2013年08月13日
『やれば得する!ビジネス発想家事』
ももせいずみ; 出版社:六輝社; 発行年月:2009年5月 ; ISBN:978-4897376363; 本体価格:1,365円
書籍詳細
「ビジカジ」。
ファッション用語ではない。「ビジネス発想家事」=「ビジ家事」、である。
仕事の方法論を、閉じられた世界、家事に適用することができるのだ!
私に大きな価値観の変化をもたらせてくれた一冊である。
この本を手にとったのは4年前、2人目の子供の産休から復職後まもなくの頃だった。複数の子供を相手に家事を組み立てるには、従来の考え方の延長では限界があるなと感じていた。なにかよい方法がないものかと気楽な気持ちでこの本を手にとったのだが、単なるハウツー以上の目から鱗の発想転換になった。
著者は、家事とは「暮らしの中の仕事」である、と言い切る。
家事を「日々の暮らしのマネジメント」として捉え直し、「もし自分が家庭という職場の管理職ならどう考えるか」といった視点で、自分の労力と時間、コストに見合った最適な手段を選択してみてはどうか、と著者は提案する。
これまで私が読んできた家事をテーマとした本は、女性向けで、時短レシピ、片付け、掃除技術などひとつひとつの作業を切り出してそのノウハウを伝える内容ばかりだった。しかし、そもそも家事の主体者は、妻や母であると前提にしていることがおかしいのではないだろうか。本著は、性別や役割を限定せず「社会で実績を積んだ人」を対象にし、家事を「職人的技術論」にとどまらせず、「暮らしの中の仕事」として全体を見渡すマクロの視点で書かれているところに、これまでの多くの本のアプローチとの違いがあって、面白い。
ビジ家事の基本は6つ。
1.作業環境を整える。
作業環境の見直しをはかり、効率のよい環境を整える
2.リストラする。
無駄な作業をリストラクション(再構築)する
3.設備投資をする。
費用対効果を考え、有効な設備を検討して導入する
4.アウトソーシングを取り入れる。
労働対価を見据えて、必要な外注を検討する
5.適正な在庫管理を行う。
余剰在庫を抱え込まずに、効率よく物が流通する土壌を作る
6.時代を読む
今の時代だからこそ求められる価値観を積極的に取り組む
ビジネスの現場では当たり前の事を家の中でどのように展開するのか。具体的な内容が紹介されている。
1.作業環境を整える
これを第一項目に据えたのは、「動線」と「道具」が作業効率を一番大きく左右するからだという。製造業の現場では作業の良い作業動線を作ることが生産性に大きくかかわる、オフィスでも、書類やデータをどう管理するかで仕事の効率は大きく変わる。では、家の中ではどうだろうか。
まずは、道具配置の三原則。
(1)よく使う場所から5歩以内
(2)平行移動で手に取れる
(3)2プロセス以内で取り出せる
あらためて言われるほどのことではないと思われるかもしれない。しかし、実際の場面では、三原則に即していない状態にある点が多々あることに気づかされる。
我が家での状況を思い返し、道具配置を試みてみた。
たとえば「掃除機」。従来は、想定されたマンションの収納場所においていた掃除機を上記三原則に則り食卓の近くに置き換えた。すぐに掃除ができるため、子供たちの食べこぼしが気にならなくなった。
次に「洗濯」。毎日毎日、5人分の洗濯物を洗っては干し、干してはたたんで、しまう。夜明け前に一人もくもくと洗濯物をたたんでいると、一昨日もこれをたたんだなあと思う。子供たちのたんすをベランダに一番近いリビングに持ってきたところ、畳んだそばからしまうことができるので、作業動線が極端に短くなった。
3.設備投資
もう一項目紹介しよう。今やあらゆる家事実用書で食洗機や自動掃除機などを取り入れる設備投資は語り尽くされているが、本書では、大型設備をいれる前に、道具選び三原則+配置三原則(第一項目)による、無敵の環境の作り方を提案している。この三原則をつかうことで「面倒」や「手間」という感覚がなくなるのである。
道具選びの三原則とは
(1)手で使える。
(2)手が汚れない。
(3)出しっぱなしにできるデザイン。である。
実際に動線変更や道具の変更に伴って得たものは、作業時間や手間の軽減だけではない。いつも清潔である、いつも片付いているという状況が創り出され、家事の中にある体と心の心理的負担感を軽減させる。日常の風景を今までの「伝承と経験の知恵」という視点から「ビジネス視点」で見直すだけでも、物理的・心理的に大きな変化を得られる効果を実感した。
ところで、合理化を進める時に、私たちはよく「手間と時間をかけることに意味のあるものもたくさんある。何でも合理化すればいいというものではない。」という壁にぶつかる。著者はこれに対してビジネス視点での見極めポイント「ゼロ地点家事発想」を提唱している。
家事には、マイナスをゼロ地点に戻す家事と、プラスを生み出す家事の2種類がある。
マイナスをゼロ地点に戻す家事とは、「マイナスに転じた状態(汚れる・散らかる・食べてなくなる)を、洗う、片付ける、買い物をするといった方法で元の状態に戻す作業「元の状態=ゼロ」の仕事をいい、2つ目のプラスを生み出す家事とは、「おいしいシチューを煮込む」「パリッとシーツにアイロンをかける」など暮らしに付加価値を生み出す仕事としている。
仕事と同様、家事も手間をかける場所とかけない場所の見極めが重要であり、合理化すべきはマイナスをゼロ地点に戻す家事である。ゼロに戻す労力を最小限にした上で、そこで生まれる時間や気持ちのゆとりを、より自分にとって生産性の高い家事に向けることが重要なのだ。
私は、ビジネス発想の枠組みで見直したことで、これまで家事を、慣れや経験で無意識におこなっていたことにあらためて気づいた。枠組みがあると現状の方法論を客観的な視点で見ることができる。従来の個々の技術論ではない、「暮らしの仕事」として大きな枠組みで捉えることで、効率的な家事として効果を発揮しやすいし、家事の変化を促すことができると感じた。まさしく、家事とは、「暮らしの中の仕事」なのである。
(前田 祐子)
『やれば得する!ビジネス発想家事』 ももせいずみ(六輝社)
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