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人脈のできる人

2010年10月12日

高田 朝子
法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科准教授

人脈って何だろう?
 本書『人脈のできる人』は、人脈を持ちたいと思うがどうしてよいかわからない、または人脈という言葉は何とも胡散臭いが、一方で興味がある、というビジネスパーソンに向けて書かれている。しかし、どうしたら人脈を増やせるかという具体的なノウハウについては重点を置いていない。冒頭から恐縮だが、その種の即効性のあるノウハウを求めている読者諸氏は、ほかの本をあたったほうがよいかもしれない。基本的には、「早い、簡単、うまい」で成立する人脈は存在しないだろうと考えている。ビジネスパーソンが読んですぐそのエッセンスを真似して「万人がお手軽に作ることができる人脈」に、さほど価値があるとは思えない。
 本書では人脈の基本的な構造について考える。人脈ハウツー本が料理のレシピ本だとしたら、本書は料理の素材についての本だ。人脈がどのようにして作られていくのかを知ることによって、それを読んだ読者が、自分の置かれている状態や、自分自身の考え方に応じてカスタマイズし、自分なりの戦略を構築していけばよい、というのが基本姿勢である。


読者は単なるレシピの実践者ではなく、シェフとしてオリジナリティのある料理を作り出すことが求められている。人脈の成り立ちを知ったうえで、自分なりの人脈の作り方をじっくりと考え、実践してもらいたいと思う。
 人脈という言葉は一種のマジックワードだ。本来、人脈は「人と人のつながりによってできるネットワーク」を意味するが、一般に「人脈のある人」と言うと、実力者にすぐにアクセスできる人、あちこち顔が広い人といった意味合いになる。そして、それは仕事がデキる人と同じ意味だと思われがちなのだ。しかし、人脈のある人イコール実力がある人とは必ずしも限らない。「顔が広いけど、それだけの人」「どこにでも顔を出して、話に首をつっこむ人」などと陰口をたたかれている人は、読者の周りにも一人や二人はいるだろう。もっとも人脈がある人が実力者である確率はそうでない人より高いかもしれないが。また、単に飲みに行くことを「人脈作り」と豪語する人もいる。「私の人脈は飲みにいくことで形成された」と言い切る人もいるが、実際に相手がその人のことを人脈と思っているかは、また別の話だ。
 人脈があるかないかについては、二方から評価される。他人の目と自分の目である。他人から見て「あの人は人脈がある」と評価される場合は、その人が誰かを知っていたことで恩恵を得たという結果がまずあって、そのあとに評価されるというステップを踏むのが筋だろう。そうした事実や実績を積み上げて「人脈がある人」と評価されている人もいるはずだ。しかし多くの場合、ただ「なんとなく、いろんな人を知っていそうな人」を「人脈がある人」と思い込むことや、一度恩恵を受けただけで、いつまでも「あの人は人脈がある」と崇め続けてしまう場合、そして「自分はいろんな人を知っている」とアピールする人を人脈があると評価することが多いのではないだろうか。
「オレは人脈がある」と自負する場合は、本人の持つ期待の話になる。どの程度の強さと、どの程度の広さのつながりのことを人脈と言うのかについて決まった定義はなく、個人の解釈による部分が多い。「あなたは私の人脈です」、という証明書が出るわけでもないので非常に曖昧だ。そしてこの曖昧さこそが、人脈を「なんだかよくわからない」ものにしている原因なのだ。
 筆者が人脈について最初に興味を持つようになったのは、投資銀行に勤めていたときである。ただ単に人と会うのと、誰かの、それも有力者の紹介で会うのとでは、扱いに天と地ほどの差があった。その後、ビジネススクールの教員になって、学生(と言っても平均年齢三五から三七歳のビジネスパーソンたちである)とディスカッションをしていると、彼らは人脈を持つことの重要性を感じていながらも、どうしてよいかわからずにいること、そして、多くの人が自分の人脈について不満や不安を持っていることがわかった。そこで人脈本として出版されている多くの本を手当たり次第に読みあさったが、どれもあまり具体的なハウツーが満載されすぎていて、それゆえにその本が対象としているスペックからはずれた人間には役に立たないように感じた。自分の経験からも、人脈作りの具体的な方法をたくさん調べてそれを模倣しようとするよりも、人脈の構造を知って自分に合った方法を作り上げたほうが、長い目で見て役に立つのではないかとも思った。こう書くと、筆者が世間一般の常識からはずれているから合わないのだ、という至極もっともな「つっこみ」が飛んできそうではあるが。
 人とどのようにしてつながるのか、そしてそれをどのようにしてビジネスにつなげるのかと考える作業は、非常に興味深いものだった。多くの人々の協力を得てこの本を書き上げることができて幸せである。インタビューに応じてくださった企業の方々、医師の方々に心から感謝申し上げる。
よき人脈を作るために
 人脈の構造は、有能なビジネスパーソンの主要な能力と考えらてきたが、その構造についてはあまり焦点を当てられてこなかった。人脈は財産である。しかし、この財産の作り方、殖やし方は人それぞれであってよい。筆者は、人脈の「構造」をとらえることが、有用な人脈を作るための足がかりになるはずだと考えている。構造を知り、各自が置かれている環境や自身の性質などさまざまな条件を鑑みて、自分に合った人脈作りの方法を考えていくことを勧めたい。
 慶應義塾元塾長の小泉信三先生は「人生において万巻の書を読むより、優れた人物に一人でも多く出会うほうがどれだけ勉強になるか」という言葉を残している。そして人と出会うこと、つながることがいかに重要であるかを繰り返し述べている。もう一度、言おう。人脈は財産である。人とともに過ごし、人の叡智を借りたり、人に知恵を与えたりすることは、人生を豊かにする。
 人脈の構造を知ることによって、人とどのようにつながるかという自分に合った戦略を立てることができる。自分が置かれている環境によって、人脈の構造方法は人それぞれだからだ。また、複雑化した社会で、すべてを自前でまかなうことなどできないのは、企業も同じである。多くの人と協働作業で新たなものが生まれ、そこから新しいビジネスが始まる。適切な時期に適切な人と知恵の交換ができることで、自身の、そして自社の可能性は大きく広がるのだ。
 本書が、人脈を作りたいと考えている人の一助となれば幸いである。

※高田朝子著『人脈のできる人 人は誰のために「一肌ぬぐ」のか?』の「はじめに」より著者の許可を得て転載。無断転載を禁ずる。

高田朝子 (たかだ あさこ)
法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科准教授
慶應義塾大学大学院経営管理研究科 ビジネス・スクール非常勤講師
慶應MCCプログラム「強い組織をつくるリーダーシップ」講師

モルガン・スタンレー証券会社勤務をへて、サンダーバード国際経営大学院国際経営学修士(MIM)、慶應義塾大学大学院経営管理研究科経営学修士(MBA)、同博士課程修了。経営学博士。専門は危機管理、組織行動。
著書に『危機対応のエフィカシー・マネジメント -「チーム効力感」がカギを握る-』、『組織マネジメント戦略 (ビジネススクール・テキスト)』(共著)、『ケース・メソッド入門』(石田英夫編さん)、『人脈のできる人 人は誰のために「一肌ぬぐ」のか?』がある。

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