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田口 佳史<緊急発言> 「コロナショックに学ぶべきこと」(その1)

2020年05月12日

田口佳史
東洋思想研究家、株式会社イメージプラン代表取締役会長

―重要メッセージを読み解く―

新型コロナウイルスの突然の襲撃は、予想以上のスピードで大きな打撃を世界中に拡大し、人類社会に言い知れぬ恐怖を与えています。
一体いつまでこの状態が続くのか判然としないという苦痛もあります。
しかしわれわれは、この敵を一刻も早く撃退しなければなりません。
長年東洋思想を考え方の基本に据えて生きている私のような人間は、どうしても次の様なことを考えてしまいます。
この事態は、人間社会に何を示そうとしているのか。
どの様な命題をわれわれ人間に突き付けているのか。
何を知り、その上で如何なる行動を命じているのか。
この1ヶ月じっと考え続けてきました。
重大なメッセージが届けられているのは、確かなことです。
予防ワクチンや治療薬の一刻も早い開発こそ重要だと思いますが、しかし、それを待っているだけで良いのか。
私の出来ることは何かと問えば、それこそが、この重大なメッセージを読み取り、人々にそれを知らせ、そしてその実現の為に力を尽すことなのではないか。
それこそがこのウイルスに打ち克つことではないかと思ったのです。

そこでまず私たちが気付くべきことがあります。
この20年私たちは大きな転換期の真只中にいます。
 
しかしその転換が一向に進んでいないことが問題です。
その転換の最大の課題は、次の点にあると私は言って来ました。
近代西洋思想の行き詰まり。
新しい人類の指針の必要性。
そして何よりも弊害をもたらしていることが次の点であり、この点だけでも一刻も早く解決をしなければいけません。
「経済成長一点張りによる弊害」
国家の最大のテーマは経済成長にあり、世界経済の中で優位に立つことであるとされてきました。
いまもってそう信じている国ばかりのように思えます。
私はしばしば次の質問を受けます。
「東洋思想では経済成長をどう考えるのか」
私は次の様に答えます。
「ぞうっとする」と。
東洋思想は常にもの事を陰陽で考えます。
成長・拡大は陽でありますから「経済成長」は陽です。
この世の中、陽だけで成り立つということは全くありません。
陰の充実・革新があって初めて安定し、健全に進んでいくのです。
したがって経済成長に対して常に考えるべきは、経済成長をもたらす人々、関係する人々の暮しの充実と革新なのです。
もたらし、関係する人々はまず自国民ですから、これらの人々の暮しの充実・革新を考慮していかないと成長は続きません。
人間の暮しとは、金銭物質ばかりでなく心の安定や満足もあることを忘れてはいけません。
更に、もたらし関係する人々となれば貿易相手国、仕入れ先の国や販売先の国の人々が重要になりますから、この人々の暮しの充実と革新を考慮しなければなりません。
もう少し大きく考えれば、経済成長とは金銭物質の成長拡大を表わしますから、陰は精神道徳ということになり、この充実をより強めていかないとバランスを失い経済成長自体が破綻します。
更にもう少し大きく考えれば、金銭物質は人工的産物ですからこれを陽とすれば、陰は自然ということになり、自然の充実革新、つまり自然の保全や維持にも相当のエネルギーを投入すべきだということになります。
自然との共生を地球規模で成り立たせることを要求しているのです。
アマゾンや南アジアの大森林が伐採され大規模に失われていくことは、一見南北問題の解決の為に仕方のないことと考えがちですが、いままで大森林の奥深くで眠っていた細菌、病原菌や新種の猛毒な蚊や蟻を、白昼のもとに引き出してしまう弊害の恐ろしさを忘れてはなりません。
更に森林減少により益々地球温暖化が進み、永久凍土が溶け出すと益々温暖化が進むという負のサイクルが廻り始め、手に負えない状況になります。
陸地の減少ばかりでなく、凍土の中に封じこめられていた病原菌が表面化し、活性化してしまう恐ろしさも覚悟せざるを得ません。
何千何万年と残されて来た自然は、実は先人の注意深い配慮と苦心の賜物なのです。
突如現われた拝金主義者によって、この地球をメチャクチャにされて良いものかと思わざるを得ません。
世界の富が一部の人々のみに握られていることを是正し、収益の一部が常に南北問題の解消に向けられるような、例えば人生をより良い進路に向かわせる様々なチャンスを与え続ける、そうした仕組みをつくってしまうことが必要です。
この地球の上の人間には、誰にも等分にチャンスがあるという「公平、公正」こそ、東洋思想の根幹を成す考え方です。
いま私たちは、コロナウイルスの感染防止策の一つとして、手洗いをやかましく言っていますが、世界にはまだまだその水自体に恵まれない人々が、多くいることを忘れてはなりません。
必要最低限の生きる条件の保証が、地球上全体に行われるぐらいの、富の平準化が求められているのです。
 
さて、新型ウイルスが、経済成長第一主義の中国で発生し、世界一の経済大国米国で感染者数が最大多数になってしまったことは誠に象徴的なことで、まさにこの「経済成長第一主義からの転換」を促していると見るべきです。
また経済成長第一主義一点張りでは、どうしても「自国ファースト」になります。
グローバル時代の経済活動は地球規模にならざるを得ません。
自国ファーストの国が、世界に乗り出していくのですから、相手国との間には多くの問題が必ず生じ、結果として自国ファーストも貫けないことになることに気付かなければいけません。
勿論自国の事を考えるべきですが、それは他国の事も考えて初めて成り立つことなのです。
自国も含め、他国の事も考えるとは、「地球全体の事を考えて」ということになり、特に世界で一、二の大国の成り立つ条件としては「地球の世話、宇宙の世話」をしてこそのものだということを、今回の「パンデミック」という実態がよく表わしていると思います。
日本という世界に類い稀な伝統精神文化を持つ国こそが、「世界の大義」を世界に向けて説き、「公共の天理をもって世界に乗り出す」ことこそが、大国の使命であることを世界全体に向けて説き続け、世界世論を形成すべきではないでしょうか。
「地球のより良い保全と地球市民のより良い暮し、この両者バランスの上に成り立つ、新しい国家の在り方、一人一人の人間の在り方を説く」ことこそが、われわれの為すべき役割と考えます。
これはいまから150年以上も前に、日本を代表する思想家横井小楠と佐久間象山が主張したことなのです。
 
以上の思索はまだまだ浅薄なものであります。
今後も継続して深めていくべき大きな課題だと認識しておりますので、また折に触れご報告を申し上げたく思います。
その為にも読後のご意見を戴けますれば幸いです。
 
田口佳史

田口佳史(たぐち・よしふみ)
田口佳史
  • 東洋思想研究家、株式会社イメージプラン代表取締役会長
1942年東京生まれ。新進の記録映画監督として活躍中、25歳の時タイ国バンコク市郊外で重傷を負い、生死の境で『老子』と出会う。奇跡的に生還し、以降中国古典思想研究四十数年。東洋倫理学、東洋リーダーシップ論の第一人者。企業、官公庁、地方自治体、教育機関など全国各地で講演講義を続け、1万名を越える社会人教育の実績がある。 1998年に老荘思想的経営論「タオ・マネジメント」を発表、米国でも英語版が発刊され、東洋思想と西洋先端技法との融合による新しい経営思想として注目される。

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