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桑畑 幸博『屁理屈に負けない! ――悪意ある言葉から身を守る方法』

2020年07月14日

桑畑 幸博
慶應MCCシニアコンサルタント

コロナ禍における屁理屈がもたらすストレス

新型コロナウイルスによる感染者の拡大と、それに対応するための各種自粛に起因する経済の疲弊。

今回のコロナショックにおいて私たちにストレスを与えるもの、それは外出自粛やテレワークなど「今までは違う暮らしと仕事」だけではないはずです。

テレビから流れてくる医療現場のたいへんな状況、そして国や自治体への批判。
さらにSNSをはじめとしたネットでも、様々な意見や批判とも言えないような誹謗中傷、そして炎上に言い争いが溢れています。

私たちはそうした多種多様な言説からも、多大なるストレスを受けています。

「国は何を隠蔽しているのか?」
「誰の言っていることが正しいのか?」
「自分はどう考え、どう動くのが正解なのか?」

陰謀論のような刺激的な言説、そして涙ながらの訴えなどは、確かに私たちの心を動かします。
しかし、そうした心を動かす言説を鵜呑みにしてデマを拡散してしまっては、自分が意図せずして「善意の加害者」になってしまうリスクが高くなります。

「感染症に詳しい」と紹介されたとしても、実は専門医でも何でも無い人が、正しいことを言っている保証はありません。

実際、毎日のようにテレビのワイドショーで国や自治体を批判している某氏は、ドイツがロックダウンを段階的に解除することについて「実効再生産数(一人が何人に感染させているかの統計的指標)が1を切っていますから」と肯定したのですが、東京もとっくにそれが1を切っていることには全く言及しませんでした。

この例のような「自分に都合の良い情報のみで語る」のが『チェリーピッキング』であり、典型的な詭弁、わかりやすく言うと『屁理屈』のひとつです。

私たちはこの他にもたくさんの屁理屈を、それこそシャワーのように浴びています。
それによって感じる怒りや不信感、不安感などが、今のストレスの大きな要因なのです。

ある「くだらない議論」

別の例でお話ししましょう。

自称「議論研究家」の私にとって、なかなか興味深いネタを提供してくれるTwitter。そこで先日も「くだらない議論」を見つけました。(なお、それぞれの発言は論旨が変わらない程度に私が編集しています)

発端は、ある男性編集者(Aさんとします)が「献本へのお礼を直接でなくSNSに流すのは、自分にはコネがあるということを言いたいだけとしか思えない。書物が社交の道具に貶められている」とツイートしたことでした。

その意見に反応したのが同業の女性編集者(Bさん)。「その解釈は狭量だ。本の情報がSNSで拡散されることに意味がある」と意見します。
するとAさんは、「情報を拡散して本の宣伝ができればいいという考えには同意しない。書くことは断念することであり、編集は捨てることであり、出版は閉じ込めることだからだ」と反論します。

ここまでは良かったのです。
メリットとデメリット、リスクとリターン。モノゴトには二面性がありますから、献本に対しても異なる意見が出てくるのは当たり前で、両者の意見にはそれぞれちゃんとロジック(理屈)がある生産的な議論です。

しかし、「出版とは閉じ込めること」に続けたAさんの次のような発言で、残念ながら「まともな議論」が一気に「くだらない議論」に突入します。

「そんなこともわからないんだったら、出版やめて、クッキーでも焼いてフリマで売ってろ」
このAさんの発言をスクリーンショットで引用し、Bさんが噛みつきます。
「こういう閉鎖的で性差別的な発言が感情的な口調で出てくるところが、ザ・日本の出版界ですね」

ここから先は……
はい、皆さんご想像の通りです。当初の論点である「献本お礼ツイートの是非」は置き去りにされ、以下のような「外野からの発言」が相次ぎ、「炎上」することとなりました。

「女性編集者とわかってのこの発言は明らかな性差別」
「性差別からくる発言だと俺は思わなくて、単純な職業差別だと思う」
「クリエイティブな行動すべてを蔑んでると感じた」
「クッキー馬鹿にしてるんですか? 謝罪してください」

もちろん中には「女性差別というより、商業ベースにのらない素人商売という意味合いだと思いますけどね」という冷静な意見もありましたが、概ねAさんへの感情的な批判が続きました。

私の個人的な解釈としては、Aさんは賞味期限の短い本を粗製乱造することのメタファーとして「フリマでクッキーを売る」と言ったのではないかと考えていますが、もしそうだとしても、うかつな発言であったことは確かです。

しかしながら、まともなやり取りを「くだらない議論」にしてしまったのはAさんだけの責任ではありません。

私に言わせれば、「どっちもどっち」です。

まず、Aさんの問題は何か。
「クッキーでも焼いてフリマで売ってろ」という、なかなかパンチの効いた一節に皆さん注目していますが、それ以上に問題なのが、その前の「そんなこともわからないんだったら」です。

これはつまり、「自分は正しい。お前は間違っている」ということの表明であり、他の議論でもありがちな「マウンティング目的の発言」に他なりません。これでは、相手が「見下された」と感じてヒートアップするのも当然です。

Aさんは、炎上した後で「これは文学と社会学の対立」と言い直しましたが、そうであればBさんとはそもそもの立脚点や視点が違うわけですから、そこを議論の中で「自分はこういう視点で」ときちんと説明すべきでした。(個人的には、文学と社会学というより文化と経済の対立だと思っています)

どちらにせよ、結局面倒くさくなってBさんをブロックしたわけですから、最初から面倒くさいことにならないよう、余計なひと言を加えずに、冷静に議論をすれば良かったのです。(あるいは最初からスルーするか)

次にBさんの問題。
これはもう「論点ずらし」であることは明白です。当初の「献本お礼ツイートの是非」という論点から、「性差別」へと論点をずらし、そこから「個人攻撃」と「業界批判」に持って行ったわけですね。
BさんがAさんの発言を性差別と解釈したとしても、そこはさらっと触れる程度にして、たとえば「編集は捨てること、というのが献本お礼ツイートとどう関係するのですか?」といったような相互理解を深める質問をすべきでした。もしBさんが相互理解を目指しているわけではないのであれば、最初のAさんのツイートへの反論も「議論する気などなく、単に噛みつきたかった」ということになります。

屁理屈に負けないために

さて、これはほんの一例です。
 
冒頭のコロナ関連でもお話ししたように、ネットだけでなくテレビなどのマスメディアでも屁理屈をこねくり回したヘイトスピーチやデマ(フェイクニュース)、そして組織や個人に対する誹謗中傷が蔓延しおり、それが日常的な「炎上」の要因となっています。

先にチェリーピッキングの例として紹介したコメンテイターも、参考にすべき意見はいくつも言っています。しかし多くの論者(専門家・一般人の別なく)の中には、勘違いや無知からくるトンデモ意見、そして悪質なデマや恐怖心を煽るだけのものまで、玉石混交の「言葉の洪水」に私たちは翻弄されています。
(正直、「27度のお湯を飲めばコロナの予防になる」というデマが拡散したのには不謹慎ですが笑ってしまいました)

これは「コロナ禍だから」というわけではなく、ネットワーク社会の否定できない現実です。

そして仕事の現場でも、パワハラにセクハラ、家庭ではモラハラといった、自分勝手な屁理屈によるハラスメントも、まだまだのさばっています。

そうした「屁理屈」に振り回されたくない。相手をだまし、押さえつけようとする悪意ある言葉に負けたくない。

そうした「今の時代に持つべき真っ当な危機感」をお持ちの方のために何ができるか。

今回、そのひとつの答えとした私は本を書きました。

たとえば、「今、ライブハウスが苦境に陥っています」という事実だけを伝えたSNSのツイートに対しての「命より音楽が大切なのか!」という批判は、典型的な『わら人形論法』という屁理屈です。

また、「○○先生が言っている」を根拠に意見を押し通そうとするのは『権威論証』と呼ばれる、やはり屁理屈の一種です。

こうした様々な屁理屈のパターンと、その見抜き方、そして対処法について私なりにアドバイスしています。

加えて、自分自身が悪気無く屁理屈を使わないためにはどうしたら良いのか、についてもご紹介しています。

すべてとは言いません。ご自分が「使える」と思ったところを、皆さんの仕事や生活に少しでも活かしていただければ、こんな嬉しいことはありません。

 

屁理屈に負けない! ――悪意ある言葉から身を守る方法』(桑畑幸博著、扶桑社)の序章に著者が加筆したものを掲載しました。無断転載を禁じます。

屁理屈に負けない! ――悪意ある言葉から身を守る方法
著:桑畑 幸博 ; 出版社:扶桑社 ; 発行年月:2020年5月; 本体価格:1,400円(税抜)
桑畑 幸博(くわはた・ゆきひろ)
桑畑 幸博
  • 慶應MCCシニアコンサルタント
大手ITベンダーにてシステムインテグレーションやグループウェアコンサルティング等に携わる。社内プロジェクトでコラボレーション支援の研究を行い、論旨・論点・論脈を図解しながら会議を行う手法「コラジェクタ®」を開発。現在は慶應MCCでプログラム企画や講師を務める。
また、ビジネス誌の図解特集におけるコメンテイターや外部セミナーでの講師、シンポジウムにおけるファシリテーター等の活動も積極的に行っている。コンピューター利用教育協議会(CIEC)、日本ファシリテーション協会(FAJ)会員。

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