、決して客観的な事実ではなく、「自分が独自に捉えている事実」に過ぎない。捉え方に偏りやゆがみがあると、そこから悩みや不安は発生する。悩みや不安は、ある意味自らつくっているとも考えられる。

認知行動療法では「すでに起きた出来事や事実を変えることはできないが、それに対する捉え方、考え方を変えることは可能だ」とする。それ以外にも「他の捉え方、考え方」は必ずあるからである。例えば、メンタルヘルス不調で休職した事実を、単にマイナスと捉えるだけではなく、その経験から得たこと、新たな「気づき」は何かを考えることにより事実の捉えなおしを別の角度から行う。一見マイナスのようなことも、別の角度から捉えなおすことにより、思い込みから解放され、気持ちが楽になり、次第に職場にも再適応することが可能になるだろう。

また、思いこみを払拭するためには、何よりもまず行動してみることが欠かせない。「上司はきっと自分を見放しているに違いない」とマイナスに思い込んでいる場合でも、勇気を出して上司と一度話し合ってみる(行動を変える)と、いかに自分の考えが一方的で偏っていたかに気づく。こうして行動を変えることから、捉え方を変えることが可能である。

ここでの「認知を変える」ということは、単純にただ「プラス思考になれ」ということを言っているのではない。捉え方はいろいろ、別の視点、反対からも捉えなおしてみることである。もし落ち込んだとしたら、それは自分が敢えて「落ち込むような捉え方」を選択しているからであり、また、もし不安になったらそれは敢えて「不安になるような捉え方」を自ら選択しているからなのである。
 

宮城まり子(みやぎ・まりこ)
  • 法政大学 キャリアデザイン学部教授
  • 臨床心理士
慶應義塾大学文学部心理学科卒業、早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻修士課程修了、臨床心理士として病院臨床(精神科・心療内科・小児科)、教育研究所研究員などを経て、産能大学経営情報学部助教授となる。1997年よりカリフォルニア州立大学大学院教育学部カウンセラー教育学科に研究留学、キャリアカウンセリングを中心に研究。立正大学心理学部臨床心理学科教授を経て2008年より現職。専門は、臨床心理学、生涯発達心理学、産業心理学、キャリア心理学。現在、日本産業カウンセリング学会名誉会長、日本キャリア教育学会理事などをつとめる。また、キャリアカウンセラーの養成、スーパービジョン、働く人のメンタルヘルスとキャリア形成支援の統合とその研究に力を注いでいる。

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