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武山研究室プロジェクト紹介―都市生活におけるライフスタイル、コミュニケーション、メディア―

2007年06月12日

武山政直 慶應義塾大学経済学部准教授

1 武山研究会について

[1-1 研究分野とテーマ]
近年、経済の発展をもたらす価値は、多様な人々が集積し相互に触発し合う魅力的な都市から生み出される傾向が強まっています。本研究会では、価値を生み出す中心である都市を舞台に活躍する様々な経済主体の活動について、経済地理をはじめとする関連分野(建築学、社会学、消費者行動研究など)の分析手法を用いて研究を行います。


文化的経験価値の生産と消費の場として都市をとらえ、都市生活者のライフスタイルや消費行動、都市における商業施設や文化・アメニティー施設の立地や空間デザイン、情報メディアを活用したマーケティング等について、調査や分析、企画や政策提言を行ないます。研究の多くはプロジェクト型のグループワークによって進められ、企業や他大学との協同により実践的に行います。また、研究には各種の情報メディアを活かした表現やコミュニケーションの技法も積極的に取り入れています。
[1-2 研究会の特色]
本研究会では、学生も教授も「知的な快楽」を追求するということを信条にしています。それは、これまでアタリマエだと思っていたことが、突如そうでもないぞと思い始めたとき。今までまったく関係ないと思っていた2つの問題が、実は同じ問題であるのではないかと気づいたとき。そして、まだ誰も答えを知らないという問題に、自分が果敢にチャレンジしているとわかったときなどに得られるものです。
心理学の用語に「アハ体験」、「フロー体験」という言葉があります。前者は、人間が新しいアイディアを閃いたとき、それまでわからなかったことが「なるほど、そうか!」と思えたときの体験で、その瞬間には驚きと快感を覚えます。後者は、何かの課題に自分が夢中になり、我を忘れて取り組んでいるときの状態を指すもので、不安や気負いはなく、まるで心や身体が流れるように感じられると言われています。知的なセンスのある人、つまり学んだり研究することの魅力がわかる人間というのは、それらを通じて得られるアハ体験やフロー体験の快感を楽しんでいる人なのだと思います。
本研究会で学ぶ学生は、教室の中で夜遅くまで議論し合うだけでなく、街の中をくたくたになるまで観て歩き回り、ときには企業のビジネスパーソンたちを相手に研究発表をするかと思えば、夜な夜なインターネットの最新の情報世界とも戯れています。それらの多様な刺激や経験は、すべて知的なワクワク感に動機付けられているのです。もちろん、そんな楽しい経験に至るまでには、適度なプレッシャーやレベルの高い要求を乗り越えるための意欲や努力も必要となります。しかし、本研究会でそんな体験を一度でも味わった学生は、きっとその快感の虜になり、勉強や研究したくて仕方がない状況へと追い込まれることでしょう。

2 研究プロジェクトの紹介

武山研究会では2006年度に『街歩きプロジェクト(中央公論新社)』『ニュース受容実態調査プロジェクト(共同通信社)』『携帯電話販促効果調査プロジェクト(KDDI)』『携帯GPS使用調査プロジェクト(KDDI)』『映像・ビジュアル研究プロジェクト(KDDI)』『携帯ゲーム調査プロジェクト(KDDI)』の6つのプロジェクトをたて、研究に取り組んできました。以下にその活動情報を掲載します。
[2-1 街歩き班]
(1)目的と目標
街歩き班では、「今までとは違う新しい街歩きのスタイルを提案すること」を模索しています。具体的には、中央公論新社から発売予定の街歩き本『東京2時間ウォーキング銀座・日本橋編』と連動したウェブサイト(映像・テキスト・オンライン投稿などを内容としたもの)を作成しています。街中で視聴されることを想定した、携帯メディア(携帯電話・Podcast)を用いた街歩き用コンテンツの作成にも力を入れており、様々な街歩きスタイルの可能性を探っています。
(2)活動内容
基本的な活動の動きとしては、サブゼミでミーティングやコンテンツ作成を行い、本ゼミで発表するというスタンスをとっています。銀座・日本橋に足を運んでの映像撮影や、著者と一緒に街歩きを体験するといったフィールドワークの実施、試作検証のためのワークショップの開催・出版社との打ち合わせが主な活動内容になります。
(3)この研究にかかわって
一般的に、出版物というものは、「そのものだけで完結し、それ単体で満足のいくもの」として存在してきたように思います。しかし、たとえばヒットした漫画がドラマ化されることや、人気アニメがゲーム化することは、単なるメディアミックスという意味だけではなく、その作品の持つ世界観を拡張するという役割を担っているといえるのではないでしょうか。それは街歩きを題材とした書籍にも当てはめることができます。このプロジェクトに関わり、それぞれの書籍の持つ世界観を拡張するための他メディアによる補完は非常に有意義であると気づかされました。
[2-2 ニュース班]
(1)目的と目標
ニュースプロジェクトは、社団法人共同通信社との産学協同研究で、ニュースを「消費」するという新しい解釈のもと、「若者のニュース消費実態調査」と「ユビキタス時代のニュースビジネス」の2本を柱に研究活動を行っています。前者では若者のニュース消費実態を探り、ニュースの消費において今後重要となるであろう小さなムーブメントをキャッチすることを目標としています。後者では、最新技術に触れながら未来のニュース消費スタイルを考え、それらを実証的に評価することを目標としています。最終的にはそれらをもとに将来のニュースメディアや、理想的なニュースの電子化の形を構想できるという信念を持って活動しています。
(2)活動内容
前期はマクロ的な視点からニュース消費者の基本行動を探るため、アンケートやグループインタビューなどのマーケティング調査手法を用い、体系的な研究スタンスでの活動を行いました。更に後期はミクロ的な視点から、若者がニュース消費をした際に得られる経験価値を日常生活から見つけ出して分類・系統付けするという事象的な研究スタンスをとって活動しました。また、昨年の11月にはSFCオープンリサーチフォーラムを舞台に、電子ペーパーやRFIDタグ等の最新機器を用いた新しいニュース消費スタイル企画の実証実験を行いました。
主な活動は本ゼミ・サブゼミの時間に行っていますが、それ以外にも必要に応じて作業日を設けています。共同通信社を含むいくつかの企業との打ち合わせや、企業に向けた研究報告会、イベント出展など、学外との交流の機会も非常に多いです。
(3)この研究にかかわって
メンバーの志気が高いことが最大の特徴だと思っています。ニュースについて真剣に議論を交わしたりお互いに情報交換をしたりする事で、ニュースに限らずあらゆる情報に敏感に反応できるようになりました。また、企業の方々から業界の最新情報や業界の抱える色々な事情を聞く機会が豊富にあるので、様々な刺激を受けながら研究を深める事ができるのも魅力の一つです。
[2-3 販促効果班]
(1)目的と目標
販促効果班は、KDDIと協同でケータイコンテンツの広告や販売促進についての研究を行っています。前期はケータイに限らず様々な広告・販促活動について研究してきましたが、後期はauの強みであるケータイ向けコンテンツ(ゲーム・着うたetc…)の販売方法・宣伝方法を、自分たちを被験者にして検証していく体験型のスタイルで調査していきました。
(2)活動内容
主に大学生を対象としたインタビューやアンケートを実施したり、街でフィールドワークをしたりすることで、街中に溢れる広告や販促活動を客観的に見ています。また、自分たちの日常の携帯電話利用スタイルを、生活日誌法等の手法を用いて調査しています。調査から現状のコンテンツ広告・販促の問題点を抽出し、ライトユーザーへの新しいアプローチ方法を模索していきます。
(3)この研究にかかわって
我々の身近なものである広告というものを客観的に捉えることで、その広告の狙いや様々な効果を知ることができ、人の感じ方の共通点、或いは相違点を知ることの楽しさを得ることができたと思っています。
[2-4 GPS班]
(1)目的と目標
「あなたは知らない街で何を頼りに歩きますか?」「どんなとき、知らない場所に行きたくなりますか?」
GPS班ではKDDIとの産学協同で《都市における位置確認情報》に関する研究を行なっています。2007年から3G携帯電話にGPS機能搭載が義務化されることになりましたが、先んじてGPS機能を搭載し拡充に取り組んできたKDDIの協力のもと、auの携帯電話端末のGPS機能を利用して研究を進めています。GPS班は「人はどんな目的で、何を目印に、どのような手段を利用して街を歩くのか」という問題意識のもとで、「知らない街でも迷わずに目的地に着くための方法」と「知らない場所に赴くきっかけ」を探るとともに、ツールとコンテンツという二面性をもつナビゲーションシステムの構築を目標に掲げています。このテーマは一見とてもシンプルですが、実際の人々の生活と親和性の高いナビゲーションシステムを考えることは、これからの都市における人々の消費活動を活発にする大きなヒントとなるだけではなく、人々の生活を豊かにすることを考えるのに等しいのです。
(2)活動内容
携帯電話端末のGPS機能の利便性を高めるツールとしての面と、楽しさを拡げるコンテンツとしての面の2つの柱を立て、既存サービスの改善や新サービス提案はもちろんのこと、サービスのPR方法も考えながら研究を進めています。利便性を高め、現時点で考えられる最も便利なナビゲーションツールを構築するため、日々GPS機能を利用して過ごした生活の記録をつけたり、地図・ナビの一般的な利用のされ方を把握するアンケートや、auユーザー対象のインタビューなどを行っています。楽しさを拡げるためのナビゲーションコンテンツとしては、SNSやWEB・TV・雑誌など他(多)メディアを取り込んだ、”ワクワク”して使ってもらえるようなサービスを発想し、トライアウトのためのニーズ調査を行っています。
班のメンバーが集合するのは基本的に週2回の活動ですが、それ以外の時間には作業を分担して行っています。実際に必要な作業の他にも、現状のナビゲーションシステムの理解には、日々のGPS機能の利用は欠かせません。また日常的に《感度の良いアンテナ》を立て、都市におけるナビゲーションシステムや地図に関することは、常に最新の動向をチェックしています。KDDIへの研究報告会は1年を通じて3回実施します。私達の普段の研究をビジネスの第一線で活躍されている方々にプレゼンテーションし、フィードバックをいただけることは、とても良い経験となり私達の財産となっています。
(3)この研究にかかわって
GPS班の研究テーマは普段の生活にとても密着したものであるため、多くのヒントが何気なく過ごしている日々の中に存在し、それらに出会う度に胸の高鳴りを感じます。GPS機能を利用した位置情報の確認は、まだまだ改善の余地や多くの可能性を秘めた分野であるため、ユーザーの視点に立って(もちろん少しだけビジネスの視点にも立って)、この研究を進めることは「今を見つめ直し未来を考える」ことでもあります。私達の研究がいつか多くの人の目にふれる日がくるとしたら、それはきっと便利で楽しい未来のことだと思います。
[2-5 映像班]
(1)目的と目標
KDDI映像班は、KDDIと産学協同で、主に『ワンセグ』についての研究をしています。『ワンセグ』とは、簡単に言えば「携帯機器での視聴に適した地上デジタル放送」の事です。今までのアナログ放送に比べ、よりクリアな映像を楽しめるようになっただけではなく、通信利用による双方向性サービスが話題を呼んでいます。この『ワンセグ』という新しいメディアと大学生のライフスタイルのマッチングポイントを探るとともに、より魅力あるメディアにする為の新規サー ビスを提案するのが私たち映像班の研究目的です。
(2)活動内容
大学生の(テレビを中心とした)映像視聴の現状把握を目的とした調査を行ったり、『ワンセグ』の特性を生かすコンテンツを日々考えています。時には、展示会に足を運んで業界最先端の技術に目を向けるなど、視野を広く持ちながら研究しています。
基本的には週2回ですが、適宜ミーティングを設ける為、フレキシブルな対応を求められます。また、7月・10月・2月にはKDDIに対する研究報告会があり、重役の方々からも意見を頂けるほか、最終報告会は表参道にあるスタジオで行われるなど、非常に貴重な経験をする事ができます。
(3)この研究にかかわって
『映像』は現代社会におけるキーワードの一つと言えます。このプロジェクトに関わった事で、『ワンセグ』を切り口に『映像』という幅広い領域を学べました。その点は非常に幸せだと感じています(簡単な映像編集も出来るようになりました)。
[2-6 ゲーム班]
(1)目的と目標
ゲーム班ではKDDIとの産学協同での研究を行っております。実は携帯電話でゲームしています、という人は多いのではないでしょうか。話題のニンテンドー DSや次世代ゲーム機だけでなく、ケータイゲームもいま相当アツイのです。しかし、ケータイゲームがどのように楽しまれているのか、いまいちイメージが浮かばない、というのが現状だと思います。このプロジェクトでは、そんなケータイゲームへの人々の接し方を、特に大学生を対象としたアンケートやグループインタビュー、自ら様々なゲームを体験してのレビュー、また時にはゲームを提供している会社にヒアリングを行うなど、実践的に探っています。ユーザーの視点を活かして、より魅力的なケータイゲームのあり方の提案を行うことを研究目標にしています。
(2)活動内容
週2回のゼミ活動に加えて、各自で調査に必要な時間を確保して、研究活動を行っています。また、KDDIの社員の方も交えた報告会を7月・10月・2月の年3回設けており、そこで随時研究成果を発表します。
研究活動としては、アンケート・グループインタビューなどを独自に行う消費者意識調査や、東京ゲームショウ2006の視察などを行ってきました。特に東京ゲームショウでは、ゲーム業界の最新の動向に触れるとともに、会場のゲームソフトベンダーの方々と意見交換を行うといった実地調査を中心に活動してきました。11月以降は、より具体的・効果的かつ実現可能性の高いコンテンツ提案をするべく、よりターゲットを絞って調査を行う予定です。
(3)この研究にかかわって
メンバー全員が「ゲーム」についてはそれぞれ全く違った背景を持つため、はじめはそれぞれの問題意識を共有することができるか心配だったのですが、いまでは各自の興味関心が引き立てられ、結果としていい”味”がでてきています。知的な好奇心さえあれば、たとえゲームであろうと”研究”として挑めることも分かりました。

3 2007年度の研究テーマ

2007年度は下記のテーマを中心に研究活動を進める予定です。

  • 都市生活者のライフスタイルおよび消費行動の調査と分析
  • アートや音楽等の文化的ビジネスによる都市地域経済の再生
  • 商業店舗や施設、文化・アメニティー施設の立地とマーケティング分析
  • モバイルメディアを利用した都市フィールドワークや教育研究手法の開発
  • 携帯電話やインターネットの新規コンテンツやビジネスの企画提案
  • 情報メディアに関する意識・行動調査

「慶應義塾大学 武山研究会」Webサイトhttp://keglab.jp/ より、著者の承認の上、編集転載

武山政直 (たけやま まさなお)
慶應義塾大学経済学部准教授
1988年慶應義塾大学経済学部卒業、1990年同大学院経済学研究科修士課程修了、1991年 University of California at Santa Barbara留学(Ph.D.取得)、1994年慶應義塾大学環境情報学部助手、1997年武蔵工業大学環境情報学部助教授、2003年慶應義塾大学経済学部助教授。

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